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4.クリエイターから経営者になっていく

ものづくり系クリエイターやハンドメイド作家が起業すると、どうしても「商品」のことばかり考えてしまいます。しかし商品を考えて作っているだけではビジネスが成長しないし、軌道にのりません。クリエイターがビジネスの初期に気をつける考え方についてまとめました。

※このNOTEは著書「好きを仕事にする自分ブランドのつくりかた」の一部を再編集して紹介しています。

テーマ07:経営者としての自覚

大きくなり、人を雇用する場合はもちろん、ひとりで何でもやる個人事業のときでも、経営者としての意識を持ちましょう。
制作までできるファッション関連のクリエイターの場合、とりあえず生地をミシンで縫ってカタチになったものが友人に売れたことから、ビジネスがスタート。そして、友人・知人の応援もあって、その道で生きるべく少し本格的に仕事として取り組んでみます。ところが、生計を立てるほどには売れないことがわかって、ようやく真剣にビジネスとしてのファッションを考えることが多いようです。

熱い気持ちでファッション業界を目指すのは、悪いことではありません。好きなことを仕事にしたいという気持ちもよくわかります。貧乏なままでも好きなことをしたいというのもいいでしょう。でも、10年後、20年後は……?
若くて、人生でもっとも働けて勉強もでき、いろいろなことを吸収できる時期、つまりもっとも成長できる時期にクリエイターとしてだけではなく、経営者としての資質を高める努力をするべきです。


◆経営ってなんだろう……?

創業期における経営とは、自分の生きがい・使命感を達成するために利益を増やすことです。これはつまり、ブランドを支持するお客様を増やすことと同じ意味。なぜなら、どんなに優れた商品を提供しても喜ぶ人=買う人がいなければ、ビジネスにはならないのですから。
何も知らない消費者を、徐々にブランドの熱烈なファンに育てるために何をするかを考えるのが、経営のはじまり。ファンになればなるほど高価な商品でも購入してくれますから、ファンが多ければ売上げも利益率も高くなり、経営が安定するのです。
起業者やブランド立ち上げ中の人は、経営と経理を勘違いしたり、漠然と「経営を知らないとビジネスに失敗してしまう」と思いがちですが、経営という言葉に惑わされないでください。創業期にはもっと単純に、お客様を増やすために何をしたらよいかを常に考えておけばよいのです。

◆モノより人に向き合いたい

手作りクリエイターやデザイナーには、大きくわけてふたつのタイプがあります。ひとつは、モノ作りに喜びを感じるタイプ。もうひとつは、商品を買ってもらうことに喜びを感じるタイプです。

前者はモノが完成すると満足してしまい、あとは売れても売れなくてもかまわないと考えます。売れればラッキー、気に入った商品は売らずに自分で持っていたいというふうに思う人も。このタイプはよく「儲からなくてもいいからいいモノを作りたい」と言うのですが、「いいモノ」とは何なのか考える必要があります。いいモノに対する定義や評価が定まっていないのに追い求めたところで、いつまでたっても納得できないのではないでしょうか。
ただ、このタイプはモノと深く向かい合うことで、トレンドに流されない個性を持つことがあります。もちろんそれが時流を無視しているために売れないこともありますが……。

買ってもらうことに喜びを感じるタイプは、プレゼントで相手を喜ばせて、喜ぶ姿を見て満足する性格。喜ばせるために、相手に合わせて商品を作り、さらに感動させるためにラッピングや渡し方まで演出したり。そういうことを考えるのが楽しいのです。相手が喜べば喜ぶほど自分も嬉しい。だから、もっと頑張ろうとします。

このふたつのタイプの違いは、モノに向き合うか、人に向き合うかという違い。モノに向き合ってばかりいる人は、もっといいものを作れば売れるようになると信じて、頑張ればいつか売れるようになると考えます。しかし、なかなかうまくいきません。それは、なぜか。何を作れば喜んでもらえるかに関して、ひとりよがりだからです。このタイプは、相手ががっかりするプレゼントを贈り続けるようなセンスなのかもしれません。
マーケットにおけるいいモノは、熱烈に好きになってくれる人がたくさんいて、高くてもいいから買いたいと言ってくれる人がいることではないでしょうか


◆クリエイターにもマネージャーにもなる

仕事をする能力と稼ぐ能力は別のもの。ですから、モノ作りをする「クリエイターとしての自分」と、稼ぐ能力を持つ「マネージャーとしての自分」とは切り離して考えましょう。
「クリエイターとしての自分」の能力を、どうすればもっとも高く売れるかをマネージャーとして客観的に考えるべき。クリエイターとしてのプライドは持ちながら、マネージャーとしての商売感覚を持つのです。自分のなかのクリエイションを極める意識と効率的に稼ぐための意識のバランスをとらなければなりません。
仕事をすることの延長に稼ぎがあるというのは思い込みにすぎません。稼ぐためには、稼ぐ能力と経験と知恵を身につける必要があります。


