今国会で共同親権導入か 〜虐待をめぐるオーストラリアの「失敗例」から学ぶべきこと〜

昨日(8日)共同親権導入を盛り込んだ民法改正案が閣議決定されました。このような社会的に動きがあるタイミングで何か書きたくなるのが記者という生き物です。

ということで今回は共同監護(共同親権に類似するもの)を2006年に導入したオーストラリアの事例がかなり参考になりそうなので紹介します。

本来は事前に準備しておくのが優秀な記者なのですが、そこまではできなかったので軽く触れる程度しかできません。詳しいことは今後の自分への宿題として残す意味も込めてメモ書き程度のものを書いておきます。


1 オーストラリアの「失敗」

オーストラリアは2006年に共同監護を導入し世界的に注目を集めました。

しかし、その後DVや虐待事案が多発したことから、DVや児童虐待の危険性を重視した形で2011年に共同監護の見直しがなされ、さらなる法改正がされました。

専門家の中では2006年の共同監護導入は「失敗だった」という評価が多くされているようです。


2006年の法改正は父親の権利擁護の団体の強力なロビーイングによって実現したもので「離別後の親子の交流は望ましく、しかも多ければ多いほうがいい」という考え方にもとづいていました。

その背景にはPAS(片親阻害症候群)という考え方があります。PASとは離婚後、子どもと同居している親が相手方の悪口を子どもに吹き込み、洗脳してしまうという考え方です。

PASは以前はかなり信じられていた理論で、ブラジルでは2010年に片親阻害を規制する片親阻害法という法律ができたくらいです。

ただ、PASには科学的根拠がないとの批判もかなりあります(※私見後述)。

さらに、オーストラリアの2006年の法改正では「相手の悪口を言わない親がいい親である」という趣旨のフレンドリー・ペアレント条項というものがありました。その結果、相手方の虐待があったとしてもそれを言い出せないという事態が発生しました。

こういった事態を踏まえて、2011年にはフレンドリー・ペアレント条項が削除されるなど、より子どもの安全を重視した改正がなされました。

日本における共同親権の反対派の主な反対理由は、DV・虐待加害者との縁が切れなくなるというものです。その反対理由を検討する上で、オーストラリアの事例はとても参考になるのではないでしょうか。


2 今回の日本の法改正は?

日本の今回の法改正について、現状の報道のされ方、記事の書き方を見ていると、記事のタイトルに「養育」という言葉が入っていることや、記事を書く順番から察するに「養育費を取れるようにする」という点が強調されているように感じます。

そうだとすると「子と親の交流」という点が強調されたオーストラリアの事例とは立法目的が違うように見えますが、養育費がもらえるようになるというメリットを強調することで、反対派の批判をかわそうとしているという見方もできなくはないのかなと。


まだ閣議決定がされたばかりで、法案の細かい検討ができていないのですが、今後は、今回の法改正とオーストラリアをはじめ海外の事例をもう少し丁寧に比較検討できたらと思っています。


〈参考文献〉
https://www.amazon.co.jp/親権法の比較研究-床谷-文雄/dp/4535520445

https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/e0227efcace5710356f57afbf4636e4304a94e95

https://www.moj.go.jp/content/001354872.pdf



<補足>

PASについて私見
科学的な根拠がないという批判のされ方をしますが、PASの考え方自体は感覚的には十分あり得るように感じますし、子どもの心理のような繊細かつ曖昧な分野においては科学的な正確性を強調しすぎるべきではないのではないかと思っています。
要は理論の使い方の問題です。相手の悪口を言っている場合、本当に相手方がひどい親である場合もあれば、相手方から子どもを引き離すための子どもの洗脳という場合も考えられます。
PASは妥当する場面もあれば妥当しない場面もあります。ケースバイケースというのが正しい使い方でしょう。PASを強調しすぎるあまりDVや虐待を見落としてしまってはならないのは事実ですが、PASを完全否定するのも違うのかなと。

<追記3/11>
PASについてもう少し補足します。

米国心理学会(APA)は2008年以下のようにコメントしています。
「APA は…片親疎外症候群(PAS)といわれるものを実証するデータが不足していることを指摘した。しかし,我々はその症候群について公式の見解を持つものではない」

「ないことが証明された」と「あることが証明できない」は違いますが、上記のコメントを見る限り後者であるかなと思います。

これを踏まえるとPASが「症候群」という医学的な用語で表現するべきかは微妙なところです。

しかし、PAS(Parent Alienation Syndrome)というラベルを付けるかどうかは別として、「PAS の枠組みだけでは問題を捉えきれないことが明らかとなったに過ぎず,Alienation が法律家にとって緊急に解決しなければならない課題であることに変わりはない」と述べる実務家もいます(参考文献)。

PASは立法や裁判において根拠にできるような理論ではないですが、その問題意識自体については無視できないものがあるといえるでしょう。

なお、PASは虐待親の都合のいいように使われる危険性もあるということは再度強調しておきます。

<参考文献>
http://law-baba.com/wp/wp-content/uploads/hpb-media/rikon2.pdf

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