見出し画像

【閉幕まで残り2日】各展示の見どころを改めて紹介します。

こんにちは、「T3」広報ライターのタカハシコウキです。
今年度の会期も、残すところ、あと2日となりました。

本日は、『T3 PHOTO FESTIVAL TOKYO』のVIP/プレスツアーに同行した際に、各キュレーターから伺った、各展示の見どころを紹介します。

『T3 PHOTO FESTIVAL TOKYO』とは?

『T3 PHOTO FESTIVAL TOKYO』は、2022年10月1日(土)から開催される、屋外型国際写真祭。今回のツアーガイドでもある株式会社シー・エム・エスの速水さんが企画し、コロナ禍の影響を受けながらも、今年で4回目の開催となりました。

速水さんが『T3 PHOTO FESTIVAL TOKYO』を思い付いた背景には、過去に参加した中国の写真祭があったといいます。

その写真祭では、現地の若い写真家たちが、つたない英語を駆使しながら、国際的に活躍する名だたるキュレーター達に対して、臆せずに、”自分の作品を観てくれ”と積極的に売り込んでいました。

そして、その写真祭に参加していた、とあるキュレーターから言われた言葉。「東アジアの写真の今を知る為には、ここに来ないとわからない」という言葉に衝撃を受けたことが発端だそうです。

国際的な写真祭が世界のあちこちで開催されていた一方で。当時の日本にはそういった場がありませんでした。

日本が国際的なプレゼンスが弱いのはそういった「場」が無いからではないか?そういう場があった方が良いと思ったときに、赤々舎代表の姫野さんに、背中を押されて、「T3」プロジェクトがスタートしました。

『The Everyday-魚が水について学ぶ方法-』

VIP/プレスツアーには30人弱の参加。

中央区京橋にある72galleryから出発し、速水さんやキュレーター・きりとりめでるさんなどからガイドいただき鑑賞していきました。

最初に紹介されたのは、『The Everyday-魚が水について学ぶ方法-』。

古くはフィルムを用い、一枚一枚時間をかけて撮影していた“写真”。
しかしスマートフォンやインターネットが普及し、タップ一つで撮影、シェアできるなど“写真”を取り巻く環境は大きく変化しました。

もはや生活に溶け込んだと言っても過言ではない“写真”が、現代においてどのような意味を持つのか?

そんな問いを投げかける展示が、『The Everyday-魚が水について学ぶ方法-』です。

・72gallery

72gallery内には、2つの作品が展示されていました。

まず解説されたのは、ニューシナリオの《CHERNOBYL PEPERS》。ニューシナリオはポール・バーシュとティルマン・ホーニングの2人によるプロジェクトの名称です。照明を落とし薄暗い空間のなかには設置されているのはソファーとマウス、そしてスクリーン。作品を鑑賞するにはソファーに腰掛け、まるで自宅にいるような雰囲気でマウスを操作。スクロールすると、それにあわせてスクリーンに投影されている写真がズームしていき、次の場面へと移行していきます。その感覚はまるで写真に吸い込まれるかのよう。

ニューシナリオはこれまでも、人体の7つの穴や高級リムジンの中など、人が訪れることが出来ないスペースを用いて作品を展示し、それをインターネット上で公開するという方法で作品を発表してきました。今回の作品も実際に行くことが難しいチェルノブイリで行われた展示風景で構成されています。延々と続く廃墟の写真。ですが写真からは、そこで暮らしていた人々の空気、世界のようなものが感じられます。

尚、彼らの作品は、HP上でも公開されています。
ぜひ、こちらもご覧ください。

ニューシナリオの展示の裏側には、もう一つ作品が展示されています。かんのさゆり《パレード前夜》です。この作品に収められているのは、宮城県石巻市の風景。東日本大震災以降、復興のため生まれた新興住宅地を淡々と撮影しています。この真新しい家々も、30年後には誰かのふるさとになります。同時に、日本の家の寿命も30年前後と言われており、そう遠くない未来にはつくりかえられていく風景がそこには記録されています。そのような視点で見ていくと、良い、悪いでは判断が出来ない風景がそこに広がっていることを気づかされるようです。

