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46歳、スタートアップへの転職      - Vol.8 転職してやったこと -

▼はじめに

・このnoteに関して

このnoteは私が46歳で大企業からスタートアップに転職した体験記です。
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前回までの記事:【1】きっかけ編【2】葛藤編 【3】転職活動準備編
【4】転職エージェント利用編 【5】現実直視編  【6】転職実現編
【7】転職して感じたこと
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・今回のnoteのサマリ

大企業からスタートアップに転職後、具体的にどんなことをしましたか?ということも聞かれることが多い質問です。今回はSaasサービスを提供する90名規模のスタートアップに法人営業マネージャーとして転職してやったことを具体的に書いていきます。

▼転職当時の状況

・組織の状態

私が入社した当時の営業組織は、法人事業責任者が営業マネージャーを兼務している状態が続いており、管理者不在に近い状態でした。

また人員も8名おりましたが、入社ほやほやの新卒2名、新卒2年目2名、社歴1年以内4名の構成でした。私が入社直前まで2年以上経験しているメンバーが2名いたのですが、他部署へ異動しておりました。

また、1年以内に新卒入社・中途入社合わせて総勢20名程度の組織にする計画となっていました。

・事業の状態

世の中の変化による市場の追い風を受け、非常に高い年間成長率を実現していました。この追い風を機会と捉え、翌期からは投資をもう一段加速し、更に高い成長率で飛躍しつづけることを計画していました。

▼まずは事業理解

私は入社後1ヶ月程度をかけて以下の4つのアクションを通じて事業理解を進めました。いずれのアクションもほぼ並行して進めていました。

・事業のストーリーの理解

私は過去の経験から、計画や戦略、組織はストーリーで表現(理解/立案)することが大切だと考えており、現在と未来だけではなく過去からの経緯を知ることを心がげています。

私の入社したスタートアップは設立10年の企業でした。スタートアップあるあるだと思いますが、現在に至るまで様々なことがあり、人も大幅に入れ替わっており、社歴が浅い人が多めでした。また前任者もいなかったため、過去からの経緯の把握に苦戦しました。

そのため、過去からの経緯を良く知る同僚、ある意味ではキーパーソンを探すことが入社してまず初めにやり始めたことでした。近しい関係者にヒアリングを重ねて人物を特定し、すぐにコンタクトをとりました。

過去からの経緯のヒアリングはもちろん社長や取締役など責任ある立場の人たちにも実施ました。ただ、何事も立場が変わると違って見えてくるものなので、幅広いポジションの人から聞くことが良いと考えています。マネージャーやリーダークラスの古参社員の視点は意外に本質を突いていることもあり参考になることが多いと思っています。

中途入社者にとっては、事業や組織をヒトとして見立てて人生のストーリーを把握することは、自分自身がこのストーリーの監督であり脚本家であり演出家であり出演者でもあるという自覚、つまり当事者意識を醸成する大切なステップだと思います。

・事業計画の数値の意味を理解

私は前職で非常に小さい範囲ですが3年間の売上計画を書いていたことがあったので感覚としてもっていたのですが、計画の数値ひとつひとつには多くのファクトをベースに社内関連部署の人を含めた多くの意志が込められています。私には中途入社で計画の立案に関わっていないとはいえ、計画の実行・完遂責任がありますので、この数値一つ一つの意味、つまり背景にある意志を理解する必要があると考えました。

事業責任者など計画立案の当事者たちはそれぞれの視点で概要を伝えてくれます。私はそういった内容も大切にしながら、敢えて手間をかけて一つ一つの数値がどのようなロジックで算出されているのか、スプレッドシートの計算式や参照シートも時間をかけて確認をしながら理解を深めていきました。

このプロセスを通じて、ミッションビジョンの実現に向けた未来へのストーリーの解像度がより上がったと感じました。スタートアップの事業計画ですから理想の状態をイメージしていたり、ノーロジックで感覚や気合いで数値を置いているところがあったり、解像度が上がらない部分も当然出てきます。曖昧な部分の解像度を上げ、計画を実行し、達成していくのが戦術だと私は考えています。この戦術立案にこそ営業マネージャーやメンバーたちの仕事の面白さややりがいが詰まっていると考えています。