◆価値を作ることと、価値を活かすことを知る

自分のブランドを作りたい、大きくしたいという人の仕事タイプには大きく分けるとふたつあるのではないでしょうか? ひとつが価値を作る仕事で、もうひとつが価値を活かす仕事。簡単にいうと、価値を作るのはデザイナーや職人で、価値を活かすのはジャーナリストやバイヤー、コンサルタントなどの仕事です。

価値を作るのは、「深み」を作る作業。深みとは、デザインをするときに、どれだけの情報を集め、背景となるブランドの世界観をどれほど作り込み、どれだけ試行錯誤をし、いくつのデザイン案を出したか、どれくらいモノ作りにこだわったかという、表には出ないけれど積み上げてきたもののこと。その積み上げが価値を高めます。
深みがあるから、お客様は単に商品を買う以上の価値を感じ、満足するのです。さらにブランドのファンになる人は、そのブランドの奥深さや世界観をもっとよく知りたいとどんどん惹きつけられます。単なる思いつきのデザインや、工場にすべてお任せの商品には、十分な深みがないので、商品の物質的価値しか評価してもらえないでしょう。
価値を作る人は、えてして仕事一筋。同業種・異業種を問わず、広く市場を見渡して他ブランドの動きを把握することに慣れておらず、自分の作る価値の強み・弱みを理解できないのです。だから、「どこに持っていけば、自社ブランドの価値が最大になるか」という価値の活かし方を知らない場合が多いようです。価値を作る人だけでは、それを発揮できないことがわかるでしょうか。

せっかく作った価値も、それを高く評価してくれるお客様がいなくてはむなしいもの。そのブランドをもっとも喜んでくれる客層やお客様が集まるショップを見つけ出さなければなりません。これが価値を活かす人の役割です。

もし自分が「価値を作るタイプ」だと思う人は、業界を広く知っている人からアドバイスをもらうことが成功の鍵。
ジャーナリストは業界全体を俯瞰していますから、広くブランドを知っています。バイヤーは自店のテイストに合うブランドを、コンサルタントはブランドを知らなくても効率的な価値の活かし方を知っているでしょう。これら、価値を活かす人たちから有効なアドバイスをもらうことも、成功への近道になるでしょう。

◆起業家としてのステップアップ

起業家を見ていると、3つの段階があることがわかります。

まず最初が空想の世界で仕事をしている段階。この段階にいる人は、「会社勤めだと自分の能力は発揮されない」「起業すれば必ず成功する」「自分だけはうまくいく」「自分には才能があるが認められないだけ」などと根拠のない観念に支配されています。自分自身にフォーカスが当たっていて、自分の気持ちが一番大事なのです。この段階でビジネス的にうまくいくのは、突出した才能がある場合だけ。

その次は、起業の現実を受け入れた段階。起業しても必ずしもうまく行かない、努力だけでビジネスはできない、自分の力だけでビジネスは成長しないことをすでに知っています。ですから、上手く立ち回るようになり、積極的にアドバイスも求めるし、使えるものは何でも使おうという考えが生まれます。この段階では、事業の方向性が間違っていなければ伸びていくでしょう。

最後は現実を受け入れたうえで、自分の理想・ビジョンを成し遂げようする段階。ビジョンや理念や才能に惹かれて周囲に人が集まり、積極的なビジネス提案や事業アイデアを生み出していきます。
理想だけではビジネスは構築されませんが、現実だけでは推進するパワーが生まれません。現実を受け入れたうえで、理想を持つことが大切です。


◆戦略意識がわかるふたつの質問

経営者が方針を間違えていては、どんなに社員が頑張っても十分な利益は生まれないでしょう。経営者は事業の枝葉末節を考えるのではなく、ビジョン、目標、事業分野、経営方針など大局的な見地からビジネスを考えなくてはなりません。儲けが出るか出ないかは経営者の方針次第なのです。
企業のコンサルをするときによく聞くのは、「顧客があなたの会社の商品を選ぶべき理由を3つ挙げてください」という質問。この答えは経営者が戦略を持っているかどうかを判断する材料になるからです。
この質問には顧客と自社と市場を把握したうえで、戦略意識を持っていれば答えられます。明確な答えが出てこないのは、顧客も競合他社も自社の実力も知らず、会社には戦略がない場合が多いのです。

似たような質問で、「貴社商品で一番評価されているのはどれですか」「あなたの店のイチ押しはどれですか」と聞くこともあります。これはお客様に対しての意識を聞くため。「どれも評判がいい」とか「みんな人気」など、答えを明確に絞れない会社はきちんと販売実績を把握していないし、顧客の声を集める仕組みを持っていません。優れた会社は、「○○なお客様には××が人気で、△△なお客様には……」とお客様の属性別に明確な答えを返してくれます。

