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兄の執念 ~ 守護の熱 第三話

 いつも、天体観測の撮影をしている、例の星見の丘に、また、羽奈賀はねながと行った。そこで、手紙を開いた。

 まあ、皆の言う通りの内容のものだった。明日の帰りに、返事を聞きたいから、また、下校時に、うちの学校の正門で待つという。

「なんかなあ・・・で、どうするの?まぁや」

 羽奈賀が、呆れ顔をしている。それと、なんというのか、訳知り顔だ。

「ああ、断る。だが、どう言ったら、いいんだ?校門前なんて、場所が悪い。皆が見てる」
「別の所で話せば?」
「ああ、ここに連れてくれば、いいかな?」
「ここは、ダメだよ」
「え?なんで?」
「だって・・・ここは、まぁやの大事な場所だから、付き合わない子に教える必要はない」
「まあ、そう、だけど」

 なんとなく、羽奈賀の言わんとする所は解るが。

「校門前なのは、断りにくくしてるから。後、荒木田が多分・・・」
「・・・面倒臭いなあ」
「だろ?そうだよな」

 あれ?急にテンションが上がったぞ、羽奈賀。何かで、揉めそうなのが、目に見えるから、面倒臭いが、まあ、仕方ない。断ろう。元々、そのつもりではあるし。

「まあ、断るから。嫌なのは、断った云々で、騒ぎになるのと、少なくとも、女子だから、嫌な思いをさせるのは・・・」
「いい男だねえ、辻くんって、すっごい、優しい」
「なんだそりゃ?・・・なんか、嫌味な言い方だな」
「ふふふ、いいよ、ハッキリ言ってやる方がいいんだ、こういうのは」
「うん、まあ、俺もそう思う」

 その翌日、下校時、荒木田実紅が、校門で待っていた。あああ、なんか、既に、周りに、結構な数の見物人が・・・。案の定、やかましい。指笛が鳴ったりとかしている。羽奈賀が、険しい顔で、一言、言った。

「思いやりは要らないよ。恥を掻いても仕方ない。まぁやが優しいヤツだって、知ってるから、こんな、皆が見てるとこでさせるんだ。もう、その態度が許せない。だから、女は嫌いだ」

 よく解らないが、そんな羽奈賀を含めて、周囲が、異常なぐらいに注目している。ここは早めに終わらせようと、俺は思った。

「辻くん、読んでくれたのね?」
「ああ。でも、俺は今、そういうのは、よく解らないので、付き合うとかいうのは無理だ。ごめん」
「・・・」

 あ、と思った瞬間、下を向き、顔を抑えたまま、また、踵を返して、走り去ってしまった。

 周囲の空気が、一気に、淀むように、緩んだ。溜息が、複数、聞こえた。

「お前っ、馬鹿だなあ」
「なんでだ?辻君」
「実紅ちゃんだそ、皆が付き合いたい、って、思ってる子なのに・・・」

 ああ、また、絡んできた。こいつら、面倒臭いなあ。本当に。

「それも、そうだけどさ、雅弥、荒木田の妹だそ」
「ああ、それもある・・・ヤバくね?」
「何されるか、解んないぞ、『妹、泣かしたな』って」

「下らない。帰ろ、まぁや」
「え、・・・ああ」
「これで、良かったんだよ。長患いが一番良くないんだ、こういうことは」

 羽奈賀が、また、訳知り顔で、そう言いながら、俺の腕を、強く引いた。その日は、そのまま、帰った。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「おい、辻」

 来た。荒木田だ。

「ちょっと、来い」

 翌日の昼休み、荒木田に、校舎の屋上に呼び出された。教室を出る時、また、クラスメートが、戦々恐々としていた。羽奈賀も、心配そうな顔をしていたが。

「サッカー部、なんで、来ねえの?」
「え?」
「あれだけ、中学で上手いの、知ってたから、誘ってたのによ」

 ああ、そっちか。その話なのか・・・。

 ・・・そんなこともあったな。でも、俺は、ちょっと、やりたいことがあるから、継続的に部活はやっていない。

「天文部に入るのか、と思ってたんだが、そうでもないらしいし」
「・・・よく、知ってるな。話したか?そんなこと」
「中学の時、星の写真展示、理科の先生に言われて、出してただろう?」
「ああ、そうだった」
「・・・気持ちわりいんだよ。なんで、俺、お前のこと、こんな、探らされてんのよ」
「え?」
「実紅だよ。ずっと、小学校の頃から、お前が好きだったから」

