マガジンのカバー画像

ファンタジー

14
空想のおもむくまま,自由に書いています。近くの公園のベンチに座ると何故だかアイデアが浮かびます。
運営しているクリエイター

記事一覧

小高い丘の自販機 #3ぬいぐるみのボビー

6歳のみゆきには友達がいた。それはぬいぐるみの子犬ボビー。どこに行くにでも一緒で抱っこしたり、持ち運びのできる手提げ部分を持ってお散歩したりした。 みーちゃんのお母さんはとっても厳しく、弁が立つ。それに比べ、みゆきは口が重いものだから、説明したり気持ちを伝えたりするのが苦手だった。 だから、みーちゃんはお母さんに強く叱られた日には、ボビーをぎゅっと抱きしめ、悲しさを紛らわせていた。ボビーは何も言ってくれないが、愛くるしい目で、じーっと見つめてくれる。ぎゅっとボビーを抱きしめ

小高い丘の自販機 #2ばあちゃんの煮しめ

建築資材を扱う会社の部長である亮介は、今日も仕事を終え、緑の多い公園の脇を急いで通り抜けた。いつも見慣れた風景に、考え事をしながら歩いていると、突然自販機を見つけた。 『でもおかしいなあ。朝、会社に行くときには確かなかったはずだ』 『昼間に設置されたのかなあ。それじゃあ、缶ジュースでも買おう』 と近づいたら書いてあるのは「思い出の品、買えます」という表示。 「えっ!これってもしかすると、一人一人のオーダーに応えるということなのか。もし、そんなことができるのだったら、ばあちゃん

小高い丘の自販機 #1 健太のグローブ

それは夜だけ出現する自動販売機。注文できるものー【それはあなたの思い出の品】今はキャンペーンで一律1000円と表示されているが、かなりいかがわしい。 美沙子は2 、3日前に突然現れた自動販売機に強く心を惹かれながらも、そんなものあるはずがないと、頭で強く打ち消した。最近、美沙子は夕食後に健康のために歩くようになった。そして、その途中で見つけた。マンションの裏手の丘にポツンと立ち、なぜか不思議な光を放つ自販機を。 今日も立ち止まり、それを眺めているうちに、いつの間にか意識は

モッツァレラチーズの恋

僕はモッツァレラチーズのアドリアーノ。 シェフのこだわりでイタリア直輸入だ。 なぜか、いつもトマトのひとみちゃんと一緒になる。 今日も前菜 カプレーゼで。 「このさわやかなトマトとモッツァレラチーズの組み合わせ、最高!!」 「2つの相性、抜群だね。ここのカプレーゼ大好き!」 そうお客さんが喜んでくれるんだ。  ところが最近、ひとみちゃんに元気がない。 「アドリアーノはいつも優しいけど、なんだかつまんなくなってきた 私は、刺激的な恋がしたいの」  僕はマイルドさが売りだから

ナメクジの恋

 なめすけには、好きな娘がいる。ねこのルナちゃんだ。大きくつぶらな ひとみでじーっと見つめたかと思うと、さっと視線をそらす。 そこが何とも魅力的。僕は一瞬でルナちゃんのとりこになった。  (もう一度会いたい)はやる気持ちで、3日かけてルナちゃんのところに想いを伝えに行った。  僕が意を決して 「付き合ってください」 と言うとルナちゃんは 「あなたのように粘っこくて重たい人は、嫌いなの」 とあっさり断られた。それは事実で、僕は返す言葉もなかったんだ。 「私はね、好きだと言

鉄筋コンクリートの恋① 現状認識

 仕事が終わり、自販機の前でほっと缶コーヒーを飲んでいると先輩が声を かけてきた。 「最近、調子はどう?」   「だんだん時代に取り残されていくって感じですよ。昔は耐震性と耐火性に優れているともてはやされた時もありましたっけ。でも今やー脱炭素の時代ー ハイブリッド木材や竹筋コンクリートも登場し、先はどうなる ですかね~」   「なんかお前の話を聞いていると、こっちまで気が滅入っちゃって かなわない。ところでおまえ、彼女いる?」 「俺、かっこよくないし、口下手だから、いない

鉄筋コンクリートの恋② アクション

 向こうから歩いてくるあいつ。遠くてよく見えないけれど、感じが変わったことはわかる。 「先輩、一か月あっという間でしたよ。」 そういう彼は、髪形もすっきりして、別人のようになっている。 「おまえの印象がそこまで変わるとは、予想していなかったよ。」  あいつは照れて、頭に手をやりながら、  先輩が「他人の目から自分を見る」と言ったので、試しに 「すっきりする髪形、お任せで」と頼んだんです。  「よく似合っていて、目が印象的に見えるな」 今まではマッシュヘアで(柔らかい 抜け

