#35:あるプロジェクトの軌跡〜クラウド選定基準(5)
前回の続き。
要件定義と同時並行でクラウド利用可否を検討する計画は何とかねじ込んだものの、それを決定するまでの道程は遠く厳しいものであった。
まずSaaS導入を判断する枠組みやルール自体がなかった。要するに誰がOKと言えば良いか、その誰かも何を見てOKと言えば良いのかすら分からない状態からのスタートだった。仕方ないので、関係しそうな管理部門とまずは片っ端から話をして、クラウド選定基準の作り方とその確認方法を決めていくことにした。
FiSCの基準や社内の関係規定、基盤部門の外部委託や運用設計に関わる基準などをつなぎ合わせて作り出した。また全部を内製で進めるには客観性や専門性が不足するため、第三者評価をするベンダーにコンサルティングを依頼した。まさに他の金融機関でクラウド選定基準を策定したとのこと。その知見を活かしてチェックしてもらい、最終的に作成した基準の確からしさと、今回導入するSaaSに対して基準に照らした評価結果(問題なし)を報告してもらった。
そして、ようやくクラウド選定基準とSaaS導入の評価OKが出た。ただ通過した後思うのは、なぜ誰もがこれをやってこなかったのか。この活動を始める前から薄々気付いていたが、誰も何か明確なノックアウト条件があって、SaaS導入を躊躇っていたわけではない。ただ選定基準や前例がないため、最初にそこを切り拓くこと自体が1番のハードルだったようだ。大きい組織にはありがちな傾向だが、この保守的な状態が自分はいつまでもここに居ないかもと感じたり、その後の転職に繋がったかもしれない。
データセンターが海外にあるリスク、監査レポートやDR/BCPの考え方等、確認すべきことは多岐に渡る。オンプレでも同じ検討項目だが、前例となる事例が豊富であり、また共通化されていることが多い。それもあって、オンプレで根本的な定義や解釈を深掘りすることはない。このプロジェクトでは、選定基準を定める際に各項目をひとつずつ根底にある考え方から紐解いたので、それは大きな財産になっている。
当然、セキュリティや運用要件がクリアできても、業務要件が充足しなければSaaSの利用にはGoサインが出ない。最後はその辺りもヒヤヒヤしたが幸いにも今回は問題なくOKとなった。そして最終的にオンプレとクラウドのライフサイクルコストを算出したところ、数億レベルで安くなることが決定打でSaaS利用が決まった。
当時のパッケージベンダーの営業戦略やオンプレ分のサーバ構築費用、機器購入、そしてオンプレの世界では逃れられない保守切れの費用。諸々の要素が絡み合い、当時はより追い風が吹いていたが、勝ち取ったコスト削減額はかなり大きかったと思う。今でもこの点は誇らしい。
それにしても、ベンダー側の基盤リーダーやこちらの基盤部門担当の皆さんには今でも感謝している。もちろんその人たちだけの働きではないけど、いずれにせよ、相当高いハードルを越えてもらったことには間違いない。そして、この高さのハードルをプロジェクト冒頭で一緒に越えたことが一致団結するきっかけになった。
それまでは、他のプロジェクトでも、オーナー部門とベンダー、基盤部門が入り乱れて、みんなで仲良く工程完了の打ち上げしているのを見たことがなかった。下手すると、プロジェクトが全て終わった後の全体打ち上げでも、それらの部門が混じり合って、和気あいあいお酒を飲んでる光景はレアだ。プロジェクトの最終成果が出るのはまだ先だったが、この光景だけでも大きな中間成果だなー、と当時感じていた。
(6に続く)
◆記事一覧〜あるプロジェクトの軌跡〜◆
(1)検討開始
https://note.com/susumuy/n/n1931de0dc542
(2)ベンダー選定
https://note.com/susumuy/n/n93de96f156bf
(3)プロジェクト計画
https://note.com/susumuy/n/n242ed6a8efad
(4)クラウド検討
https://note.com/susumuy/n/n68326494925e
(5)クラウド選定基準
https://note.com/susumuy/n/ne6eb0d7ec88c
(6)要件定義完了
https://note.com/susumuy/n/n17d0ecf889ae
後半に続く
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