新人記者だった私に少年院の少年が教えてくれたこと

私がテレビ局の記者をしていた時の話。

まだ現場に出て数ヶ月の新人だった私は初めての自分の特集番組を作っていました。

テーマは「若者の間で広まる大麻」。

10代20代を中心に大麻が流行っているという話を警察から聞いたことがきっかけでした。実際に大麻を使用して捕まった少年のインタビューを交えて企画にしてはどうかと先輩に提案され、私はすぐに少年院の取材交渉に取り掛かりました。

当時記者を初めて数ヶ月。いかにもテレビらしい仕事に身震いをしている自分がいました。

番組の構成としては、「インターネットに『大麻は安全』という誤った情報が流れ、それを信じた若者が安易に手を出している」という警察から言われたストーリーがベースになっていました。

当然少年院のインタビューでも「大麻なんてしなければよかった。ネットを信じた自分が馬鹿だった」というようなコメントを求めます。

粘り強く交渉して取材許可を取り、カメラマンを引き連れたインタビュー当日。少年は私にこう言いました。

「大麻を使ったことは後悔していない」

おいおい。心の中で頭を抱えた私に少年はこう続けました。

「大麻を使って少年院に入ったおかげで自分の生き方を見直すことができた。『頑張る』ということを学んだ。大麻関係なく、少年院に入らなかったら自分の人生はめちゃくちゃだった。だから大麻を使ったこと自体は後悔していない」

少年のコメントは私が想定したものとは完全に違いました。

でもその言葉は少年の本心だったはずです。大人の顔色を伺って少年院を出ることだけを考えているような少年だったら、「後悔していない」だなんて気の利かないコメントはできないはずだからです。

少年が更生教育を受けながら自分自身を見つめ直し、生き方を改めたいと決心した結果が「後悔していない」という言葉に現れていました。

用意していたストーリーとかなり違ったので番組作りには相当苦労しました。

でも私は少年に心の底から感謝しています。

テレビ的に使いやすいコメントではなく、彼は彼自身が考えたことを自分の言葉で私にストレートに伝えてくれたからです。

「大麻で警察に捕まった」
それはその少年の表面でしかありません。

もっと人としての考え方、生き方、根源的なところに原因がある。

そして少年は自分自身の根源に目をむけ、それを改めて新しい人生を歩もうとしていました。

「ネットの情報を信じた若者が、、、」なんて。

社会はそんなに単純ではない。人間はそんなに単純ではない。
表面だけを見ていたら人間の本質は理解できない。その人の根源に目を向けなければ、問題の本質をつくことはできない。

人を見るとはどういうことか、自分自身を見るとはどういうことか。

少年が私に教えてくれたことは、記者を辞めた今でも私の中に残っています。



彼はもうとっくに少年院を出ているはずです。

ちゃんと更生したかな。薬物は辞めたかな。就職したかな。幸せになったかな。

二度と会うことはないであろう彼の人生を、私は想像することしかできません。


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