虐待事案における一時保護義務付け訴訟は提起可能か〜行政法の「原告適格」から考える〜

1 前回までの議論

以前の記事で述べた一時保護の義務付け訴訟について続きです。

一時保護は児童福祉法33条1項に定められた措置で児相の判断で子どもを保護することを言います。
そして、児相に対して「一時保護をしろ」という内容の訴訟を提起することができるかということを前回の記事で考えました。

https://note.com/super_moraea20/n/ne09810196779

そこで問題になったのが子どもの訴訟能力です。基本的に未成年は裁判を起こすことができないという民事訴訟法上の規定が問題になります。

では、どうすれば一時保護の義務付け訴訟を提起できるか。

この問題について二つのアプローチが考えられます。

①人事訴訟法や家事事件手続法の考え方を参考に子どもに例外的に訴訟能力を付与する
②親以外の大人が原告となって一時保護の義務付け訴訟を提起する

順番に検討します。


2 人事訴訟法の考え方は応用可能か

まず①について

通常の民事訴訟においては判断力において未熟な未成年が自らを害することのないように訴訟能力が制限されます。

しかし、身分を形成する家庭に関する事件においては本人の意思の尊重がより重要視され、子どもによる訴訟行為や手続行為が可能となります。それを定めたのが人事訴訟法や家事事件手続法です。

例えば親権停止の審判(民法834条の2)においては例外的に子どもに手続行為能力(この場合は訴訟ではないので手続行為能力ですが訴訟能力と似た概念)が認められます。

一時保護について明文に規定はないのですが、親権停止と一時保護を比較すると親権停止の方が重い効果を持つことを踏まえると、親権停止において手続行為能力が認められるのであれば、一時保護の義務付け訴訟において子どもに訴訟能力を認めても良いのではないかと考えられます。

ただ、現行法では厳しい気がするので明文の規定はどこかで作る必要があるでしょう。

もっとも、訴訟能力や手続行為能力の前提として、そもそも意思能力が必要となります。

そして意思能力の相場が14歳〜15歳程度であることを踏まえると、虐待事案のにおいて使える場面がどの程度あるのかというところには疑問が残ります。


3 親以外の大人が原告となって義務付け訴訟を提起する

次に②について

日弁連による子どもの虐待防止・法的実務マニュアルは、虐待されている子の祖父母等が義務付け訴訟を提起できないか「今後の議論が待たれる」としています。

「議論が待たれる」と書かれているので、この場で議論してみましょう。(司法試験頻出の論点が関わってくるので試験勉強も兼ねて)

そもそも誰が原告となるかという点について、日弁連は「祖父母等」としていますが、核家族化が進んでいる現代において祖父母がどの程度現状を把握できるのか。そもそも、祖父母の監視が行き届いている家庭において虐待がそこまで発生するのか。

むしろ医療関係者、教育関係者の方が子どもを外部から専門家の視点で見ることができるので期待が持てそうな気がします。
特に死亡事案の報告書等を見ると医療機関の意見はかなり重要であるといえます。

そう考えると教育機関や医療機関が原告となって一時保護の義務付け訴訟を提起できるかということは、議論の価値があるといえます。

そもそも義務付け訴訟は行政事件訴訟法3条6項1号に規定されたものでその訴訟要件は37条の2に列挙されています。

「重大な損害」「他に適当な方法がない」あたりの要件は認められそうですが、「法律上の利益を有する者」(3項)に当たるかが一番大きな問題になるでしょう。法学徒なら誰もが習ういわゆる「原告適格」の議論です。

4 一時保護義務付け訴訟における原告適格

※一応一般の方でも理解できるようにというコンセプトで書いてはいるつもりですがここから先は諦めます。仮に司法試験で出されたらこんな感じ書くかなという感じです。

では教育関係者や医療関係者は「法律上の利益を有する者」に当たるか。これらは処分の名宛人でないため9条2項の基準に従って検討する。

「法律上の利益を有する者」とは当該処分がされないことにより自己の権利もしくは法律上保護された利益を侵害され、又は侵害されるおそれのある者をいう。そして、当該処分を定めた行政法規が、不特定多数者の 具体的利益を専ら一般的公益の中に吸収解消させるにとどめず、それが帰属する個々人の個別的利益としてもこれを保護すべきものとする趣旨を含むと解される場合には、こ のような利益も法律上保護された利益に当たる。

まず保護される利益としては「自分が関わる子どもを保護する利益」が想定されるが法律上その利益は保護されるか。

一時保護の根拠法規は児童福祉法33条1項である。
そして同法2条は「全て国民は、児童が…心身ともに健やかに育成されるよう努めなければならない」としている。同条は全国民の義務を示すとともに、その義務を遂行するに当たって認められる権利、利益をも保護する趣旨と解される。

そうだとすると同法は一時保護される児童本人のみでなく、児童に関わる国民が、当該児童を保護するために必要な利益をも保護するものと解される。

もっとも、全国民に原告適格を拡張するのは妥当でない。

そこで「関連法規」(行訴法9条2項)である児童虐待防止法の規定を参照する。
同法5条1項は学校、医療関係者等について「児童虐待を発見しやすい立場にあることを自覚し、児童虐待の早期発見に努めなければならない」としている。

そうすると、これらの者については児童の保護についてより強度の義務、権利が保障されていると解される。

さらに、児童虐待において重大な回復不可能な結果を招く危険があることを踏まえると、上記の職務上児童と関わる者は「法律上の利益を有する」といえる。

したがって、教育関係者、医療関係者に一時保護の義務付け訴訟の提起が認められる。


5 今後の議論

とりあえず自分なりに考えられるところまで考えてみました。

見たことのない議論を展開しているのでどこまで妥当な話をしているのかあまり自信はありません。

もう少し個別事案を見たりすると考え方は変わるかもしれませんがとりあえずの現状の思考経過は残しておきます。

まだまだ大雑把な議論ではあると思うので今後もっと詰めていきたいです。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?