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『シン・ウルトラマン』良くも悪くも「浪漫」ってやつか。

気付けば5月の清々しい陽気も過ぎ去り、じめっとした日本の夏の兆しを感じている今日この頃です。社会人1年目、学生時代と比べ、映画館に通う頻度が少なくなっていることに寂しさを隠しきれませんが・・・なんてことはない木曜の夜、仕事終わりに(福利厚生をフル活用して)同期と映画館に向かいました。

ということで、公開中映画『シン・ウルトラマン』の感想です。

ご存知、総監督:庵野秀明、監督:樋口真嗣、『シン・ゴジラ』の製作陣で送る「シン・〇〇」シリーズの「ウルトラマン」ですね。

個人的な印象としては『シン・ゴジラ』より、賛否両論という気がします。
こういう「リブート」や、固定ファンが多い作品は、何をどうしたって賛否両論が避けられないんだから・・・と思っていましたが、観賞後、私自身の中で賛否両論が巻き起こってしまったので、ひろひろの映画感想記事において、珍しい日本映画として本作を取り上げます。

キーワードは「浪漫」です。

※本記事では、以下ネタバレを含みます。

***


賛成派の私「だって浪漫だもの」

まずは楽しい話からいきましょう!
本作について、面白かったですか?と聞かれたら、まず迷うことなく「面白かった!」と答えるでしょう。それは、庵野×樋口が創り出す妖しい世界観の賜物か、西島秀俊、長澤まさみをはじめとする魅力的なキャラクターたちか、はたまた円谷プロダクションのスター、ウルトラマン自身のカリスマ性か・・・。

作品全体のテンポ感といい、複雑すぎない物語性といい、程よく丁度いい映画という印象です。

しかし何より興奮したのは、オープニングのそれ。

あれは堪りませんね。
「ウルトラマン」の持つ掴みきれない奇怪さと、今から映画が始まるよ!と言わんばかりの多幸感を詰め込んだ、ベタベタゴテゴテのオープニングシーン。笑

正直、私はウルトラマン世代ではないし、幼少の頃も「ウルトラマン」にハマった子供ではないので、オマージュや小ネタなど詳しいことは分かりません。しかし、前作の「ゴジラ」や、単なるSF映画とは異なる「ウルトラマン」いや、「円谷英二」のワールドを、ものの数秒で確立させたオープニングには、素直に感動し、観に来て良かったー!と思わせてくれるものでした。

それこそ「ゴジラ」と比較すれば、そんなオープニングもどこか子供じみていて、チープで、胡散臭い感じが漂うのですが・・・それがまさに「浪漫」。そう、お洒落とか、ダサいとか、社会派とか、アートとか、そういうんじゃない、ただただ「いかしてる」ものが見たいんだよ!という、観客が持つ「浪漫」に真っ直ぐ応えてくれる始まりだったのではないでしょうか。

そしてそれは、終盤の「ウルトラマン」変身にも同様のものを感じました。


まさに「ピカーン!」というオノマトペが正しいような、あの変身シーン。それは単に「懐かしい」「エモい」だけではない、何か心をくすぐる、「浪漫」の体現を見た気さえするのです。作品全体の中で、最も馬鹿らしく、最も嘘なシーンなのに、あれが最も「本物」に見えるとは、映像は不思議です。

嘘は言いません。オープニングと後半の変身シーン、あれは「浪漫」そのものです。個人的には「シンゴジ」の「ヤシオリ作戦」に匹敵、いや、もしかしたらそれを凌駕する「浪漫」で溢れた一幕だったと感じています。

ごちゃごちゃとした戯言はいらない、これが「浪漫」だ、というダサくてかっこいい想いを、ひしひしと感じられる映画、それが2022年の地球に降り立った『シン・ウルトラマン』最大の魅力です。

***

否定派の私「浪漫ですか、そうですか」

と、ここまでベタ褒めしたのも束の間、少し厳しいことも言わせてください。

あの2時間、全てのシーン、あなたは何の疑いもなく、心から楽しめましたか?
(まぁ、作品を観てない方がもし読んでくれていたらすみませんね笑)

私は残念ながら、違和感を覚えるシーンがいくつかありました。

具体的になんのどこのシーンか、明言は避けますが(おそらくググれば、それらしきレビューが出てくるでしょう)、画の切り取り方、表現の仕方、映し方に、なんとも言えない「違和感」を覚えたことは確かです。

60年代当時の特撮感、時代感、価値観に敬意を持って、それを現代に蘇らせることは何も悪くありません。むしろ、映画というフィクションを通して、そうした再現可能性は大好きです。しかし、端的に言えば「時代錯誤じゃないか」と思う点もいくつかありました。

上述の通り、私はオリジナル「ウルトラマン」の知識はありません。あれは、そういう下心のある演出じゃなくて、オマージュなんだよとか、男心とかじゃなくて、そういう当時の技法なんだよとか、何か意図はあったのかもしれません。ですが、いち観客として、私は違和感を覚えました。

同様のレビューを見た際に、それに対する返信として「お前みたいなのは本作のターゲットじゃない」という意見もありました。「そっかぁ・・・」と思う一方、本作の公式サイトでは、「混迷の時代に生きるすべての日本人に贈る、エンターテインメント超大作。」とのコピーが上がっています。

是が非でも作品の悪いところを見つけ出そうなんては思っていません。が、もしこれを「すベての日本人に贈ろう」としているのであれば、何か「シン」の名にそぐわない「浪漫」の側面がある気がしてなりません。

少し話は逸れるかもしれませんが・・・分かってるんです、私も男として生まれ、私は女性に好意を抱くタイプですから、俗にいうスケベな心も、エロオヤジの発想も、何も理解できないといったら嘘になります。しかし、それを仕方ないというのは、それを「浪漫」の2文字で寛容するのは、あまりに深みのないエンターテイメントだとも思ってしまいます。

あのシーンと、あのシーンが、本作において絶対に必要であるという理由が、私には見つけられませんでした。もしかしたらそれも、私が感動したオープニングと変身シーンのように、御託は並べない「浪漫」そのものなんだ!と言い張ることもできるのかもしれません。それどころか、この話を聞いて逆に観に行こうと思う人もいるのでしょう。

そんな人間のアホらしさや、乏しさまでをもメタ的に表しているのだとすれば驚きですが、たとえそうだったとしても世界標準の線を跨ぐことは厳しいように感じます。

人間の本質、魅力的な醜さ、愛らしい滑稽さは、もっともっと違う形で描ける、映せると、私は信じてしまうんです。
何せ、やっと世界がそう変わりつつあるから…。

***

『シン・ゴジラ』『シン・ウルトラマン』そして続く、『シン・仮面ライダー』
ご覧になった方は分かるでしょう。着実に「舞台」が出来上がってきましたね。笑
「自虐」「浪漫」で終わりにしないその先を、心から楽しみにしている私です。

気候に負けないじめっとした終わり方になってしまいましたが、総じて私は楽しかったですよ!
おすすめだってします!

ただ、「ウルトラマン」ではなく、「シン・ウルトラマン」であった理由はなんなのでしょうか。

ある人に言われたことは「期待しないで行くといいよ!」というアドバイスでした。彼は朗らかにそう言っていましたが、それは大好きな映画への、庵野監督への冒涜になりやしないでしょうか。笑

捨てたもんじゃないんです、人間は。
でも、だからもう少し、人間が人間でいることを誇りに思うだけでなく、外星人を見習う必要もあるのではないかと、思ったり。

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