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野球を好きになるのに、WBCは十分すぎた。


たった1つのきっかけが勝敗を分けるように、
世界をも変えることがある。


人生とはそういうものなのだと思う。


サッカー少年と野球少年、どちらが好きかなんて考えたことはない。

だけどいつも、気づけば野球少年に恋していた。

幼稚園の頃に私が「結婚して〜」と追いかけ回していたらしい相手は最終的にバスケで全国に出るほどの人材になったし、人生で唯一告白した相手は中学までサッカー少年だったけれど、

人生で1番恋焦がれていた人は筋金入りの野球少年だったし、それ以前のちょっと気になるくらいの人たちもみんな野球少年で、
元カレも、今の彼も、元・野球少年。


まあ、ある意味それもそのはずで、
我が家は両家祖父母・父母全員が野球と名のつくものが全部好き。

春夏の終わりはいつも高校野球で、おじいちゃんの車や家はいつも阪神で溢れていた。


野球を知りたい気持ちや、好きになりたい気持ちはあった。

だけど、私は野球に興味なくて、好きになりたいと思ったときには調べてもルールが分からなくて、今さら周りに尋ねるのもなんか違くて、
ああきっと、私は野球に興味を持つことなく終わるんだろうな、と思っていた。




そんな私が、WBCを観ることにしたのは、大谷くんが出るから・史上最強の日本代表だから、という理由もあるけれど、珍しく彼が観ると言ったから。


中国、韓国、チェコ、オーストラリア。
イタリア、
そして、メキシコ、アメリカ。


正直なことを言うと、昨日のメキシコ戦までルールに自信がないまま観ていた。(球速160kmがすごいことくらい)なんなら恐ろしいことに、これまでも『タッチ』『クロスゲーム』『H2』『MIX』といったあだち充作品は大好きで、そのくせルールを知らぬまま読んでいた。

それまでは実況、野球速報の文字、Twitterの反応、両親の反応、彼からのLINEなどで状況を察しながら観ていた(だからきっと常にリアクションがワンテンポ遅かっただろうと思う。特に守りのとき)。なんなら青ボタンで現れる、わかってどうするねん or 私でも知ってることが連発される野球解説や観覧席の様子、ホームのうしろにある広告で楽しんだりもした。


そんなどうしようもないニワカ観戦者でも、中国戦、韓国戦、オーストラリア戦、イタリア戦の、「日本は勝つわ」と絶対的な信頼感を持っていた。チェコに1点先取されたときは「嘘だろ?」と思ったし、それでもやっぱりその後も侍ジャパンに対する絶大な安心があった。 


だけど、メキシコ戦を観ている途中にふと、ずっと機械的に文章で、頭で、言葉で、”頭に入れてきた”ルール等が“理解”できた。

O(アウト)が3回で、攻/守(打/投)のチーム交代ということ。

よく聞くフォアボールというやつは、Bのカウントが4回記録されることで、そうなると打ててなくても1マス(1塁分)動いていい、ということ。(だから四球と表されるんですよね)

3つめのストライクが空振りか見逃しだと、三振となってアウトを取られること。

そしてなにより、B(ボール)と S(ストライク)のちがいは「ストライクゾーンから外れた(ので打てなくて仕方ない)/入った(のに打ててない)」である、とわかって、今の球がどちらだったかを一緒に議論できるようになった。

あと腕の軌道が真横になる投げ方のことをサイドスローと言う、ということも知った。(知らずに「肩痛そうやねぇ」とか言っていたアホがここに←)



それと同時に私の知る選手が増えていく。

大谷くん❸、ダルビッシュ、佐々木くん、村神様(村上くん)❹❺、栗山監督、
ヌードバー❶、近藤❷、吉田❺❹、
源田❽、岡本❻、山田❼、牧、山川、
中村❾、甲斐❾、周東(代走してた)、
今永、湯浅、山本、戸郷、高橋(宏斗)くん。


はじまったときには最初2行の選手しか知らなかったのに、決勝が終わった時にはちゃんとほとんど全員がインプットされた。

いつのまにかスマホにはSportsnaviの『野球速報』アプリがインストールされていた。

見ている間にテレビから移動しなきゃいけなくて、それと同時にスマホの電波が悪くなれば本気でイライラしたし、試合中に電車に乗っていたときは、野球速報の「更新」ボタンを連打したし、リアルタイムでテレビ視聴/アマプラ視聴している人からリアクションが遅れると悲しくなった。唯一、ラジオ配信している日本放送がradikoでタイムフリー視聴(有料)に入っていないと聴けないことに、本当に腹がたった。


メキシコ戦は、序盤メキシコに3点入れられてからは一層ドキドキハラハラで、気が気でなかった。その後、何度かホームランがあったのに全部メキシコのレフト(アロサレーナ)にキャッチされて、「なんで取れんねん!!」と怒り狂った。

7回裏で吉田くんがホームランを打った時には、リビングのテレビ前で父と母と「うおおおおっしゃぁぁ吉田さすがやぁぁ」と叫んだ。8回表でメキシコに2点返された時には「負けるんかな、え、うそやろ…」と絶望したし、裏で山川が1点返したときは「最後までいくぞ」と思った。

その後、電車に移動した私と母(と野球を観てない妹)は、電車の中で9回表を0点で抑えたと知った時には「よしよし」と母と言い合ったり、彼とLINEしたりするも、野球速報アプリの画面を凝視しながらスマホを祈るように固く握りしめていたし、村神様が復活してサヨナラ勝ちをしたときは「勝った!勝った!」と車内中から聞こえてきて喜び合った。



