報道出身の法学徒@司法試験

元NHK記者。社会問題についての記事を書いてます。司法予備試験R5○

報道出身の法学徒@司法試験

元NHK記者。社会問題についての記事を書いてます。司法予備試験R5○

最近の記事

虐待事案における一時保護義務付け訴訟は提起可能か〜行政法の「原告適格」から考える〜

1 前回までの議論 以前の記事で述べた一時保護の義務付け訴訟について続きです。 一時保護は児童福祉法33条1項に定められた措置で児相の判断で子どもを保護することを言います。 そして、児相に対して「一時保護をしろ」という内容の訴訟を提起することができるかということを前回の記事で考えました。 https://note.com/super_moraea20/n/ne09810196779 そこで問題になったのが子どもの訴訟能力です。基本的に未成年は裁判を起こすことができない

    • 今国会で共同親権導入か 〜虐待をめぐるオーストラリアの「失敗例」から学ぶべきこと〜

      昨日(8日)共同親権導入を盛り込んだ民法改正案が閣議決定されました。このような社会的に動きがあるタイミングで何か書きたくなるのが記者という生き物です。 ということで今回は共同監護(共同親権に類似するもの)を2006年に導入したオーストラリアの事例がかなり参考になりそうなので紹介します。 本来は事前に準備しておくのが優秀な記者なのですが、そこまではできなかったので軽く触れる程度しかできません。詳しいことは今後の自分への宿題として残す意味も込めてメモ書き程度のものを書いておき

      • 孤独をテーマに書いてみたら?と言われたので、、、

        私の記事をよく読んでくれる友人に「孤独について書いてみたらどうか」と言われたのでとりあえず書いてみます。 孤独って言葉、カッコつけてる感じがするので使うのは少し気がひけるのですが、この2年で自分が経験した感情は間違いなく孤独という言葉で表現するに値するのではないかと思っています。 仕事を辞めて背水の陣で、ロースクールにも通わず、予備校の映像授業だけを頼りに合格率4%の司法予備試験に挑んだのですから状況としては孤独なんだとは思います。 でも、私の孤独はそれだけで説明できる

        • 児童虐待と司法〜裁判例から読み解く法改正の意義〜

          =================================== 要約 ・虐待がないにも関わらず、一時保護を継続したことが違法と判断された事例 ・一時保護の「開始」と「継続」は求められる判断の慎重さが違うことが判決から読み取れる。 ・今回の判決で重視されたのは、一時保護の判断における裁判所による司法審査の結果。平成29年に新たに導入された司法審査の制度の意義が見て取れる。 =================================== 1 一時保護が違法となる

        虐待事案における一時保護義務付け訴訟は提起可能か〜行政法の「原告適格」から考える〜

          児童虐待における今の法律の問題点〜考えるべきは子どもの「訴訟能力」

          ======================================================= 要約 ・親は「一時保護をするな」と児相を訴えることはできるが、子どもは「一時保護をしてくれ」と児相を訴えることは法律上できない。 ・これは民事訴訟法において未成年者に訴訟能力が認められていないことに原因がある。 ・今ある訴訟能力の例外規定を広げて考えることで、児童に訴訟能力を認めることはできないか。 =================================

          児童虐待における今の法律の問題点〜考えるべきは子どもの「訴訟能力」

          ホスト売掛金と旧統一教会③ なぜ人はホストや宗教に大金を貢いでしまうのだろうか

          ホスト売掛金問題と旧統一教会問題を比較しながら共通する問題を考えていく3部作の最終回。 今回は少し法律の議論を離れて前提に立ち返って考えます。 私は無意識に彼らに対して「助ける」という言葉を使ってしまうことがあります。 しかし、「助ける」という言葉は果たして正しいのでしょうか? もしかしたら、宗教やホストにお金を貢ぐ行為が彼らにとっての生きがいかもしれません。彼らにとってはそれが生きる糧、人生の幸せなのかもしれません。それを「間違っている」と否定して奪うことは「助ける

          ホスト売掛金と旧統一教会③ なぜ人はホストや宗教に大金を貢いでしまうのだろうか

          ホスト売掛金と旧統一教会② 心理状態ではなく、貧困という結果からの規制を考える

          ======================================================== 要約 ・前回は「マインドコントロール」というキーワードを軸に議論を展開したが「自由な意思とは何か」という哲学的な問いにぶつかった。 ・今回は、心理的な面よりも、寄付者や消費者が貧困に陥るという結果に着目した規制について考える。 ======================================================== ホスト売掛金と旧統一教

          ホスト売掛金と旧統一教会② 心理状態ではなく、貧困という結果からの規制を考える

          新人記者だった私に少年院の少年が教えてくれたこと

          私がテレビ局の記者をしていた時の話。 まだ現場に出て数ヶ月の新人だった私は初めての自分の特集番組を作っていました。 テーマは「若者の間で広まる大麻」。 10代20代を中心に大麻が流行っているという話を警察から聞いたことがきっかけでした。実際に大麻を使用して捕まった少年のインタビューを交えて企画にしてはどうかと先輩に提案され、私はすぐに少年院の取材交渉に取り掛かりました。 当時記者を初めて数ヶ月。いかにもテレビらしい仕事に身震いをしている自分がいました。 番組の構成と

