とある女子大生との出会い

「私お金ならあるんだよね。ソープで働いているから」

20歳だという彼女は前を向いたま呟いた。
自慢とも嘆きともとれない声色で続けて話し始める。

「飼われたいバンドマンがいたら紹介して。童貞の子で」

歴代の彼氏はギタリストやドラマー。
バンドマンにしか魅力を感じないぐらい歪んでしまったと彼女は笑いながら話す。

薄紫のアイシャドウに品のいい口紅。
曇り空に浮かぶいくつかの街灯に照らされた横顔は綺麗だった。

ふらふらと歩く彼女の悲しみに触れた気がした。

認めてほしい。理解してほしい。
繋ぎ止めるものはお金だけ。
寂しさを埋めてほしい。

押し殺した悲鳴。
壊れてしまいそうな器。
一吸いしただけのショートホープを地面に落としLINEの画面を気にしていた。

「幸福な家庭はどれも似たものだが、不幸な家庭はいずれもそれぞれに不幸なものである。」(トルストイ 岩波文庫 1989)

僕たちはよく、「昨日のことは忘れたし、明日のことはわからない」とふざけて言う。
そんな言葉に彼女は笑った。
「羨ましい」
会話の中で初めて本心に触れた気がした。

僕は彼女を知らないし、今後も知ることはないだろう。
しかし、その細い足では耐えきれないであろう何かを背負っているのを感じた。

ちなみに酔っ払っていないのにおぼつかない足取りは精神的に危険な状態らしい。

危うさを抱えたまま、迎えにきたであろうヒモと少し距離を空けて去っていった。

信号を渡り、姿が見えなくなっても、乾いたヒールの音が耳に残っていた。


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