アメリカ戦は、目覚ましをセットした7:30より先に目覚めるほど楽しみにして、休みを取った父と母と、起きた瞬間からテレビの前に待機した。

2回でアメリカに1点入れられた直後に村神様が綺麗なホームランを決めたときには「村神様ー!!」と叫んだし、今大会調子が悪かった村上くんがここぞという時に実力を発揮できて本当によかったと思ったし、ヌードバーがゴロで2点になったときも「よしよし!」と声を出した。彼に送ったLINEを見ると序盤に私は「トラウトえぐー」と、ゴールドシュミットを抑えたときは「0点(に抑えた!)すごい!」と送っていた。

4回裏で岡本がホームランを打って、3対1になったときは「いいねー!!」と叫び、5回では高橋(宏斗)くんのピッチングをうまいなぁと思ったし、トラウトから三振を奪った時には「次のエースはこの子だなぁ」と思った。その後、ダルビッシュや大谷くんがブルペン入りした時には「おおー!」と嬉しくなった。

8回表でダルビッシュが1点取られたときは「やばいやばい」と冷や汗をかいたし、最小得点で収まったものの、裏が0点に抑えられた時には「うわぁぁぁやばい…」と思った。


そして9回表。最高のタイミングで大谷くんがピッチャーとしてマウンドに立った。


1人目、フォアボールを許して1塁が埋まる。
「うわぁぁ、やばい!」「頼むぞ、大谷!」と祈る。


2人目、ダブルプレーで1アウト取る。
「うおぉぉぉっしゃぁぁ、さすがすぎる!」と大興奮。


そして回ってきた、トラウトvs大谷。


私はこの対戦の本当の意味を、凄さを、きっとわかっていないけれど、
この1日だけでアメリカの凄さを、トラウトさんの凄さを知ったつもりだから、そんなトラウトvs大谷が、野球ファンにとってどれだけ夢の対戦であるかは想像することはできる。

まさに、運命。
野球の神様が望んでいたかのよう。



ボールB、空振りS、ボールB、空振りS、ボールB、フルカウント。



なんという緊張感。


まさに結果は神のみぞ知る。
私たちはテレビ画面を凝視して祈ることしかできない。


大谷が投げた。最後はスライダー。球がホームベース分、曲がったらしい。


カウントはS、空振り三振。



大歓声と大興奮に緊張が緩む。

父と母と私は、声にならない声で叫んで飛び上がった。


テレビ画面には「日本14年ぶりWBC世界一」の特大テロップと、
総立ちの観客たちや抱き合う選手たちの姿。

LINEニュースからは速報の通知。

Twitterやインスタからはみんなの祝福と喜びの声。


瞳にはなぜか涙が溢れていた。


ハイライトや中継が続いて、数々の予定されていた番組中止の案内で踊る。授賞式の様子も見届けて、しばらくテレビの前で動けなかった。


野球漫画の神様・あだち充の世界を現実が超えた瞬間なんだ、と思った。

漫画だ。ドラマだ。

実写化、じゃなくて、実写から漫画にできるわ、というような完璧さだった。



ちなみにその後は予定通り、彼とデートをした。


決勝進出が決まった時に「木曜にする?」と聞いたけれど、彼は「そのままがいい」「試合終わり次第、集合ね」と言った。きっと、どのような結果になっても気持ちを分かち合いたかったのだと思う。

会った瞬間、嬉しそうに「勝ったね!」「いや〜、よかった!」と連呼して、その後も彼は度々WBCの話をしてきた。そんな彼はゴッホ・アライブよりもWBCの方に頭がいっていた。


家に帰ると「日本優勝祝いにね」と、小さな鯛が2つと、唐揚げと、トロ丼が食卓に並んでいた。「本当は大きな鯛を1匹、買いたかったんだけど売ってなくてさ」と話す母の顔は笑顔だった。食事中、テレビではアメリカ戦の再放送が流れていた。




翌朝も起きるとモーニングショーで大谷くん特集が組まれていた。


昨日の余韻にひたひたなのは、
父だけでも、テレビだけでもなく、
私もだった。





私が知っていたスポーツの楽しみ方はいつだって「プレーすること」だった。

なんならルールなんて知らなくても、記録で白黒はっきりつく水泳や陸上といった個人競技がメインだった。


だけど、W杯でサッカーSLAM DUNKでバスケ、と、どんどん「観る側」の楽しみを知って、ルールがあってチームで繋いでいく競技の魅力にハマった。(バスケはプレーするのも好き)


もし生まれ変わって男に生まれたなら、私は箱根駅伝に出たい。


ずっとそう思っていたけれど、野球少年もいいな。



WBCメキシコ戦、というたった一試合で、私は野球を好きになった。


好きになって迎えたアメリカ戦は最高だった。


普段から観ていたわけじゃない。ニワカが一緒に盛り上がるなんてという気持ちがなかったわけじゃない。

だけど、何のファンの誰にだって1番初めにはニワカで何も知らない時代があったはずで。徐々にいろんなことを知って、好きになっていって、ファンとしての今があるはず。

彼らにとってはそのタイミングがもっと前にあったのかもしれないけれど、私にとってのそのタイミングは今だった。ただそれだけの違い。

だから、普段から野球好きかそうでないかは放っておいて、どうしてもこの感動をすれ違うすべての人と分かち合いたかった。言葉にしておきたかった。


泥臭いとか、古いとか、オッサンっぽいとか、試合時間長すぎとかで、若い人からの人気は低迷しているらしいけれど(ほんまなんかな?)、

本当に野球っていいなと思ったから。

ニワカで終わらせずに、
次は甲子園も観てみたい。













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