見出し画像

ねずみ講教祖VS意識高い系情弱(無敵の人) [後編] (4714文字)

「それではみなさんかんぱーい!」
「かんぱーい!」
「ワイワイガヤガヤ」
「………………」

 コミュ障なので輪に入れなかった。今は交流会らしきものが開かれていた。すると、講師が自分のところに来る。

「君も来なよ」
「あっ、ひゃい」

 やっぱり講師の人は優しかった。

「みなさん、環境が大事だからお金を払って私のコミュニティに参加しなさいね」
「でも35万円ですよー?」
「たしかに高いなー」
「そうだそうだ」

 講師はイライラしている。

「あのねー、初心者はとにかくメンターを持つのが大事なの! それさえ払えば後からいくらでもお金が入ります」
「た、たしかにそうですよね」
「これであなたも月収200万円です。今すぐに決断しましょう。一つアドバイスするなら成功者はすぐに決断できる人です。何を言いたいか分かりますね?」
「はい」
「ここで決断できなきゃあなたも成功者にはなれません。今ここで決断すればたった一か月で月収200万円になります! さあ私の販売している情報商材を買ってください!」

 これで情報商材を買うことに決めた。

__________

「全然やってもうまくいかねーじゃねーか! ちょっとメンターに文句言ってやるぜ!」

 早速、殴り込みにいく。お金がもうやばい。なりふり構っていられなかった。

「ちょっとどういうことですか? あんなに高いお金を払ったのに結果が出ないじゃないですか!」
「結果が出ないのは誰に責任があると思いますか? 原因は自分自身にあります。本当に全て完璧に自分の教えたことをこなしましたか?」
「えっ、あのー」
「100%絶対完璧にですよ?」
「いや、それは…」
「だったら出直してきなさい。結果が出ないのは全て自分のせいですよ。自己責任です」
「分かりました…」
「そうだ、わたしの商材を誰かに売って来なさい。そうしたら君にも金を払ってやる。この塾は30万円だから5万円やるよ。君は5万円分のをたくさん売ったら不労所得が手に入るんだ! ケッケッケ!」
「ま、まじすか!」
「成功を約束しましょう! 私たちと一緒に成功者の世界へ行って豪華なパーティーを一緒に楽しもうじゃないか! 必ず強制的に稼がせてみせますよ! 絶対に稼がせてみせます!」

 上手いこと言いくるめられてしまった。早速、昔の知り合いに情報商材を売り始めることにした。

「おいおいおい! これマジで絶対儲かるから買おうよ!」
「えっ、だけど毎月30万円かかるじゃんこれ」
「お前、俺の進めている物販が買えねぇーってのか! おまえ頭おかしくなったのか?」

 すると、知り合いがイライラし始める。

「頭おかしいのはテメェだー! お前騙されてるだけだぞ!」
「はぁ!? これを買えばお前は儲かるんだよ! なんで買わねえんだよ! 絶対に儲かるんだぞ! こんなおいしい話ねえだろ!」
「そんなの美味しい訳がねぇだろ! お前バカか!」
「はぁ!? お前の方がバカだっての!」
「やっぱりおまえ頭おかしいよ。もう絶交な。二度と俺に関わっくんなよクソが!」

 人は失って初めて失ったものの大事さに気づくのだ。知り合いと別れて数日後にものすごい後悔の念にかられていた。自分でもどこかおかしなことをしているのは薄々分かっているけど楽して稼ぎたいというのを諦めきれない自分もいる

_________

 そしてまた鼠はセミナーをしていた。

「はいそれでは始めます。私は起業家を1万人も育てました。世界を代表する敏腕のコンサルタントです。オフィスも従業員もゼロ! スマホたった一台で10億円を稼ぐネットビジネス界のカリスマだ!」
「はぁ、あいつは塾生をお金稼ぎの道具としか思っていないんだ。みんなこんな塾辞めてやろうぜ」
「だなー」