・顧客と競合の理解

最初に事業計画の理解を進めたのには明確に意図がありました。私が様々なことにキャッチアップしている間に計画遂行に遅れが出ては意味がありませんので、日々の短期視点での業績管理と未来に向けた兆しの発掘は早々にやれるようになっておく必要があると考えました。そのため、完璧ではなくとも、ある程度の粒度で計画の意図や詳細、未来に解決しなければならないことを把握することに工数を割きました。

計画達成への取り急ぎの下地を作った上で、次に行ったことは顧客と競合の理解でした。営業の商談やカスタマーサクセスの会議への同席を通じて顧客の期待や自社の提供価値、PMFのポイントなどを探っていきました。また同時に競合の整理や情報収集も行い、いわゆる「3C分析」「SWOT分析」などの基本フレームを埋めました。

・メンバーの理解

私がメンバーを理解をするために意識していることは、以下の3つです。

①メンバーのエネルギーの源泉
②コミュニケーションおよび学習タイプ
③入社理由とWILL ※中途入社者は過去在籍企業の入退社理由も確認

目的は、上司としてメンバーの支援をする際の方向性と方法のVer.1を定めるためです。私個人の想いとして、メンバーが自分らしく働ける環境を創ることを大切にしており、そのスタートの土壌づくりが上記3つの観点での把握となります。

上記3つを引き出すために以下2つの質問を1時間くらいかけて実施します。

a.公私関係なく喜怒哀楽の感情それぞれが出た場面のヒアリング
b.過去の何かしらの意思決定場面のヒアリング

支援の方法を決める上で大切にしている観点、メンバーの学習タイプやコミュニケーションタイプはFFS理論をベースに考えています。上記の質問を通じて見極めています。もちろん簡単に見極められるものでもないのでまずはVer.1として基準をつくり、時間をかけて少しづつアップデートしていきます。

余談ですが、このFFS理論はマネジメントだけでなくメンバー自身の自己理解にも非常に有効なものだと思っております。私自身まだ完璧に使いこなせているわけではありませんが、勉強を続けながら実践でPDCAを回して試行錯誤しています。

・業務フローの理解

日常的にメンバーや関係者たちがどのような業務をどのようなフローで行っているのかを把握するために、簡易的な業務フロー図を作成しました。

▼業務管理体制を整える

・Salesforceの活用

私が転職した際に驚いたことはSalesforceが導入されていたことでした。Salesforceの存在は以前から知っており触ってみたいと思っていたのでテンションが上がったことを覚えています。ただ使いこなすに至るまでには相当苦戦し、GoogleやYouTubeを先生に必死で覚えました。

このSalesforceですが、営業部門においては、導入されていただけで活用されているとは言い難い状態でした。CRM(顧客管理)ツールとしてもSFA(営業支援)ツールとしても中途半端な利用状態で、ただのDB(データベース)のようなもったいない使われ方でした。もっと言うとそのデータ(顧客情報)すらまともに入力されていませんでした。

私は転職後早い段階でこのSalesforceを活用できるようにいくつか手を打ちました。まずDBの構造を理解し、今後も含めて使いたい項目などを整理した後、思いつきで増やされていたり、重複している項目を整理しました。

また今までに無いようなダッシュボードを作成したり、メンバーとの会話の中で定量での会話を増やすことで、Salesforceは賢く使えば有能なツールであることの認知を高めていくことを地道に行い続けました。

1.5年が経過しましたが、まだまだ理想の状態にはほど遠いですが、メンバー主導でMAツールと連携して既存顧客のフォローに活用するなど、業務管理での新しい活用のアイデアがたくさん試されるまでになってきています。

・モニタリング体制の整備

重要指標のdaily、monthlyでのモニタリング、戦略/戦術の進捗管理、市場や顧客の変化を把握するためのモニタリングなど、ほぼ何も可視化されていない状態でした。何をどの頻度でいつ確認するのか、といったルールや基準の整備から帳票の作成まで行いました。

