正反対でも、わかりあえる。僧侶が読み解く映画『グリーンブック』
「仏教と関わりがある映画」や「深読みすれば仏教的な映画」などを〝仏教シネマ〟と称して取り上げていくコラムです。気軽にお読みください。
第78回 映画「グリーンブック」
ピーター・ファレリー監督
2018年アメリカ作品
実話に基づいた物語です。時は1962年。ニューヨークの一流ナイトクラブで用心棒を務めるトニー・リップは、ある日、ピアニストのドン・シャーリーの運転手を任されます。トニーはイタリア系白人で、教養も品もなく、黒人への差別意識を持ちながら、腕力と達者な口で世を渡ってきました。ドンは黒人ですが育ちはよく、天才的な演奏技術を持ち、豪華な住まいでひとり暮らしをしています。
2人は1台の車に同乗し、黒人差別の強いアメリカ南部へ演奏ツアーに出ます。黒人専用施設を紹介する旅行ガイド(グリーンブック)を頼りに。
南部での黒人差別は2人の想定を超えるものでした。それに驚き反発して暴力をふるったトニーをドンは非難します。それに対しトニーは「あんたはいい暮らしをして黒人の実際を何も知らないじゃないか。俺は裏街で生きてきた。俺の方がずっと黒人だ」と言い放ちます。それを聞いたドンはやるせない思いを吐き出しました。「私は城で独りだ。白人たちは教養人と思われたくて私の演奏は聴く。でもステージを降りた私はただの黒野郎扱い。それが白人社会だ。その蔑視を私は独りで耐える。黒人社会にも私の居場所はない。白人でもなく黒人でもなく、まともな男でもないなら、私はいったい何者なんだ?」
トニーが鬱屈を、ドンが底知れぬ孤独を打ち明けたことから、2人の間の壁はたちまちに崩れていきます。ドンの心の鎧も、トニーの偏見も、解かれていきます。
仏教が導く世界は「差別からの解放」です。それは、差別をされている者にのみ訪れるのではありません。差別をしている者をも解放することを志向します。差別は、差別者と被差別者双方のいのちを深く損ないます。そこからの解放の鍵は「聞く」と「語る」にありそうです。
松本 智量(まつもと ちりょう)
1960年、東京生まれ。龍谷大学文学部卒業。浄土真宗本願寺派延立寺住職、本願寺派布教使。東京仏教学院講師。
自死・自殺に向き合う僧侶の会事務局長。認定NPO法人アーユス仏教国際協力ネットワーク理事長。
※本記事は『築地本願寺新報』に掲載された記事を転載したものです。本誌やバックナンバーをご覧になりたい方はこちらからどうぞ。