・東京建物八重洲ビル

かんのさんの作品は、72galleryから少し離れた日本橋駅近くにある、「東京建物八重洲ビル」にも展示されています。

72galleryから少し離れた日本橋駅近くにある、「東京建物八重洲ビル」には、ヨアキム・コーティスとエイドリアン・ゾンダーレッガーによる《ICONS》が展示されています。

写真史に残る「アイコニック」な写真をモチーフに、自分たちの作品を制作するコーティスとゾンダーレッガー。遠くから見ると、どこかで見たことがある写真。

でも近づいて作品をよく見ると、それがスタジオで撮影されているものだとわかります。ところどころに置かれた「日用品」。歯ブラシ、スプレー缶、ビニールシート……。大きく展示されているからこそ、細かい箇所の追い込みに気がつくことができます。フェイクニュースや、プロパガンダなど、インターネットの時代においても私たちがつい信じてしまう「写真」について、考えさせられる作品でした。

・京橋郵便局

京橋郵便局に展示されているのは、臼井達也の《amazon basics 83,799》と《unattended_delivery》

《unattended_delivery》はAmazon宅配サービスで置き配を選択した際に、配達員さんが送ってくれる記録写真を集めたものです。

古くは一枚一枚、惜しむように撮影されていた写真は、今では気軽な会話のように使われるものとなっています。しかもこれらの写真は、一度確認した後、ユーザーも配達人も見返すことはない写真。

「一度きりの用途で撮影され、その後は記憶にすら残らない、解像度もバラバラな写真……。これを臼井さんは、写真の意味の変換点として重要なのでは?と感じ、作品にした」と、きりとりさんから解説がありました。

日常の中であたりまえになっている写真家から、世の中の在り方が見えてくる、そんな作品とここでは出会うことができます。

・東京スクエアガーデン

東京スクエアガーデン1F貫通道路には、長沢慎一郎さんの《The Bonin Islanders》が展示されています。

《The Bonin Islanders》に写っているのは、小笠原諸島の父島に住む人々。長沢さんは、かれらを「大判カメラ」で撮影しています。現在、日本の領土である父島は、かつて無人島で、欧米諸国の捕鯨の拠点として機能していました。そこに最初に住んだのは欧米人やハワイ諸島のカナカ人。かれらは「小笠原人」としてのアイデンティティを強く持っています。

「極東に住む欧米系民族として、人類学者から標本的に写真を撮られるなど、写真に対して非常にセンシティブな感覚を持っていました。長沢さんは13年掛け、そういった彼/彼女たちの過去に寄り添いながら《The Bonin Islanders》の写真を撮影したのです。」と速水さん。

また、きりとりさんは「父島には一度行くと1週間以上帰って来られません。使用するカメラは大判のフィルムカメラですから撮影枚数は、ごく限られたものです。それを島の方々もわかっているからこそ、双方が一緒に作り上げている写真でもあるように思います。」と話しました。

ポートレイトという単語はデジタルカメラやスマートフォンの普及によって、多くのアマチュア写真ファンたちの間で“背景がボケた人物写真”と同義に扱われている節があると感じています。その意味を問い直し、ポートレイトの秘める可能性を感じさせてくれる作品群でした。

東京スクエアガーデン建物内の1Fと2Fには、ディアナ・テンプルトンによるポートレイト作品『What She Said』が展示されています。

ディアナ・テンプルトンは、ストリートとポートレイトをメインに手掛けるアメリカの写真家。

『What She Said』では過去20年に渡り撮影してきた若い女性のポートレイトと、ディアナが10代の頃に書いていた性についての生々しい苦悩が綴られた日記が隣り合わせで展示されています。

