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「したい」の整理から考えるキャリア像

キャリアや進路について頭を悩ませる、事業展開について将来が明確に描けないなど、日々様々なご相談をいただきます。世の中には識者による数々のキャリアプランの方法論が語られ出尽くし感もある中で、僕は何を伝えれば良いのだろうか?そう思いながらも出すアドバイスは、いつも根源的な内容を丁寧に伝えることに集中します。

古今東西、キャリアを描く上で大切なことは「突き詰めるとやっぱりこれだよね?」という原点があるとすれば・・・、そんなことを今回はお話したいと思います。これは先日、スクーというネット番組の出演時にもご披露した内容の一部を紹介した内容にもなります。

1.シャインの理論で枠組みを描く

キャリアを描く上で大切な切り口とは突き詰めると、この3つでは?ということに気づかせてくれるのがシャインの理論です。シャインとはマサチューセッツ工科大学経営大学院 組織心理学 名誉教授のエドガー・シャイン博士(91歳)のことです。

同氏は、キャリアを考える上で3つの切り口を提唱されました。簡単に言うと、以下のとおりです。

この3つの切り口で「本音ベースの自分の棚卸し」を行おうというものです。これを3つの円で描き、重なるスペースが大きい事柄が一番自分の天職ではないか?多少荒っぽくとも全体を理解するために、このように理論を使えば、キャリア像も描きやすくなるよね?というものです。

個人的にはこれ以上のシンプルで本質を突く理論はないと思っています。詳細は、以前『「自分を知る技術」をまとめてみた』にも書きましたのでご参照ください。

2.問題は「したい」が見つからないこと

ところが、先ほどお話したシャイン理論は理解され共感いただいても、半分くらいの人の反応がイマイチでもあります。「理屈も分かるし、確かにシンプルに整理できそうな気もするのですが・・・」、「問題は”Will(したい)”が明確にならないことです!」と。要は、したいことが見つからない!という嘆きにも近い反応なのです。

そうです、いくらキャリアを描くための理論があっても、すべてのベースになる「何をしたいのか分からない(見えない)」という問題が一番大きく横たわっていたのです。そもそも「したい」ことは考え出すものなのか?見つけるものか/見つかるものか?、「したい」ことがなければ何も始まらないのか?など、「したい」にまつわる不安や疑問は多くの人が持つようです。そこで、僕なりの「したい」にまつわる見解を整理しておきたいと思います。

3.「Will(したい)」発掘方法 ベスト5!

なんとなく「この仕事が自分は好きかも」と気づくことや、「たまたま人に頼まれた仕事をやっているうちに天職になっていた」など、あまり気負わずに「したい」が見つかる人ももちろん一定数います。

※ちなみに、僕は後者の「頼まれごとをしているうちに好きなことに気づいた」タイプです。

そんな人をフューチャーしたマスコミ報道や話を聞くと焦ってしまう人も多くいるようです。しかし、自然と「したい」が見つかる人ばかりではないことが多いのも現実です。たまたま、これまで生きてきた中でピン!と来る瞬間がなかったとしても不思議ではありません。いつも将来のキャリアのことばかり考えているわけではないからです。

時に立ち止まり、「この忙しい日々のまま歳をただ重ねるだけでもいいのかな?」と我に返る瞬間を誰しも経験したことがあるかと思います。こうして人は将来のキャリアについてもグッと真剣に考えるようになるのです。そこで、今回は立ち止まって自分のキャリアを見つめなおす際に、こんな切り口はどうでしょうか?というベスト5を整理してみました。

4.(1)自分の心に素直になること

今さらながら、自分に素直になりましょう!って陳腐な表現ですよね。それは百も承知しています。でもね、頭では分かっていてもこれが意外にできないものなのです。なぜかっていうと、雑念が入ってくるからです。

「こんなWillだと格好いいかな?」「自分が考えたWillを人に伝えるとあの人はどう思うかな?」「本当にこのWillは実現するのかな~?」などの雑念は、僕たちの心から素直さを無くしていきます。見栄、他人の視線、世間体から完璧に逃れることはできませんが、少しでもこれら素直さの邪魔をする要素を取り除くこと。これが本当にしたいことを探し出す上でのトリガーになります。では、どのようにこの”邪魔者”を取り除けばよいのか?

