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鳥獣戯画ノリ|毎週ショートショートnote

「ん? これは鳥獣戯画……?」

美大の倉庫の片付けをしていると、誰かが模写したのか、奥の方で大きな鳥獣戯画を見つけた。それも、大量に。

「ああ、それか」

先生が僕の後ろから絵を覗き込む。

「それをいたのは、もう10年以上前に卒業した村田って奴だよ。俺が見てきた中で、ダントツの天才だった」
「へぇ……」

確かに上手い。描かれている兎や蛙、猿や鹿は今にも動き出しそうだ。

「その村田さんって人、コンクールで賞とか取ったんですか?」

先生は「はぁ……」と大きなため息をつく。

「あいつは間違いなく日本の、いや世界の美術界に名を残せる才能の持ち主だった。しかし、その才能を使おうという気がまるでなかった。好きな絵が描けるだけでいいと」

絵の才能があると思って美大に入り、凡人であることを思い知らされた僕としては、才能があるのにそれを使わないのは「罪」に等しいとさえ思う。使わない才能に、一体何の価値があるのか……。

鳥獣戯画を憎々しい思いで見つめながら、村田という卒業生に嫉妬した。

「そういえばあいつ、この鳥獣戯画は絶対に倉庫の中から出すなって言ってたな。理由はよく分からんが……」
「あー、何となくその理由、分かる気がします。とにかく、この絵は外に出さない方がいいですね」

先生はぽかんと口を開けたまま、何も言わなかった。

僕が絵の中の鳥獣たちに小声で「大丈夫だよ」と言うと、鳥獣たちはホッとしたようにそれぞれ顔を見合わせた。

なるほど。

天才すぎるってのも、いろいろ大変なんだ。

(了)


たらはかにさんの「毎週ショートショートnote」参加用です。
今週のお題は「鳥獣戯画ノリ」です。

テレビアニメ「ハチミツとクローバー」に登場する森田忍(超天才)をイメージして書きました。
(原作は漫画ですが、私はアニメしか見ていません)


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