 ああ、そういうことか・・・結局、その話になるんだ。

「あああ、泣きつかれた。なんとかしてくれって」

 荒木田謙太。こいつは、ガタイが大きくて、噂では、暴れると手が付けられないらしい。怒ると怖い奴で、中学の時に、喧嘩して、一人で、五、六人の高校生をしたこともあるらしい。聞くところによると、荒木田の家は、例の山の宿のヤクザとも関係があるらしく、本人も怖いが、その父親がバックだということで、地元では、恐れられているという節もある。

 しかし、不思議なことに、それでも、小中学校でも、俺は、こいつと揉めたことはなかった。理由は、ひょっとして、そういうことから、だったのか?

 確かに、その時は、県立の共学の学校だったから、荒木田に、妹がいたのは、知っていた。そうだ。一度だけ、小学生の時に、誕生日会とかいうのに呼ばれた。

 金持ちの家で、場違いだと思ったが、あの時は、変に、大人たちまでが、俺を持ち上げていたのを思い出した。誕生日だからと、サッカーの雑誌を持っていってやっただけで、ご馳走が出て、他にも、土産に沢山、クッキーやら、何やらもらって、「お父様によろしく」と、荒木田の母親からも、頭を下げられた。あれは何だったのか、という記憶でしかないのだが、あの時も、妹が、やたら、隣に来ていた気がする。

 多分、妹の件もあるが、あの頃から、土地の取引のことがあったのだろう、と思う。父は、多くは語らないが、そう広くはないが、うちの山中の所有地を、荒木田の父親の会社と、薹部とうぶ開発が狙っているのは、俺も知っている。そして、その交渉が、まだ続いているらしい・・・というか、親爺は、その話を、蹴り続けているのだが・・・。

 そして、今回は、俺が、その荒木田の妹の申し出を蹴ってしまった形だ。俺は、怒髪冠を衝いて、荒木田が殴りかかってくるのではないかと、覚悟をしていたのだが、意外に穏やかな様子に、拍子抜けをした。

「頼みがあるんだけど、実紅みくと付き合ってくれねえか?」
「・・・え、あ、いや、だから、それは、もう、断らせてもらった。悪いけど」
「女、いるのか?」
「ああ、いないって、そんなの」
「そうなのか?お前、つらがいいから、もう、とっくにそんなの、だと思ってたから」

 どういう意味だ?そんなの、って。

「なんで、実紅じゃ、ダメか?」
「・・・というか、今、そういうの、どうでもいい、っていうか・・・」
「どうでもいい?実紅だぞ。長箕女子でも、今年のミスとってる。あんなに、可愛いのに?」

 え?・・・ああ、鬼の荒木田も、妹は可愛いんだ。いいとこ、あるんだな。妹思いで、妹に弱い。なるほど・・・まあ、でもなあ・・・。

「よし、解った。じゃあ、PKで片を付けよう。俺が勝ったら、お前は、実紅と付き合え、解ったな」
「え・・・、そんなの、まずくないか?」
「へえ、自信だなあ、俺に勝てるのか?」

 っていうか、勝ち負けで、決める話じゃないだろ?それって。

 数日後、サッカー部の練習の後、部員や、見物人の集まる中、俺は、荒木田に恥をかかせてしまうことになる。結局、俺は、勝ってしまったのだ。

「当たり前だよ。万能なんだから、まぁやは」

 羽奈賀が、上機嫌でそう言った。いつも、味方でいてくれるが、今回は、ちょっと、鼻につくぐらいの態度だった。よく解らないが、応援してくれていたのは、いいのだが。

 当の荒木田は、悔しそうにしていたが、最後は、握手をしてくれた。解ってくれたんだな、と、俺はホッとした。

「その代わり、大会の時、助っ人、頼む」
「予定が合ったら」

 荒木田実紅の件は、これで収束したかのように見えた。
                             ~つづく~


みとぎやの小説・連載中 「兄の執念」 守護の熱 第三話

読んで頂き、ありがとうございます。
学園ものっぽいお話で(今の所)
長箕沢という田舎町での高校生の日常が続いています。
荒木田健太は、ちょっと、ジャイアンみたいな感じかな、
と、ふと、思いました。
第二話は、こちらからです。
未読の方は、是非、お読み頂けたら、嬉しいです。

この後のお話の続き、第四話は、こちらからです。
引き続き、お楽しみください😊


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