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ツナサラダ巻き|掌編小説

 旭川で買い物をして、はま寿司でツナサラダ巻きをたらふく食べて、まぁまぁいい気分で帰宅して、玄関のドアを開けた直後だった。突然、ウチの前に車が停まり、女性が降りてきた。

「すみませーん!」
「はい?」

 30代前半くらいの女性で、白いセーターに茶色っぽいスカート。旦那さんなのか彼氏なのか知らないが、運転席には男性が乗っており、こちらを見ている。

 ――なんだなんだ……。

「あのー、この辺で食事ができるところ、ありませんか?」
「うーん、食事ですか」

 ――観光客か。

 私は町の中心地からだいぶ離れた集落に住んでいる。まさに、日本昔ばなしの「むかーしむかし、あるところに……」と物語が始まってしまうようなところだ。
 私がちょうど車から降りるところを見たんだろう。まったく、タイミングが悪くてうんざりする。自宅では郵便屋か宅配業者、必要以外の人とは会いたくないし話したくない。

 無視するわけにもいかず、「笑顔」を意識する。

「ないんですよね。一番近いコンビニで、ここから20キロ離れています」

 女性の顔が激変した。その顔には、全く遠慮がない「嫌悪」が表れている。いや、もしかしたら「憎悪」の域に入っているかもしれない。

 女性は「はぁ……」とため息をつき、何も言わずに車に戻って行った。

 札幌ナンバーの車を呆然と見送る。レンタカー。白のSUVだ。
 車が見えなくなっても、しばらくその場から動けなかった。

 買い物袋をテーブルの上にドサッと放り投げる。

 ツナサラダ巻きの味を必死に思い出そうとしても、全く思い出せない。

 ――いいよ。来週、また食べに行けば。

 でも、ツナサラダ巻きを食べるたびに、きっと今日のことを思い出すんだろうな。

 私の好きな食べものが、1つ減ってしまった。

(了)


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