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喫茶 「マカチョーネ」〜今のあなた様にぴったりのお飲物を〜

#シロクマ文芸部   #ありがとう
 
 カラン コロン。ドアベルが鳴って、1人の女性が入ってきた。
歳の頃は27、8歳といったところだろうか。長いストレートの髪、
端正な顔。寒さのためか、こわばった表情だ。

 今朝は朝から北風が強く、通りの木立もほとんど葉を落としてしまった。
歩いてここまでくる間、さぞかし寒かったことだろう。

 「いらっしゃいませ。この店は、お任せでお飲み物を提供いたします。
お客様は、こちらが初めてですよね。それでよろしいですか?」

「それは、知りませんでした。でも外は寒いし、お任せでいいです」

「承知いたしました。常連のお客様はご存じですが、店名の”マカチョーネ”は沖縄の方言で”お任せで”という意味なんです」
 
「以前ホットチョコレートをお出したら、大変お怒りになられた方がいました。子どもの飲み物だとおっしゃって。でもお帰りになるころには、少し笑顔になられていました」

 女性の顔を見ると、さきほどより顔のこわばりはなくなったが、どことなく憂いがある。クールビューティという感じだろうか。

 莉子は窓から冬枯れの街をぼんやりと眺めていた。それにしても、先週末の拓海からの別れは唐突だった。本当は訳を聞きたかったけど、すがるようなみじめな真似は、プライドが許さなかった。

「今日は、今年一番の寒さだそうです。寒いというより、冷たくて痛いというほうが、ぴったりかもしれませんね。お客様にはミルクティーをおつくりしました。どうぞ」

「ミルクティーは、久しぶりだな」
と莉子はつぶやいた。
この温もり、ほっとする。じんわりと芯から温まる、やさしい味。

 この温かさ。私に今一番、必要なことかもしれない。拓海も別れの前に私に言いたかったことが、たくさんあったかもしれないな。でも私に受け入れてくれるような優しさが感じられなかったのだろう。
 二人には楽しい時間もあったのだから、私も傷つくこ辛いとを恐れずに、訳を率直に尋ねればよかった。別れを切り出すほうも辛いと思うから。

「ごちそうさまでした。すっかり温まりました」
 
 マスターありがとう。そして『かじかんだ心』にふれた一杯の
ミルクティーにも、お礼が言いたい。

https://note.com/komaki_kousuke/n/n5abb0c3e6758




 

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