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理科室のドア|毎週ショートショートnote

理科室の黒板の隣に、古ぼけたドアがある。そのドアは学校内で「開かずの扉」と呼ばれていて、先生も「ドアノブに鍵穴がなく、向こうの部屋から鍵がかかっていて、こちらからは開けられない。開けたところを見たこともない」と言う。

奇妙なのは、理科室の隣の物置には、それらしきドアがないこと。理科室と物置の間にも、「部屋」と呼べるほどの空間はない。でも、みんなは「改装した時に、そのまま残ったものだろう」と、大して気にしていない様子だった。

ある日、宿題を忘れた僕は居残りで漢字の書き取りをやらされ、終わって帰る頃には、もう外は薄暗くなっていた。
昇降口に行く途中、理科室の前を通りかかり、僕は思わず立ち止まった。あの開かずのドアの隙間から光が漏れている。

気になった僕は理科室中に入り、そのドアノブをゆっくり回す。
ガチャッと鈍い音がした。

――開いた!

ドアはギィーと音を立てながら開き、その先には教室があった。

――あれ? 隣は物置だったはずじゃ……。

立ち尽くしていると、突然、スーツに黒縁メガネをかけたおじさんが目の前に現れ、まじまじと僕を見た。

――こんな先生いたかな……。

僕も、その先生らしき人をじっと見る。

「君は……平成の時代から来た少年なのか?」
「いえ、今は令和ですけど……」
「令和? それは平成の次の時代か?」

――何を言ってるんだ? この人は。

そう思いながら、教室の中を見渡す。壁も床も天井も、机も椅子も木でできていて古臭い。

「このドアが開いたのは19年ぶりだなんだよ。その時も、君みたいな少年が偶然迷い込んで来たんだ」
「あの、ここって……」
「昭和29年……って言っても分かんないか」

――昭和?

昭和なんて、社会の教科書でしか見たことがない。でも、思考能力が停止してしまった僕は「ああ、そうなんですか」と言った。

「じゃあ、僕は帰るので……」
「ああ、そうだね。ちゃんと元の時代に帰らないとね」

――そういう意味じゃないんだけど……。

僕は「さよなら」とお辞儀をすると、おじさんはニコッと笑って手を振った。

(了)


たらはかにさんの「毎週ショートショートnote」参加用です。
今週のお題は「理科室まがった」でした。


現在、大大大スランプ中で、全く書けませんでした。オチも思い浮かばず…。(決してお題のせいではありません)

アイディアは結構たくさん出て来るんですが、なぜか文章にしようとすると書けなくなる…。


先週のお題は「星屑ドライブ」でした。

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