忍者ラブレター|毎週ショートショートnote
「前職は……忍者?」
「左様でございます」
「特技は諜報活動、暗号作成、暗号解読、暗殺……」
救いを求めるように社長を見ると、社長は目を閉じ、腕を組んでいた。
――任せた。
そういう意味だろう。
数多くの採用面接に立ち会ってきたが、このケースは初めてだ。
「うーん……」
僕は中途採用の面接に来た女性を見た。見た感じはビシッとスーツを着た普通の女性だが、元忍者ということは、変装している可能性もある。ちなみに、当社は履歴書に性別の欄を設けていない。
「前職は国の機関に所属していたんですか? 警察とか公安とか」
「いいえ、民間企業です。恋文の執筆を代行する部署におりました」
「面白い業務ですね。詳しく聞かせて頂けませんか?」
「恋文と言っても、いわゆる暗号文です。文面だけ見れば普通の恋文ですが、内容は仕事に関するものですね」
「例えば?」
離れていても、いつもあなたのことを想っています。
3日後、一緒に空を見上げましょう。
月の光が、私達を優しく包んでくれます。
「この恋文は『3日後にターゲットを殺る』となります」
「なるほど。つまり『暗殺』というのは、会社の業務命令ということですか?」
「はい。証拠は一切残しません」
「分かりました。本日の面接は以上です。結果は1週間以内にお知らせしますので」
「はい、ありがとうございました。」
――ふう……。
僕はその場で「110」に電話をかけた。
「はい、事件ですか? 事故ですか?」
「変な人が面接に来たんです。事件性が……」
突然、意識が遠のいた。
「もしもし? どうかしましたか? もしもし?」
――クソ……あの忍者め……。
(了)
たらはかにさんの企画「毎週ショートショートnote」、今週のお題は「忍者ラブレター」でした。
先週のお題は「数学ダージリン」でした。
ありがとうございます!(・∀・) 大切に使わせて頂きます!