          新人記者だった私に少年院の少年が教えてくれたこと

          ホスト売掛金と旧統一教会① 共通するキーワードは「マインドコントロール」

          ホストにハマった女性が多額の借金を抱え、売春等に走ってしまうという実態は以前から知られていましたが、最近になってニュース等で扱われることが増えてきました。 実はこの問題、旧統一教会をめぐる問題と共通することが多いと私は感じています。(去年、旧統一教会をめぐる議論をみながら「あれ?ホストってどうなんだろう、、、」と思っていました) この2つの問題は宗教的信仰心を利用するか、恋愛感情を利用しているかというだけの違いであって、どちらも相手の心理に働きかけてお金を使うように誘導す

          ホスト売掛金と旧統一教会① 共通するキーワードは「マインドコントロール」

          「認知症とどう向き合うか」 文学作品から社会の変化を追う

          1 85歳以上の4人に1人が発症する「認知症」 認知症は、脳の神経細胞の働きが低下して、社会生活に支障をきたす状態を指し、発生原因によっていくつかに分類されます。よく聞くアルツハイマー病は認知症の中の分類の1つです。 認知症は85歳以上の4人に1人が発症すると言われている一方で、根本的な治療薬はまだありません。 医療の発達により平均寿命が伸びたことで日本人が向き合わなければならなくなった新たな難題と言えます。 本題に入る前に、そもそも認知症に「向き合う」ということはど

          「認知症とどう向き合うか」 文学作品から社会の変化を追う

          「教養」ってなんだろう「知性」ってなんだろう

          先日友人とキャンプに行った時の話です。 初めてのキャンプでした。 苦労して起こした焚き火を囲みながら、東京では決して見られない満点の星空の下、ホットワインを啜る。 「こんな時にウクレレでも弾けたらなー」 そう言った僕に友人は大体のキャンプ場では楽器が禁止されていることを教えてくれました。 「静かに自然を楽しもうと思っているのに隣から楽器が聞こえてきたら迷惑だろ」 友人はそう言いました。 さて、ここで困ったことが起きます。 僕には全くそうは思えないのです。 まあ、

          「教養」ってなんだろう「知性」ってなんだろう

          日本の家族法制の転換点「共同親権」〜本当に守るべきなのは誰か

          ======================================================== 要約 ・離婚後も共同で親権を行使することを認める「共同親権」の制定が検討されている ・賛成反対両意見をまとめた上で、私見を述べるならばどちらかというと反対という立場をとる。理由は以下2つ。 ・共同親権が導入されることのリスクの大きさを考えると、導入のメリットはそれを上回るものと言えない。 ・海外では共同親権が導入されつつあるものの、それは海外においては法的にも親で

          日本の家族法制の転換点「共同親権」〜本当に守るべきなのは誰か

          避難殺到の埼玉県虐待禁止条例改正案はなぜ生まれたのか

          ======================================================== 要約 ・埼玉県虐待禁止条例改正案が批判を集めている ・「虐待」の定義を広く設定しすぎたことが批判を集める理由であると考えられる ・県民へのメッセージを発信したいという思いが強く出過ぎたために、既存の法律や条例の分析が疎かになったことが原因ではないか ========================================================

          避難殺到の埼玉県虐待禁止条例改正案はなぜ生まれたのか

          ジャニーズ問題「メディアの沈黙」について改めて考える

          ================================ 要約 ・何を報ずべきかということについて絶対的な正解はない ・社会としての問題意識の変化も考慮すべき ============================= 1 社会の問題意識の変化 昨今、ジャニーズ問題に対する「メディアの沈黙」がよく批判されます。 前提として報道機関が「報ずべきこと」とは何かということについて絶対的な正解はないと私は思っています。 ですから、今の基準、問題意識では「報ずべきこと」

          ジャニーズ問題「メディアの沈黙」について改めて考える

          性犯罪から子どもを守る「日本版DBS」 なぜ法案提出は見送られるのか

          ====================================================== 要約 ・日本版DBSの内容について与党内から異論があり内容が再検討される見通し ・異論の内容の1つは「義務化の対象が狭い」というもの ・学習塾等にまで対象を広げるのであれば、法律上定義されていないこれらの職種を定義するという作業が必要になってくるためかなりの時間を要する。 ・対象を広げるべきだという意見は理解できるが、現状では学校等に導入して、様子を見ながら対象を広げ

          性犯罪から子どもを守る「日本版DBS」 なぜ法案提出は見送られるのか

          ジャニーズ性加害問題 子どもを守るため参考にすべき「ニューヨーク州児童実演家に関する規則」

          ============================== 要約 ・芸能活動を行う児童を保護する法律が海外ではいくつかあるが、そのうちニューヨーク州のものを紹介する ・細かい規定があるが、特に重要だと思ったのが「管理者の設置」と「親の責任の明記」 ================================ 1 ニューヨーク州児童実演家に関する規則 ジャニーズ問題をきっかけに弱い立場にある年少タレントを守る方法が社会的課題として上がっています。 日本では児童を雇う

          ジャニーズ性加害問題 子どもを守るため参考にすべき「ニューヨーク州児童実演家に関する規則」