喫茶 「マカチョーネ」〜今のあなた様にぴったりのお飲物を〜

#シロクマ文芸部  #ありがとう    カラン コロン。ドアベルが鳴って、1人の女性が入ってきた。 歳の頃は27、8歳といったところだろうか。長いストレートの髪、 端正な顔。寒さのためか、こわばった表情だ。  今朝は朝から北風が強く、通りの木立もほとんど葉を落としてしまった。 歩いてここまでくる間、さぞかし寒かったことだろう。  「いらっしゃいませ。この店は、お任せでお飲み物を提供いたします。 お客様は、こちらが初めてですよね。それでよろしいですか?」 「それは、知りま

#1 「ナチュなる坊や」の思い 不毛な夫婦の口喧嘩について

ぼくは はるま3才、みんなから「ナチュなる坊や」ってよばれているんだ。なぜって ぼくの話す言葉は、なぜか全部「ナチュなる」に変換されるから。 たぶん、パパやママがぼくの本当の言葉を聞いたら、腰を抜かすだろう.だって、ぼくは、3歳とは思えない洞察力をもっているから。 今朝のパパとママの会話だってそうだ。いつも同じことがぐるぐる回っているばかり。 今日はパパのお休み。ママはパパの大好きな唐揚げを入れたお弁当を作り、公園にみんなで出かけ、芝生でくつろごうと楽しみにしていた。

#2 「ナチュなる坊や」の思い ママがぎゅ〜っ!

今日はいつきちゃんのところに遊びに行った。家が近所で幼稚園が いっしょ。 ぼくのママが、いつきちゃんママに相談している。「うちのはるま、先週3歳になったのに、まだ『ナチュナル』しか、言葉が出ない。心配だから、どこかに相談した方がいいのかなあ」 「そうねえ〜。私は、はるまちゃんの『ナチュナル』には、いろいろな意味があるように思えてしかたがない。一回一回表情が違うし、言い方にも変化がある気がするんだよね。何よりはるまちゃんの笑顔は、まるで天使のようだから。今はこれでいいのかと

#3「ナチュなる坊や」の思い さみしげなおじいさん

金曜日の朝、ママと『ナチュなる坊や』こと、はるまくんは、近くの公園にお散歩へ。静かで、木々の多いその場所は、2人のお気に入りだ。 ゆっくり散歩に来たのに、たくやくんのママとばったり会った。この二人のおしゃべりは、ちょっとやそっとでは終わらない。いつもの決まりきったような話を聞いているのは退屈なので、ママから見えるところで、公園に来ている人のウォッチングを始めた。 向こうから走ってくる人は、何かの大会に出るのかな?鍛えられた身体で、ぼくの横を風のように通り抜けていった。

#4「ナチュなる坊や」の思い ママ友のランチ会

 はるくんのママは、同じ幼稚園のママ友のランチ会に参加している。2か月に1回の外でのランチは、日頃の家事から解放されて、いい気分転換になる。だが、今度の会場は、オープンしたホテルのお洒落なレストラン。それもなんとお値段 8,000円。  このランチ会、最近は値段が高すぎて、参加を続けることができるのかと、はるまママは正直、思っている。最近オープンした駅前のスーパーだったら、何日分も食材が買える金額だ。  場所の提案をすることの多いひろとママは、私たちとは金銭感覚が違うよう

僕にはむかし翼があった

 翔太はある病気がもとで、今は足がふらつき、どうしても前屈みで歩いてしまう。むかしは、スポーツも万能で、颯爽としていたのに……  どうしても伸びない背中を鏡にうつし、今朝も溜め息をついてしまった。  そんな翔太に対し、友人も周りの人達も優しく気遣ってくれる。 だけど僕が僕を許せないんだ。情けなくなってしまったことに。  自分でも本で調べたり、体操をしたり、工夫はしているんだ。 筋力アップもしているし、視線が大切だと聞けば、試しているし…… でも、どうしても変わらない。

夢の街

「いくら夢と言っても、これはあまりにも現実離れしてませんか」 担当者は、僕のコンセプトと設計プランを眺め、『まったく何も分かっていないんだから』という表情を浮かべた。 「それは、そうだ」 予想どおりの反応が返ってきて、僕は内心『やった』と思った。 〜そのコンセプトとは〜 もともとある自然を活かし、いろいろな年齢層、バックグラウンドをもつ人々が 楽しく暮らす街。 現在見る住宅の多くは、機能的だが、無機質な傾向にある。 好みの問題もあるが、温かみのある美しものとは言えない。