このモニタリングは営業活動に関わる全ての指標をスコープに入れており、リードの獲得数から受注までを様々な視点でモニタリングしていました。ここをしっかりと整備しておいたことで、順調度や変化が把握しやすくなること、要因把握がしやすくなることで日常のPDCAサイクルが回しやすくなりました。またその効果は短期業績構築に止まらず翌期以降の3か年計画を立案する際にも大いに役立ちました。

・短期業績の予測モデルの設計

スタートアップの経営ボードにとって短期業績の状況は最大の関心事だと思います。任せているとはいえ、介入したくなる気持ちも出てくると思います。私は長年営業課長を経験するなかで、経営ボードに現在状況だけではなく少し先の見立てを提示すること、その要因および打ち手を報告することこそが、自分およびメンバーが顧客に純粋に向き合い、楽しく挑戦し続けることができる条件だと考えています。

そのために当月の業績だけでなく、3ヶ月〜6ヶ月のスパンでの業績予測をする必要があります。大企業にいた際は頭の良い企画スタッフのメンバーが手伝ってくれたり知恵を貸してくれていたのですが、転職後はそうはいきませんので、自分で考える必要がありました。

高い成長率で成長しつづけ、かつその期間が短いスタートアップにとって業績予測に必要な過去のデータはほぼ無いか、当てにはなりません。また業績予測はロジックを複雑にしすぎてもいけないと考えています。私は試行錯誤しながら2つくらいのモデルを作成し運用していました。

予測モデルの作成は現場運営にも非常に役に立ちます。メンバーに状況を共有しながら状況の確認や相談ができるので解像度が高い状態で早い段階で打ち手を決めることができます。高速でPDCAサイクルを回す必要があるスタートアップの営業現場のマネージャーにとっては大きな武器となりました。

・PMFポイントを明確にする

営業責任者が不在の組織でしたので、顧客のニーズの解像度が粗く、プロダクトの想いや価値を上手く伝えられる状態になっていないことが大きな問題でした。従業員規模や業界などあらゆる観点で分析を行い、PMFポイントのピントを合わせていきました。

あくまでも個人の主観ですが、SaaSサービス企業はビジョン・ミッションドリブンなプロダクトが多く、顧客が置き去りになっているケースが多々あると感じています。営業の役割にはプロダクトと顧客を繋ぐこと、という大きなミッションがあると考えています。

定量・定性でファクトを示しながら社内の理解を得ていくのですが、なかなか理解を得ることができず、苦戦しました。かなり見切り発車にはなったのですが、PMFポイントのピントを上手く合わせられたので計画以上の実績をだすことができたと考えています。

▼組織を整える

・課題の設定

課題設定をしたタイミングは入社後1ヶ月くらいでした。その後現在に至るまでの1.5年間は当時描いた組織像の実現に向けて動いている感覚です。

世の中の変化による追い風もあり、市場は大きく動いています。事業としては人員を増やすことで売上のトップラインを上げにいく、という計画です。これをフルリモート勤務の環境下で実現せねばなりません。

私は課題を「個人商店化すること」と設定しました。もともとフルリモート勤務によるコミュニケーションの薄さは気になっていました。また誰に聞いても明確な”勝ちパターン”がなく、営業がそれぞれ好きなことを好きなようにやっている状態でした。さらに今後どんどん売上目標は高くなり、商談数も増えます。毎月のように中途新人が入ってくるので育成工数も増えます。

営業組織は個人商店化し、組織がある意味がなくなり、進化(PDCA)のスピードが落ち、激しく早い市場の変化に付いていけなくなり計画を遂行できない、そんな未来が容易に想像できる状態でした。

・打ち手を描く

私は設定した課題を解決するために、打ち手を「現場力の最大化」とおき、そのイメージを以下の図のように描きました。

入社後1ヶ月で描いた打ち手

日常のMTGを通じて、”個の力”と”相互の力”と”マネジメントの力”を最大化することで、その結節点である”現場力”を最大化させる。

私はこのような組織を作りたいと考えました。そのためのエンジンをミーティング(MTG)に置きました。私は”敢えて細分化したチームを作り””敢えて会議体を増やす”、といったことをしました。多忙な組織、新人が多い組織では禁じ手的な施策だと思います。賭けではありましたが、結果は成功だった、と今振り返って考えています。

