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ナンジャモンジャ博士のマジカル発想 #1身体編

 ヒロシは、なかなか寝付けず、何度も寝返りを打った。すやすやと寝息だけが聞こえる、静まり返った病室の窓から眺めると、窓辺の木々の葉っぱが、大きく揺れている。たぶん、外ではざわざわと音を立てているに違いない。
 
 明日は3回目の手術だ。小さい時から成長に合わせて手術をすることがわかっていて、自分でも覚悟はあるつもりだ。でも、やはりそうはいっても、手術の前の晩はドキドキして不安になる。
 
 13歳のヒロシにとって、病気はずしりと重たいものだ。ふだんは平気な顔をしていても、絶えず将来の不安がのしかかってくる。たいてい中学1年生ぐらいは
スポーツやゲームに夢中で、これといった悩みもなく、暮らしている子が多いだろう。でも主治医の赤塚先生が感心するように、ヒロシは聞き分けが良く、同じ病室の子供たちにとって、優しく頼りになるお兄ちゃん的存在なのだ。

 赤塚先生は治療してくれるだけでなく、手術前の僕の不安を減らそうと面白いことを言って笑わせてくれる。僕も将来、赤塚先生のようにお医者さんになりたい。僕なら病気の人の気持ちもよくわかるから、僕なら…僕ならきっと………。

 そう考えているうちに寝てしまったのだろうか。
コトン。何か物音がして目を開けると、そこに白衣を着た見たことのないお医者さんのような人が立っていた。

「こんばんは。私はナンジャモンジャ博士といいます」
「あなたはここの病院の方ですか?」
ヒロシはちょっと心配になって尋ねた。するとその人は
「違います。別のところで研究をしています。私は昨年、画期的な治療法のアイディアを思いつきました。ただ今の段階では、その発想は机上の空論だと馬鹿にされそうです。そのため私はずっと、私のアイディアを将来、実際に形にしてくれるお医者さんを探していました。そんな時、君の願いを偶然耳にしたんです。それでいてもたってもいられず、ここに来ました。私の考えをぜひ君に聞いて欲しいんだ」その人は力強くそう言った。

 「えっ! 僕はまだ中学生です。えーっと…これから勉強して頑張らないと…
実は成績もあんまり良くないし、将来お医者さんになれるかどうかもわからないし…」
すると、その人は、目を見開いて
「なんと弱気なことを言ってるんだ。君の決意は立派だった。だから、私の心が動かされてここに来たんだよ」

「君もよく考えてごらん。現在、たくさんの優れた薬があって、難しい手術もできるようになっている。でも一向に患者さんの数は減らない。これには治療についてコペルニクス的な発想の転換が必要だ。一言で言うと、我々がたどってきた進化を逆の方から見ると言うことだ。例えばトカゲはシッポを切られても再生できるよね。再生医療に何か応用できる事は無いだろうかと考えてみる。
 人間が優位だと言う考えは、一度横に置いて、動物の生態から学べる事はないかと考えてみるのが大事だと私は思う。

 私の考えた方法は、【脱皮システム】
病気の元となる病原体等や病巣を1枚のシートに集め、それを蛇が脱皮するように剥がすという治療法だ。これだと患者さんの身体に負担もないし、医師の負担も軽減する。どちらにとっても画期的な方法だと思うんだ。

 この発想を思いついたのは、3Dプリンターを見てからだ。以前なら考えられなかった「平面を立体にする発想」私はそれに驚き、逆の発想を考えてみた。いわゆる「複雑な立体(身体の状況)を平面に移すこと」それを医学に応用できないかと言うことだ。着想はあっても、実際に1枚のシートに病気の原因を集める方法が難しい。光に反応するものや好む色、周波数などまるで獲物を一箇所に追い込むようなアプローチが必要だ。

 「博士、僕にはまだわからないことも多いけれど、そのアイディアがすごい事はわかりました。僕が将来お医者さんになって、博士のアイディアを実現できるように研究したいです」
 
 「どうもありがとう。ところで君の名前は、なんと言うんですか」
 「影山ひろしといいます。でもナンジャモンジャって変な名前ですよね。そんなすごい研究をしているのならば、例えばシュワルツコフ博士とか、聞いただけでも権威があるようなかっこいい名前にすればいいのに…」
  
 「わかってないなあ、君。僕の名前で、小さな子どもたちを笑わせるためだよ。君はもう大きいけれど、小学生にもならない子が手術を待っている。その子たちに「ナンジャモンジャはおまじないと教えるんだ。子どもたちとわたしが一緒に『ナンジャモンジャ ナンジャモンジャ』と言ってるうちに、最後には笑い出して心配な気持ちが吹っ飛ぶんだ。シュワルツコフなどかっこいい名前は、子どもたちは、覚えられないし、もちろん言えないけれど…。ナンジャモンジャだったら大丈夫‼︎」

 「将来、大人になる君に言うけれど、人を見た目で判断してはいけないよ。着ているものとか、お金を持っているとか、会社で偉い人だとか…君ならわかると思うけど、そういう外見に惑わされずに、心の目でその人を見てください。君ならきっと、その人の心の深い部分がわかると思うよ」
 
 「それとね。体への応用はこれからだけど、心が安らぐためのシートはもう出来上がっています。この部屋にいる子で、優しく傷つきやすい子はいませんか?
将来のために優しい心をガードすることができます。君の手術が無事に終わったころにまた来ます」そういってナンジャモンジャ博士は病室を後にした。

 そうだ。同じ部屋のソウタくんに心のシートの話をしてみようか。

 僕もナンジャモンジャとおまじないの言葉を唱えて、寝ることにしよう。
「おやすみなさい🌙」

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おまけ 
 タイトルの絵は、私と月一回のご褒美ランチに行く友人が、去年の残暑見舞いに書いてくれたイラストです。私の突拍子もない話を面白いと言ってくれる貴重な人です。

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