写真は通常“今”の一点を切り取るものですが、彼女の作品からは“今”の写真を通し“過去”への想いが感じ取れました。

写真が表現できる時間軸の可能性を感じさせてくれる作品です。

・東京ミッドタウン八重洲

東京ミッドタウン八重洲の外壁に展示されている松田瑞季さんの《SI→WA》。

《SI→WA》は、スマートフォンのパノラマ撮影機能を用いた写真作品です。

スペックの限られたスマートフォンで、広い範囲を撮影するために開発された、パノラマ撮影機能。しかし軽いスマートフォンをゆっくりと一定方向に動かさなければならないため、ブレが起こりやすい問題を抱えていました。

さらに近年では、スマートフォンに広角レンズが搭載される傾向にあり、スペック上の有用性は著しく低下しています。

一方でその撮影方法の困難さから、おもしろい撮影ができる方法として注目があつまっており、その様子はパノラマ撮影の写真を“写真”として楽しむ文化が生まれてきている、と捉えることもできます。

松田さんの《SI→WA》はそんなパノラマ撮影機能に対して写真家として向き合った作品です。パノラマ撮影を行った後の写真をスクリーンショットで撮影。本来であれば失敗である写真をこの時代だからこそ撮れる写真へと変換させているように思います。

「パノラマ撮影を活用した松田さんの作品は、新たな“アレ・ブレ・ボケ”の作品といえるかもしれません。ここ東京ミッドタウン八重洲の地下に展示されている、森山大道さんの作品と合わせて鑑賞していただければと思います。」

ときりとりさんは話しました。

またこの日は鑑賞できませんでしたが、周辺には、
新居上実さんによる『《Glass》2022』、
谷口暁彦『3つの会話#1』、
アラム・バートール『《Dropping the Internet》2014』
も展示されています。

詳細はWEBサイトをご確認ください。

『TOKYO DIALOGUE 2022』

現在工事をおこなっている(仮称)TODA BUILDINGの工事仮囲には『TOKYO DIALOGUE 2022』が展示されています。

キュレーターを務める小髙美穂さんは解説で、『TOKYO DIALOGUE 2022-2024』では、毎年、写真家と書き手がペアとなり、3年間かけて“写真”と“言葉”を用い、対話をおこなっていきます。写真家が街の様子を撮影し、言葉の作家が写真から言葉を紡いでいく。建物を建築ではなく、都市と捉え、その変化と人間の関わりを表現していけたら」と話していました。

『TOKYO DIALOGUE 2022』では6名・3組による作品が展示されています。

かつて京橋にあった川の面影を撮影した写真と、そこから別の時間へ旅するような短歌を展開する、伊丹豪さん×穂村弘さんペア。

刻一刻と変化する工事現場を独自の手法で造り上げた写真に、17語へ巧みに季語を入れた俳句を組み合わせた、清水裕貴さん×堀本裕樹さんペア。

都市の鏡像を印象的に切り取った写真へ、さまざまな存在が流れる時間のなかで思う感情を短歌に表現し作品にした、木村和平さん×蜂飼耳さんペア。

現代のどこかを写した写真から、どこか別の世界へと運んでくれる言葉。

ですが、スタート地点である現代の風景も一瞬でもう無いかも知れず、言葉が誘う先もまた、この現実でたどり着くはずのない世界で。途方もなく広い空間へ、戻る手段なく放り出されたような感覚。

知恵熱のようなフワフワとした旅が味わえる展示でした。
来年、再来年にはどんな作品が展示されていくのか、今から楽しみです。

《Tokyo Night Cruise》

先ほど紹介した《SI-WA》松田さんの作品が展示されている、東京ミッドタウン八重洲の地下にあるのは、世界的写真家・森山大道さんの《Tokyo Night Cruise》。

東京ミッドタウンに入ると作品へ導くように、バスストップが各所に配置されています。これは、今回の設計やデザインを手がけた、村山圭さんの粋な演出です。

当初の計画していた設計ができないハプニングに見舞われながらも、入り口から作品へ誘導するために、東京ミッドタウン八重洲の地下に誕生したバスターミナルからインスパイアされ仕掛けた演出だという。

