見出し画像

イライラする挨拶代わり|毎週ショートショートnote

(すぴーひゅるる……すぴーひゅるるる……)

中学1年になり、吹奏楽部の体験入部で、そいつは鬼のような形相でトランペットを吹いていた。必死なのとは裏腹に、全く音が出ていない。
力が入り過ぎている。管楽器は、ただ吹けば――空気を送れば音が鳴るわけではない。

「トランペットってカッコいいよね。金ピカだし」

そいつは鬼のような形相から一転、笑顔で僕にそう言った。

――金ピカ? ふざけた奴だ。

僕は小学校3年からユーフォニアムを吹いている。遊びで部活をやるつもりはない。吹奏楽コンクールで全国大会に出るためにやるのだ。

「あの子、どう?」
「やる気はあるみたいなんだけど……」

思った通り、トランペットパートの先輩達は手を焼いているようだ。

――どうせ長続きしないだろう。せいぜい金ピカのトランペットで遊んでるがいいさ。

そうやって心の中で嘲笑っていた。

僕は経験者ということで、早々に夏のコンクールのレギュラーメンバーに選出された。夏休み前、練習についていけない連中は1人、また1人とやめていった。
吹奏楽は体力勝負だ。お遊びで続けられるほど楽じゃない。運動部に混じってジョギングもやるし、筋トレも必須。熾烈なレギュラー争いだってあるし、1軍と2軍も存在する。「ブラック部活」なんて言う奴もいるが、否定はしない。

しかし、そいつは残った。僕も含め「続かないだろう」と思っていた人達の予想を裏切り、毎日トランペットを吹いていた。日を追うごとに、そいつのトランペットから発せられる音は力強くなっている。

僕はイライラした。

――なんでやめないんだ? お前がいくら練習しても、活躍なんてできないぞ?

心の中で、そう問いかける。

「夏のコンクールには出られなかったけど、文化祭には出られるように頑張るよ!」

体験入部の時と同じ笑顔で、そいつは言った。

僕は「ああ」と短く返事をして、ユーフォニアムを持った。

多分、そいつはこれからもっともっと僕をイライラさせるだろう。

イライラした分、僕もまた上手くなる。

そう思うとやっぱり、イライラする。

(了)


たらはかにさんの「毎週ショートショートnote」参加用です。
今週のお題は「イライラする挨拶代わり」です。


全然ショートショートになっていませんね…。普通のエッセイ風、掌編小説になってしまいました…。(;^_^A

ちなみに、ほぼ実話です。私は小学3年から吹奏楽(ユーフォニアム)を始めて、高校、専門学校、一般の吹奏楽団と、青春の全てを吹奏楽に費やしました。
(中学と高校では部長でした)

私は当時、茨城県在住。茨城県は吹奏楽の全国クラスの強豪校がひしめいていました。私が通っていた中学と高校もそれなりに強く、練習はほんっっっっとにハードで、心が折れそうになることが何度もありましたが、部活をやめようと思ったことはないですね。関東大会止まりでしたが、いい思い出です。

ピアノを弾いていると、「また吹奏楽、やりたいなぁ」なんて思うことがあります。


先週のお題は「鳥獣戯画ノリ」でした。


テーマ「部活の思い出」で「CONGRATULATIONS」を頂きました!

この記事が参加している募集

#部活の思い出

5,464件

ありがとうございます!(・∀・) 大切に使わせて頂きます!