・仕立てにこだわる

私の個人的な経験と価値観によるものですが、マネジメントの難しさは組織およびメンバーの内発的動機を最大化させることにあると考えています。

どんなに素晴らしい戦略や戦術を描き、組織を作ったとしても全てはメンバー次第だと思っています。また、外発的な動機形成では成長実感が得られにくく長続きしません。メンバーが自律的に自立してミッションを遂行している状態を理想とし、内発的動機形成の最大化のために仕掛けや仕立てを工夫し組織を運営してきました。

1on1が、チームMTGが、グループMTGが楽しくなる。
個人が繋がり、チームが繋がる。
新しい挑戦をしたくなる。その挑戦を共有したくなる。
挑戦を真似したくなる。真似したものを進化させたくなる。
そしてお客様も喜び、事業は成長し、自分も成長を感じる。

数えられないくらいの仕掛けを施し、その仕立ての細部にまでこだわる。
こだわりの基準は”楽しい”かどうか。私はこんなことを考え、アクションし、組織を創ってきました。ほぼゼロから組織を自分で創る経験はなかなかできないことですので、スタートアップに転職する醍醐味である「事業を非連続に成長させられる」以外のもう一つやりがいなのかもしれません。

・リーダーをつくる

事業が非連続に成長し続けるスタートアップにおいて”リーダーをつくる”というのは至上命題だと思います。時間もかかりますしなかなかうまく行かないのがリーダーへの成長支援だと思います。

入社当初はリーダーを必要とするような組織状態ではありませんでした。しかし、1年後には20名を超える組織になることは確定しており、その時点ではリーダーが数名必要であることは分かっていました。

当時の組織は、社歴の浅いメンバーがほとんどで、リーダーとしてすぐに任用できるメンバーがいるわけでもなく、リーダー業務にWILLがあるメンバーも少ない状況でした。ただ、私はリーダーを早めにつくっておくことの大切さは前職時代にも身をもって体験していましたので、私はかなり重点をおいて取り組みました。

実施したのはざっくりですが、以下のようなことです。
・素質のありそうなメンバーを選抜する。
・メンバーに明確にリーダーとしての期待と選抜理由、強み弱みを伝える
・小さいチームを任せて実践経験を積ませる
・チーム運営は密着に近いくらい伴走をする
・リーダーMTGを実施し、自分と視界や視座を合わせる

私は社員が10名の時点で4名のリーダーを選抜しました。人数が多すぎるのでは、という指摘もありましたが、リーダーの育成には時間がかかるので、私としてはできるだけ多くのメンバーに機会を与え、確実に1名以上のリーダーを輩出することを選びました。

結果は想定以上でした。改めて人の非連続な成長をする支援は難しいし楽しいな、と感じた出来事でした。

▼さいごに

・今回が転職体験記の最終章です。

私は、なぜ46歳で大企業からスタートアップに転職したのですか、とよく聞かれます。人によって聞かれる観点は様々ですが、転職の経緯や転職後にやっていること、がほとんどです。

そんな背景もあり、今回8回に渡って書きました。想定以上に長くなってしまい、構成力や表現力を磨きたい、とあらたな学びの欲望も湧いてきました。

・大企業からスタートアップに転職して得たもの

今回フォーカスして書かなかったのですが、関係する皆様からいただく質問に「大企業からスタートアップに転職して得たものはなんですか」という質問もたくさんいただきます。

私はスタートアップに転職して「生涯をかけて磨き続けていきたいもの」を見つけました。

私は今回の転職で、”人”の成長によって、事業や組織を大きく進化、成長させられる”マネジメントの力”の本質の一端を掴みかけた気がしています。そしてその面白さや難しさにも気づきました。今まではどこか自分の力を過信していたところがあったかもしれない、と反省しています。

個の力と相互の力をマネジメントの力で最大化させる。

私は生涯をかけてこのテーマに関わり磨き続けていきたいと考えています。


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