プラネタリウムへ行こう|掌編小説
顎が外れるんじゃないかと思うほどの大あくびをした。デートにプラネタリウムを選んで正解だった。暗いからあくびをしてもバレない。
宇宙とか星座なんぞに興味はないが、端の方でナレーションを担当しているお姉さんが綺麗なので、これはこれでいい。
――ああ、眠くなってきた……。うん、寝よう。
・・・
・・・・
・・・・・
……さま。
お…………さま。
……お客様。
「……ん?」
目を開けると、ナレーション担当のお姉さんがいた。
「……あれ?」
座ったまま首をくるくる回して周りを見ると、誰もいない。
「お連れの方、もう帰られましたよ?」
「ああ……そうですか……」
大きく伸びをしてから、ゆっくり席を立つ。
「ケーキでも買って、ちゃんと謝った方がいいですね」
「そう……ですね。ははは……」
お姉さんはにっこりと笑い、「お気をつけてお帰りください」と言って背を向けた。ストレートの、肩にかかった栗色の髪が揺れている。
――また来ようかな。
ニヤついているのを自覚しながら彼女に電話で謝る。
「ナレーションのお姉さんに起こされちゃって……」
「はぁ? ナレーションは男の人だったけど」
「そんなわけないだろ」
入口の壁に貼ってある案内が目に入った。
『本日のナレーションは和田賢治が担当します』
――え?
お 気 を つ け て お 帰 り く だ さ い 。
耳元で女性の声がした。
俺は転がるように、プラネタリウムをあとにした。
(了)
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