「エンターテイナー」

 冷え切った空間。鉄の檻の隙間からスープの入った器が届いた。ハエの入ったスープ。ハエを取り除きながら、ちびちびと啜る。

「おい! 九十三番!」

「はっ!」
 別の檻から人の声が聞こえる。ここでは人は番号で呼ばれる。もうどれくらい自分の名前を聞いていないだろう? ここに俺達の人権はない。ただ与えられた事を受け入れる。それだけだ。

 午後からまた作業が始まる。俺は急いでスープを流し込んだ。

 作業を終えて、檻へ戻ろうとした時、けたたましい音が鳴った。どうやら脱獄した奴がいるらしい。

 発砲音と監視員の怒号が聞こえる。死んだような空気が流れていたこの場所に革命が起こった。

 これは革命だ。今、心臓が跳ね上がっている。脱獄囚が誰かは分からない。でもこのワクワク感を提供してくれたことに大いに感謝している。ありがとう。

 檻の中に戻る前、監視員の会話が聞こえた。
 どうやら脱獄囚は逃げ切ったらしい。素晴らしい。俺もそのエンターテイナーに続かねばならないな。そして、俺は脱獄の計画を練ることにした。

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