 ちっ、金にならない塾生なんてもういらないんだよ。付き合うメリットもない。バイバイー。

「情報商材を10人に売り付ければ紹介料として10万円ぐらいが帰ってくるんですよ。こんな美味しい話ないだろう?」
「す、すごいです!」
「だろ?」

 この人は話も面白いしとってもいい人だ! しかも最近の流行も押さえていて親近感が湧くぞ! こうしてまた一人信者が釣れた。

「皆さん無在庫転売をやってください! そうすれば在庫を抱えることなく物を売ることができます!」
「分かりました!」
「まずはフリマアプリに登録して注文が入ったら通販サイトからその住所で直接入力して届けるだけ! 簡単でしょう?」
「なるほど!」
「みんな、成功者はいつだって馬鹿なんです! みなさんは頭のいいバカになるんですよ!」

 なんやかんやでセミナーは終わる。

___________

「ケッケッケッ! まったく、なんてチョロい商売だよ。頭のいいバカ? みんなただのバカさ! 頭が悪いだけの情弱よ! あいつら本当にバカだな! 人間ってなんて哀れなんだ! これだから情報商材はやめられないぜ!」

 鼠は一人でわらっていた。

「それに塾生の可愛い子は食いまくり放題だぜ! 金に困ってるからなおさらな! ケッケッケッ! 自分の信用を得ようと股を開くってわけさ! くっきゃきゃきゃ! 優しい言葉をかければ女はころっと騙される! この人優しそうだとね!」

 鼠のゲス笑いはまだまだ続く。

「まあ全然可愛くなくて臭いだけのやつもいるけどな! まあ俺が度々セミナーを開くのは後で塾生を食い放題できるからな! 俺に興味のある塾生は絶対100%食える! 最高! 俺の信者は全員俺の奴隷さ! そして、ただの集金装置にしかすぎない! そして信者から騙した金で食う飯はうまいなー! あいつら本当にバカでネギを背負ったカモだぜ!」

 高額情報商材屋というのはいかに価値のないものを価値のあるように見せて情報商材を高く無能共に売りつけることが大事だ。一応返金のサポートををつけておく。だが期限を決めておく。これは大事だ。
 相手が自分を信用している間は絶対に返金することはない。とにかく馬鹿共を信用させることが一番重要だ。そうすれば返金されずに済むからな。そろそろな頭の良い奴はこんな高額情報に価値のないことに気付くだろう。
 無知はいつだって罪さ。そんな奴は騙されて当然なのさ。金持ちになりたきゃ一生懸命勉強する事だね 。

________

 情弱男は友達も知り合いもいなくなったのであった。

「俺は孤独だ。お金のために周りの人の関係を全て切り捨てた! でもこれで良いのさ! これで俺も憧れのねずおさんに近づけるんだ! それに孤独は人を強くするんだ! どっかの有名人がそう言ってたじゃないか!」

 どんどんやばい方向に進んでいた。

「最近、新しい環境に入った。新しい環境に入ると新しい発見をしたりビジネスを優位に進めるための知識が手に入るんだ! 200万円は高かったけど、環境が変われば結果が変わるはず! もう俺は変わるんだ!」

 大学では単位を落としまくり留年をしていた。

_________

 数ヶ月後…

「クソッ! あの詐欺野郎! 全部経歴詐称だったのか! 金を使わせるに自己投資という言葉にすり替えやがって! それによく考えたら自己責任って納得いかねぇよ! 高い金払ってるんだから責任取りやがれ!」

 物に当たりまくる。

「ちょっとアンタうるさいわよ!」
「うるせぇババァ!」
「なによ!」

 買ったのは全て自分の責任って、そんなのありかよ! もう怒りが収まらねえより何が自己責任だクソが! 責任取りやがれ! ぶっ殺してぶっ殺してやる! 騙されたやつが悪いっていうやつは大概相手を騙すんだ! 自分が悪いことをしたと認めたくないだけなんだ! もうこうなったら殺ってやる!
 このあと、家族との仲は最悪になりお金の使い道もバレて大学の留年もバレて縁を切られた。

