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モッツァレラチーズの恋

僕はモッツァレラチーズのアドリアーノ。
シェフのこだわりでイタリア直輸入だ。
なぜか、いつもトマトのひとみちゃんと一緒になる。
今日も前菜 カプレーゼで。
「このさわやかなトマトとモッツァレラチーズの組み合わせ、最高!!」
「2つの相性、抜群だね。ここのカプレーゼ大好き!」
そうお客さんが喜んでくれるんだ。

 ところが最近、ひとみちゃんに元気がない。
「アドリアーノはいつも優しいけど、なんだかつまんなくなってきた
私は、刺激的な恋がしたいの」

 僕はマイルドさが売りだから、どうやったら刺激的になれるのか
わからない。そこで仕方なくシェフにかくれて、黒 こしょうを多量に
まとって皿の上にのった。

「わあ、こしょう辛い トマト、チーズ、バジルのハーモニーが
美味しさの鍵なのに」

 覚悟のこしょう作戦も失敗し、『ブルガリのブラック』のように危険な香りのする男にもなれそうにもなかったので、故郷イタリアのアマルフィー海岸に帰ることにした。

 イタリアに戻ったら、僕はいきなりもてはじめた。こちらの男性は、陽光が
ふりそそぐような明るさが特徴。ちょっと日本の風にあたった僕は、遠慮深いので、ミステリアスだともてはやされた。初めてのモテ期が来たらしい。

 イタリアントマトのマルティーナとキアラは、ルビーのようにつややかで
ぐいぐい僕にせまってくる。その勢いに面くらい、はにかんだような笑顔が
かわいいひとみちゃんを思い出すのだ。

 ある日海岸を散歩をしていると、朝日を浴びて輝くホライゾンブルーの瓶を
拾った。中にメッセージが入っている。
開けてみると、



親愛なるアドリアーノ。

 私が間違っていました。でも悔やんでも遅いよね。
アドリアーノが姿を消してから、私はいろいろな人とコンビを組みました。

 中には刺激的な人もいましたが、他の女の子にもウィンクをし、心の平安が
ありませんでした。また、見かけがかっこよく「俺が、俺が」という人
には、中身のない、薄っぺらさを感じることもありました。

 アドリアーノといるときに感じたほっとする安らぎは最高のものだったのですね。失って初めて気がつきました。私がほんとにバカでした。

 このメッセージをアドリアーノが目にすることがあったら、
それこそ奇跡です。



 (ああ、僕たちがいた横浜とアマルフィーはつながっている)
「ひとみちゃーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーん」


 しばらく耳を澄ませたが、何も聞こえない。
「やっぱり無理だな」あきらめて帰りかけると、ずーっと遠くからかすかに


「アドリアーノ―――――――――――ーーーーーーーーーーーー」
確かに聞こえた。
 
 2人にとって離れていた時間は、さみしかったけど、
たからものだったんだね。



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