珍獣パパパンツ星人
泣き声が聞こえた。かなり大きい。
時折混じる「のなの!」は、自分の所有物だと主張する叫び。
最近増えてきた喧嘩。
今朝も賞味期限切れのヨーグルトをママが食べて激しく「のなの!」していた。朝の続き?
扉の前で様子を探る。
一転、無言が続いた。珍しいパターン。中を覗くと――
二人、黙々と煎餅を齧っていた。
嫁姑の冷戦シーンならよくあるが、母と四歳息子だと奇妙。
空になった息子のコップに麦茶を注ぎ入れているときも、無言。
相当の喧嘩か。
一旦自室に戻る。場の空気を変えるぐらい明るく行くのがいいだろう。昨晩盛り上がった「パパパンツ星人」はどうか。奴は二人の力を合わせないと倒せない怪物。今こそ二人に。
タンスからパンツを取り出し被る。
姿見に映った自分に躊躇したが、母子の危機だと勢いつけてリビングへ。
「好きだよ」「ママも好きだよ」
一転、抱擁しあう二人を見て、自分の勇み足に気が付く。
麦茶のペットボトルの「鶴瓶さん」だけが、私に微笑みかけていた。
煎餅と親子げんかの麦茶かな
(せんべいとおやこげんかのむぎちゃかな)
【季語(夏): 麦茶】
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