________

 今日はものすごい数の人が鼠に押し掛けていた。

「クソッ! 儲からねぇじゃねぇかよ!」
「別にどうでもいいよ。君たちみたいな貧乏人とは関わりたくないんだ。じゃあ分かったらさっさとその汚いツラをもう見せないでくれたまえ」
「な、なんだと」
「あっ、やべ」

 鼠は本音が漏れてしまっていた。すぐに誤魔化しに入る。

「あなた、もしここでこのコミュニティをやめたら負け組に逆戻りですよ? このコミュニティにさえ入っていればあなたは必ず勝ち組になれます。そのチャンスを捨てるのですか?」
「ぐぬぬ」

 そう言われるとなかなかやめることが出来なかった。しかし、これを何回繰り返したのだろうか? このまま騙され続けるのはもう終わりだ。

「ぶっ殺してやる! 俺の金返せ! 俺はもう捕まっても構わねー! 家族はバラバラになりお金も一文無しだ! それどころか借金だらけだ! だったら最後にてめぇーをぶっ殺してやるよ!」
「私もよ! あの時にされたこと許さない!」
「俺もだ! こいつのせいで俺ん所も家族はバラバラだ!」
「そうだそうだ!」
「ちょっと、みんなどうしちゃった訳~?」
「なんなら全然スマホ使わねーじゃねーか! 塾生を騙して稼いでいるだけじゃねえか! どういうことなんだてめえ! そもそも絶対にお金を稼がせるならなんで無料でコミュニティをやらないんだよ!」

 どんどんヒートアップしていく。

「はぁ…。君たちの言っていることは意味が分からないよ。いい加減にしないと警察呼ぶよ?」
「俺は家族を失うことになったんだぞ! 俺がどんだけお前のことを信用していたかわかんねえのかよ!」
「お前が会社をやめろって言ったから会社までやめて月額30万円のコミュニティに入ったんだぞ!!! それを簡単に裏切りやがって!!! お前は一体どんな気持ちで俺たちを騙していたんだ!」
「そうだ!そうだ!」
「絶対にぶっ殺す!」
「み、みんな落ち着いてくれ。そもそも結果が出せないのは君たちが悪いんじゃないか。それを私のせいにされても困るんですよ」
「うるせぇよ…。もうそういうのはいいんだわ…」

 俺はナイフを取り出した。

「ちょ! 君は何をやっているのか自分で分かっているのか!?」
「………。」

 ナイフを持ってゆっくりと近づいていく。

「分かった! 金が欲しいんだな! 金ならやるから! な! 助けて!」
「本当にくれるのか?」
「ああ! いくらでも好きなだけやるから私を助けてくれ!」

 貧乏人はすぐに金に釣られて助かるぜ。隙を見せた瞬間にここから脱出して警察に通報してすぐに…!

グサッ!

「え…? なんで刺してんだよ…」

 気が付くと鼠はナイフで貫かれていた。鼠は刺されたところから血がどくどくと溢れだす。

「金はお前を殺してから奪えばいいさ。そんなことよりさっさと地獄に落ちろクソ野郎が!」
「やめてくれえええ!!!!!俺を殺さないで!!!!!痛い!!!!!痛いから!!!!!」
「うるせえな!このハエ野郎!お前は便所の中がお似合いなんだよ!」

 情弱男は無敵の人となり、鼠をめった刺しにしたのだった。鼠は泣きながら抵抗するも抵抗虚しく死亡してしまったのだった。

「お前が殺されたのはお前が今までやってきたことが招いたことだ。お前がよく使っている言葉があったよな。そう、自己責任だ。お前がここで俺に殺されたのは自己責任なんだよ。俺はお前に何もかもを奪われた。この俺には失うものはもう何もないのさ。だからお前から命を奪ってやったぞ!」

 俺は横たわる死体に向かってそう呟いた。

__________

午前11時のニュースステーションです

自称事業家の鼠 講男さん(30)が刺殺されているのが発見されました。全身には数十か所にも及ぶ刺傷があり、死因は出血性ショック死とされています。警察は「犯人は鼠 講男さんに対して強い恨みがあった者の犯行」とみて捜査を行っています。

~おわり~

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?