それは、自問自答の際に「”本当は”どうしたい?」というセリフを使うことです。

放っておくと、僕たちの心の中は雑念が入り、なんとなくキレイに見える文書を頭の中で作成しようとします。キレイな文章でWillが整理された方が、自分を説得しやすくなり、他人の共感も得やすい気がするからです。でも、本当にそれが心底したいことなのでしょうか?”本当は?”という枕詞をつけて自問自答することで、これら雑念を取り除き、真にしたいことが見つけやすくなります。

騙されたと思って、「Will」を考える時は、目安として「”本当は”何がしたい?」というセリフを3回ほど繰り返してみてください。1回くらいでは、簡単に見栄、他人の視線、世間体など雑念の3点セットから逃れられないからです。

なお、自問自答から頭に浮かんだことは第一番目に出てきたイメージを重視してください。二番目に出てきた内容は一番目に出てきた内容を打ち消す評論家の自分の可能性があるからです。「そうはいっても、それは実現無理では?」などと。一番目にぱっと出てきたイメージがもっとも直感に近い内容。言い換えれば一番自分に素直な内容である。僕はそう考え、一番目に出てくるイメージを即座にメモに書き留めて可視化するようにしています。

5.(2)実現性を無視しても良い

自分の心に素直になってみたところで、実現に至るハードルの高さに委縮してしまった。こんな経験はないでしょうか?せっかくWillがイメージできたはずなのに、実現性という雑念が入ってしまいかき消されてしまうという話もよく聞きます。そこで、僕はいったん実現性の切り口は保留にしましょう!と相談者には伝えます。

実現性から考えると、新たなチャレンジとなるWillは何も形にすることができなくなってしまいます。新たなチャレンジは今までやったことがない要素も少なからず入るはずです。これを実現が困難と決めつけてしまっては、Willが減退してしまう残念さが否めません。実現性はいつでも後からでもフィルターにかけて現実的な着地点を”どうせ”考えていきます。それならはじめだけは、制限を設けずに(1)にあった自分の素直なWillに愚直になるべきです。

「実現性を無視しろ!といっても完全に無視はできないし、どうしても心の中で引きずってしまうんです」という声もよく耳にします。それでは、ここで実現性にとらわれてしまう心のブレーキを外す思考法を2つご提供したいと思います。

一つ目は、「実現性は後で必ず高めていくことができる」のでWillを描くことに実現性は関係がないという思考法です。実現性を高めていく要素はたいてい3つです。「人、時間、金」です。信頼ができるパートナーがいれば・・・専門家の知り合いがいれば・・・。はい、それはいつでも不足を埋めることはできます。一人ずつWillを語り、仲間にしていけばいいからです。
時間がない?はい、それも時間は工夫で生み出せます。無駄な時間をカットすれば創出でき、前述した仲間を増やせば自分の時間も増やすことはできます。
お金がない?はい、それも不足を埋める方法はいくらでもあります。徹底的にまずは自分のコスト削減を。次に、貯金、融資、出資、クラウドファンディングなど世の中には昔と比べてはるかに多様なお金の作り方が存在しています。一つ目の「人」という要素を付加すれば、お金の作り方の英知も集まることでしょう。このように実現性は後でいくらでも高めていくことが実はできるのです。

二つ目の思考法とは、「ゼロベースで白紙状態で想像できるようにすること」です。実現性を無視するためには、実現性を阻害する要因を全て白紙にリセットする(ゼロベース)必要があります。お金が問題であれば、これを払しょくするだけの白紙にしてみるのです。例えば、何かのプロジェクトを実現したいという場合に、1千万円くらいの自己資金が必要になったとしましょう。その場合の白紙でゼロベースで想像するとは、「自己資金の予算が1億円の状態」で発想するというスタンスになります。事実上、これで資金の制約がゼロになるはずです。

自問自答する際に、「制約条件がゼロになったら?」というセリフを頭にインストールし、物理的にも白紙の大きなメモ用紙に自分のWillを大胆に書き出してみてください。「こんなに大きなWillでも、大丈夫かな?怖っ!」くらいのレベルでちょうどいいのです。いちいち他人に公言したり、SNSに書き込まなければいけないなんてルールは存在しないわけですから。自己満足レベルでニタニタとしながら、想像して可視化してみてください。

6.(3)未来より自分の過去から探す

学生時代は「将来の夢」というお題の作文を課され、社会人になってからも「将来のビジョンを逆算式で」という感じでキャリアプランニングが当たり前のように語られるご時世。僕はこの風潮が嫌いです。

そんなに未来のことって、すぐに明確になるものでしょうか?もちろん、イチローや錦織圭選手のように小学校の卒業文集の段階で、細部までビジョンを明確にできている方もほんのわずかですが一定数いることでしょう。しかし、それは良い意味で特殊な方だと認識すべきです。人は様々なタイプがあるのですから、著名人や派手で分かりやすいキャリアをたどる人だけを参考にする必要などまったくありません。

将来のビジョンを明確にして逆算式にキャリアプランを立てること。それは、まわりの人も理解しやすく格好いいものです。ただ、今の積み重ねの中で気負わず自分なりの成功や幸せなキャリアを切り拓くパターンもあります。