「《Tokyo Night Cruise》は、森山さんが車窓から撮影した東京の街並みのスナップが用いられ、プログラミングによって順番や秒数が完全ランダムに表示されています。夜行バスや新幹線、在来線を通して東京に来る方々、離れる方々……。この土地を行き交うそれぞれの人に、その瞬間にしか出会えない東京を感じていただけたらと思います。」と速水さんは説明されました。

またこの場所って、不思議な空間ですよね?先に道があるわけでもなく、店があるわけでもないのに、地下を削ってわざわざ空間が作られている。

実はこの空間、数年後に開通する別のビルの地下と直結する予定の場所なんです。つまりここは、物理的にも空間的にも、時間的にも余白の場所。

「T3では、こういった“都市の余白”を活用し意味を与えていこう、というテーマを追求しているので、そういった点でも大きな意味のある展示となっています」と速水さん。

東京駅の1日の乗車人員は、公表されている数で約28万人と言われています。これに夜行バスやタクシーを利用する人、徒歩で立ち寄る人などを含めれば、この人数はさらに増えることでしょう。

しかしこれだけの人が集まっても、すれ違った人ともう一度会う確率など、何万分の一にも満たないはず。さらに東京駅周辺は刻一刻と移り変わる土地。同じ空間で同じ人に会うこと、同じ景色を眺めることは、あり得ないことです。

森山大道さんによる《Tokyo Night Cruise》は、そんな東京の刹那性、そしてだからこそ内包している希望を感じさせてくれる作品でした。

『STUDENT GALLERY 2022』

東京駅八重洲口グランルーフにB1階には、「STUDENT GALLERY 2022」が展示されています。全国13の美術大学・専門学校の代表13名の展示がおこなわれ、未来を担う若い感性に触れられます。

©Naoki_Takehisa

STUDENT GALLERY 2022のディレクターと勤めた菅沼比呂志さんは

「私は若い学生を支援する企画に昔から携わらせていただいており、過去には別の企画ですが、当時まだ学生だった蜷川実花さんや野口里佳さんの作品が展示されたことがありました。彼女たちは今、日本を牽引する世界的な写真家となっています。もしかしたら今回の13名の方々の中に、彼女たちのような世界的な写真家となる方がいらっしゃるかも知れません。こういった若い才能に目を当てる機会をこれからも用意していければ。」と話ました。

『金田剛 新作展《Ecotone》』

大丸東京店では、『STUDENT GALLERY 2020』でグランプリを受賞した金田剛さんの新作《Ecotone》が展示されています。本作は、東京の陸域で撮影されたイメージと地方で撮影された自然の水域のイメージという異なる空間と時間を、なだらかな諧調によって繋ぎ合わせた作品。都会にいながら、どこか遠い自然に流れる時間に対して思いを馳せらせてくれるイメージは、都市の喧噪の中で、ふと立ち止まり、私たちの暮らすこの世界のあるべき姿について考えさせられるかもしれません。尚、本展示企画では、QRコードをスキャンするだけで入手できる大丸東京店との「コラボNFT」をプレゼントしています。こちらも是非お楽しみください。

©Naoki_Takehisa

メインビジュアル

そうして最後に訪れたのは東京駅八重洲口に展示してある、メインビジュアル。

ツアーは最後、参加者の方々とメインビジュアルの前で記念撮影をして、終了となりました。この場合の撮影は“記録”にあたりそうですね。

選べる2つのスタンプラリー

東京駅東側エリアの各作品展示会場では、QRコードをスマートフォンで読み込んで集めるデジタルスタンプラリーが開催されます。プレゼントはオリジナルグッズと、NFTが選択可能。NFTは特に手続きなく、ゲットできますので、会期中であれば、スマートフォン一つで参加可能です!
ぜひ参加してみてくださいね。

あとがき

今年の『T3 PHOTO FESTIVAL TOKYO』。短時間の鑑賞でしたが、現代において「写真」が持つ意味、そして「可能性」について考えさせられる、重みのある展示でした。

残すところ、後2日。
その日、その瞬間だけの空間と繋がった作品を観られるのは、今週末だけです。皆様のご来場を心よりお待ちしております。



取材:タカハシコウキ


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?