起業塾や起業セミナーに行くとSWOT分析をさせられるでしょう。SWOTとは、経営戦略の基礎中の基礎。Strength=強み、Weakness=弱み、Opportunity=機会、Threat=脅威です。
SWOT分析は起業するときだけでなく、既存の企業でも自社の経営戦略を見直すために活用できるもの。もちろんコンサルティング会社にお願いすれば、このような調査・分析はしてくれますが、中小零細企業は経営者自らが行うべき。経営者自らが、分析することで自社の魅力を確認するのです。
きっちり分析をしていれば、自社の一番の魅力を聞かれたときもすぐに答えられます。自分で自社や自社商品の魅力を答えられないのに、広告代理店に「自社の魅力を最大限に伝える広告を作れ」と発注したり、売場に「商品の魅力を最大限伝えろ」と指示するのはナンセンスですよね。

◆営業は経営者の仕事

営業や販売はビジネスにおいて特に重要な業務。だから、一番センスがある人、知恵やノウハウがある人、経験がある人がするべきで、つまりは経営者の仕事なのです。
営業や販売が重要なのは、顧客との接点となる業務だから。会社は多くのお客様が支持してくれて成り立つもの。そのお客様との接点になる部分が弱ければビジネスも弱くなるのは当然です。

製造だけをしていても、顧客との接点は持てませんから、求められている商品がわかりません。製造業者の場合は特に営業・販売が会社の重要な業務と認識し、社長が率先してそれに取り組むべきです。
口では「成功したい」と言っている経営者。展示会に出展してブースにはお客様が訪れ、商品を熱心に見ているのに、そのお客さんに声をかけることすらできません。慣れていようがいまいが、苦手だろうが得意だろうが、それができないのは成功したいという気持ちが弱いからでは? その程度のこともできないのに、顧客から支持されてビジネスを大きくするなんてことができるはずありません。


◆やる気がでないときは

本気で成功をしたい人には、どこかガツガツしたやる気が感じられます。スマートではないのです。でも、そのやる気に周囲が巻き込まれるようなカタチでビジネスが成長していくのではないでしょうか?
決して利己的になれ、回りに迷惑をかけろ、ということではありません。苦手意識や遠慮や自分のなかの成功しない言い訳を乗り越えろ、ということです。

では、どういうときにやる気が高まるか、考えたことがありますか? やる気を起こすには、まず動き出すことが重要なのではないでしょうか。
やる気、つまり成功欲求が弱い人は、考え出すとうまくいかない理由に焦点をあててしまいます。経験値も少ないので、そのうまくいかない理由を克服するアイデアも持ち合わせていません。そうするとどんどん不安が大きくなり、結局動けなくなるのです。
また、口では「事業を成長させます」と言っていても、心の中では頑張っても無駄だ、今のままでも十分じゃないか、失敗するよりは現状維持のほうが安全だ、そんなに頑張らなくても何とかなる、それをすると自分らしさがなくなる……などと無意識に考えてしまって、行動を制限してしまいがち。さらに、私は人前では話さない人だとか積極的に行動するキャラではないとか、自分自身に対する観念もあります。
これを打ち破ったり、拡大したりするイメージを持って、まず動き出さなければ。

人はインプットしても変わらない、アウトプットするときに変わる」という言葉があります。読んだり、聞いたり、教えてもらったりしても、人の考え方ややる気は変わりません。自分で考え、話したり、紙に書き出したり、動いたりしたときに人は変わるのです。
自分には無理だと思うこと、苦手だけれど重要なことを自分自身に強要します。苦手意識がなくなったらやろう、と先延ばしにしてはいけません。不安や苦手意識は持ったまま、やると決めて動き出すのです。これは、いつもの自分に比べて120%くらい頑張らなければできませんし、精神的にもきついこと。
例えば、人に仕事を頼むのが苦手で自分で抱え込んでしまうならば、人に頼むという経験を自分に積ませましょう。人に頼むことは迷惑をかけることだという観念を持っているなら、それを打ち破らなくてはなりません。
とても簡単なルールですが、行動は自分の考え方を強化します。たとえ欲求度合いが弱くても、成功したいという気持ちで動くと、それが強化されるのです。
とにかくがむしゃらに動いてみる。壁にぶつかったり、トラブルを起こしたり、小さな成功をしたりということが繰り返されることで、だんだんやりたいことや成功したい欲求がはっきりしてくるでしょう。

苦手意識を持っていることで、動かないという行動を選択すると、よけい苦手意識を強化してしまいます。やる気が出るまで待つという行動は、無意識の中の成功を敬遠する意識を強化するのです。やる気が出てから動く、という人はよけいにやる気を失っていきます。
自分でできる簡単にことばかりに逃げていてはやる気も湧いてきません。得意なモノ作りばかりをしていてもダメなのです。たまには、苦手な営業もやらなければ。


※仕事をするための考え方のくせについては、以下の著書のほうが詳しく書いています。無意識に苦手意識を持つのは子供の頃の体験に影響されていることがあります。



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