そのため、Willは将来を”想像”することを通じてのみ探すのではなく、「過去」から探すという切り口もありです。過去に自分が経験した中で、もっとも充実した瞬間、楽しかった瞬間、周りに頼られた瞬間、気持ちいい!と思った瞬間など学生時代から棚卸してみるのです。未来は物理的に見えなくても、過去は自分がたどってきた道のため鮮明に頭や身体で覚えていることもあるでしょう。

不透明な将来を想像するより、解像度が高い過去からWillは探せるものです。

7.(4)「したくない」の消去法から探す

「Will(したい)」のイメージすら沸かないということもあるでしょう。その場合は、逆転発想で「したくないこと」から消去法で探すという切り口もあります。

「したくないこと」という消去法から探すことは後ろ向きなことでもなんでもありません。自分の中にある不快な部分をそぎ落とし、本来のWillをあぶりだすうえで大幅に前進させる前向きな方法です。「したくない」を明確にすることで、逆に「したい」をあぶり出すイメージです。

過去の自分を思い出す中で、自分にはピン!と来なかったなぁ、どちらかと言えばこの方向は不快だったなぁなど、前述のように過去の中から自分の”快”だけではなく”不快”も発見したら後は消去していくだけです。

僕がコンサルをやったり研修で講師業、時に著述業を行うようになったのも、この消去法が大きくかかわっています。

自らモノを作ったり、モノを売ることをこれまでのキャリアであまり興味が持てず、言葉によって自分は人や組織に気づきと勇気を提供することが一番充実感を感じる。こんな気づきが、今の仕事を行うキッカケにもなりました。

「したくない」とまでは言わなくても、興味があまりない、熱量が増えないというものをいったん可視化し、自分の方向性の輪郭を浮き上がらせていきましょう。

8.(5)「MUST、CAN」からも見つかる

これまで4つの切り口でWillを見つけるキッカケづくりのお話をしてきました。それでも、イメージできないという場合もあるでしょう。その場合は、Willの探索からシャインの理論で言うMUSTとCANに視点を切り替えます。

「MUST(しなければいけないこと)」、「CAM(今できること・能力)」です。

Willは将来のことがイメージできなくても、MUSTやCANは現在進行形のことなので、自分の中でも認識がしやすいものです。今仕事でしなければいけないことを愚直に追求していく中で、したいことの”兆し”がないか?今自分ができること、能力の中から、Willと連動することはないか?と視点を切り替えながら考えていくのです。

かつて100歳を超えた医師と同じく100歳超えの美術家による長寿対談がテーマの番組を観たことがあります。医師の方は100歳を超えても将来のビジョンを明確にし逆算式で今の行動計画を立てると言います。なんと数年先まで講演の予定まであるというお話。100歳を超えている状態ですよ!

一方の美術家は、将来のビジョンなんて若かりし頃から一回も立ててこなかったと言います。もちろん、Willを意識して生きていないと。MUSTとCANの積み重ねで生きているだけ、敢えて言えば今を楽しみ今を大切にしていることが結果としてWillになっているだけなのかもね・・・というお話でした。

つまり、Willの想像だけではなく、MUSTやCANの積み重ねの中で自分の存在意義を確立し、結果としてWillにもつながっているということです。

お恥ずかしい話ですが・・・実は僕のキャリアはMUSTから方向性ができてきました。今となっては後付けでストーリーをキレイに整理していますが、実はMUSTが一番大きく自分のWillにも影響していたのです。起業した初めの事業を閉めた後、生活費を稼ぐために何でもいいから仕事をとらなければいけない。そこで、他人からの頼まれごと(他社案件の業務支援)を必死にこなして目先のお金を稼いでいるうちに、この仕事のだいご味にはまり天職になったのです。やむにやまれずだったMUSTがCANとなり、Willに転じた例と言えるでしょう。

9.まとめ

ここまでWillを見つけ、自分のキャリア像を整理するための切り口をご紹介してきました。すべてを通じて共通することは、絶対的な正解なんてないということです。

人や世間は色々なことを言うでしょう。様々なキャリアのパターンもあります。しかし、最後は自分に当てはまるかどうか、自分がピン!と来るかどうかが大事なことです。雑音や雑念にふりまわされずに、今回ご紹介した切り口を順番に試してみてください。

最後に、キャリアの整理法の全体像に関しては以下グラフィックレコーディングの図解もご参照くださいませ。

メモとペンを準備し、自問自答しながら可視化していくことであなたにとってベストなWillが整理されることを願ってやみません。

著者・思考の整理家 鈴木 進介




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