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note32: マンダレー(2011.6.8)

【連載小説 32/100】

ヤンゴンからインレー湖を経てマンダレーへ。
ミャンマーの旅は驚きや発見と共に続いている。

魅力的な土地を転々と巡る旅の中で、想像力による「時空の旅」にも出かけてみよう。
主人公は「未知なる国を初めて訪れた旅人」。
舞台は19世紀末の日本と21世紀初頭のミャンマーの二本立て。

【物語①】の主人公は江戸時代から明治へと大きな変革を遂げた東京の街を訪れた西洋人。
徳川260年の歴史に支えられた東京の街を見て、まずはこんな風に驚く。
「鎖国して異国との交流が限られていた極東の島国にもこんな街があったのか…」

ところが東京の人がこう旅人に薦める。
「トクガワ家が築いた江戸(=東京)の街もすごいけど、この国を統一したトヨトミ家の大阪の街も訪ねてごらん」

そこで大阪の街を旅した西洋人は感動する。
「“経済”の中心地として活気溢れる大阪は楽しい街だ。おまけに300年も前から栄えているなんて…」

すると大阪の人が言う。
「日本の歴史をもっと知りたいなら、お隣の奈良と京都も見るといい。“平城京”や“平安京”という都があったから、今もたくさんの歴史的建造物が残っているよ」

そして、それらを巡った西洋人は確信する。
「1000年レベルの歴史と文化が旅する先々で待っている。この国は奥深い…」

【物語②】の主人公はミャンマーを旅する21世紀の僕。
インドシナに存在する歴史深き未知なる国のことを、文献を通じて多少は知っていたが、実際にそこを訪れてみておおいに驚かされることになる。

まず、国の玄関口ともいえる南部の街ヤンゴンに入り、黄金の仏塔群とそこに暮らす敬虔なる仏教徒に感動する。

北へ移動して美しいインレー湖を抱く高原を訪れると様々な少数民族が暮らし、自然とバランスを保ちながら生きている様を見て、失っていた“何か”を取り戻せたかのような気分になる。

そして、訪れたのが19世紀半ばに英国の植民地となるまで“最後の王都”として栄えたマンダレー。
転々と遷都が繰り返されたことから周辺にも幾つかの都が残り、次々に登場する王宮や仏塔・僧院を前に感動が止まない。

この先も旅を続くのだが、ここまでの体験で僕は確信する。
「1000年レベルの歴史と文化が旅する先々で待っている。この国は奥深い…」


そんなマンダレーに移動した昨日、最初に訪れたのがアマラプラという町。

国際空港からマンダレー中心部に向かう途中で立ち寄った小さな町で、かつては都になったこともあるらしいが、主要な建造物が遷都によって運び出されたり地震被害を受けたりしたことで、今はのどかな観光地になっている。

エーヤワディ(イラワジ)川とタウンタマン湖にはさまれた半島のような町で、ちょうど夕方に訪れたこともあって湖に掛けられたウー・ベイン橋という長い木製の橋がシルエットになる美しい夕焼けを見ることができた。

橋の周囲では手漕ぎの船頭が案内する遊覧船に乗ることもでき、西洋人のツーリストたちが小舟の“サンセットクルーズ”を楽しんでいた。

誘われるままに僕も小舟に乗って夕陽を見たが、そこに吹く風や流れる時間の穏やかさと共に、生涯忘れられないサンセットシーンになると思う。

ちなみに、このアマラプラは「不死の町」を意味するらしい。

インドシナの奥地で小舟に揺られる浮遊感と共に見る夕陽。
その光景は「現世」でもなく「天国」でもなく、双方をつなぐ「永遠(=不死)の楽園」だったような気がする。


>> to be continued

※この作品はネット小説として2011年6月8日にアップされたものです。

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