それぞれの② ~守護の熱 第十七話
発表会は滞りなく終了した。評判も良く、チームは、両方の学校代表として、県からも表彰された。甘木先生も大喜びで、理科の研究発表として、資料を学校に寄贈することになり、何枚かは、理科室に展示されることとなった。長箕女子の方にも、同様に写真を寄贈することとなった。また、噂に尾ひれがつきそうだが、もしそうなってもいいと、気にしないことにした。
休み時間に、八倉がメンバーを呼び止めて、今回の打ち上げをやろうという話が出ていると伝えてきた。
八倉「露原さんたちがやりたいと言っていて、浜辺でバーベキューの案が出ていて」
梶間「あー、もう、そんな話、はえーなぁ・・・」
小津「発信源だなあ、お前、言ったんだな」
坂城「デザート持ってくから、果物とか、冷たいもの作って」
梶間「あんこ職人、本領発揮だな」
坂城「なんとでも言ってよ」
小津「おー、余裕、坂城の癖に」
なんか、あの後、梶間は、松山さんとのことが公認になったらしい。坂城は、中村さんと、お菓子作りが昂じて、色々とやっている。あんこクッキーは、あの後、評判が良かったので、坂城の店で商品化した。あそこも、公認みたいな感じらしいが、坂城自身は、「まだ、そんなんじゃないから、由紀ちゃんの前では言わないで」と、大真面目に言っている。
八倉「あの、漁師小屋、一応、今回は、きちんと、組合長に許可取るから、色々と使えそうだし、借りといても、いいんじゃないかな」
梶間「火の準備もあるしな、後は、浜辺にかまど組んでさ。雅弥もできるだろ、それ」
雅弥「ああ、やったことあったけど、いつかな?」
小津「次の土曜の午後」
坂城「皆、来ちゃうんじゃない?」
八倉「テント出すよ。大きい奴。あんまり、街道の方から見えないようにする。あと、実紅ちゃんの所も、なんか、ご両親から出してくれるらしい」
梶間「バーベキューじゃねえの?」
八倉「それはそれ」
坂城「楽しみだなあ。終わっても、皆で会えるの、いいよねえ」
なんか、皆、穏やかな感じになってる気がした。それはそれで、良いことで、というか、自分のことに、それぞれが、取り組んでいる気がする。あまり、構われなくなった感じがするのは、多分、その所為かもしれないと思った。
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帰り道、小津が追いかけてきた。水曜日だ。皆、言わないが、水曜日、アルバイトが休みなのを知ってるようで、訳知り顔な感じで来る。小津も淳と同じような感じがした。
「その後、どう?」
「何が?・・・帰り、一人か?」
「最近は、皆、一人な感じかな、それぞれ、立ち寄りがあるみたいだしさ・・・あれさあ、やめた」
「あれ、って?」
小津は、俺に近寄り、耳打ちした。
「あれ、『青』だよ」
「・・・ああ、そうなんだ」
「でさ、俺はともかくとして、八倉もやんないって」
「そうか」
「・・・つまりさ、まじ、いいの?雅弥は?」
何の話だ?こういうの、多くないか?最近。
「八倉、実紅ちゃん、らしいよ」
唐突だが、そうなるなら、それで結構な話だ。想像はつかないし、する気もないが・・・。
「っていうか、すぐ、どーの、ってことでもないらしいけど、結局、裏がさ、あるからね」
「・・・」
「ああ、裏ってさ、ほら、親同士のあれ、家同志のどうのって・・・」
「・・・」
「お前、俺ばっかに喋らせるなよ、相槌ぐらい、打てって」
小津とは、中学の時に越してきて、クラスも一緒になったことがなかったので、その実、あまり、よく知らない。淳みたいに、小学生の頃に遊んだとかでもない。しかも、確か、親が薹部銀行だったかで、ちょっと、調子良くて、探られているような感じがしないでもない。八倉とも繋がってるしな。そこが、淳とは、少し違う気がしている。
「ああ、梶間から、聞いたんだ。実紅ちゃんとは、何にもないっての、本当だって」
淳が、良い意味で、言いふらしてくれたのか。まあ、最近、あんまり、言われないとは思っていたから、そういう意味では良かったのだが・・・。
「で、何?」
「・・・うーん、お前とさ、前から、話したかったんだ、俺」
「そうなのか」
「ちょっと、梶間とかの方が、仲良いみたいで、喋ってるから。幼馴染なんだってな」
「まあ、小学生の頃からだし、よくある感じだけど」
「まあ、そうだけど、あの星の展示のやつとか見て、本当に真面目な奴だと思ってさ。八倉、お前のこと、ボロクソ言うから・・・あ・・・悪い」
「まあ、いいよ。知ってるから」
「そう、だよな、・・・なんか、ごめんな」
「で、何?」
つまりは、何か、話がしたいわけだ。先日の淳の感じに似ているが。
「俺んち、今日、誰もいないんだ。ちょっと、寄ってかないか?」
「何か、話?」
「ん、まあ、そう」
「八倉じゃなくて、梶間じゃなくて、俺?」
「坂城でもないけどな、あははは・・・」
「解った。あまり、長くなければ」
「やった。じゃあ、行こう」
別れ道に差し掛かる前に、話をつけたかったのだろう。俺の帰り道の方向と逆に、少し、腕を引かれた。馴れ馴れしいが、珍しい、小津の仕草だった。
そもそも、いつも、豹雹としていて、比較的、誰とでも話が合わせられる。東都から来たらしいから、少し、都会的な感じがする。坂城が「小津はモテるから」と言っていたが、その内容は、すっかり忘れた。俺より、背があった。成績も上位に張り出されていたり、運動神経も、そこそこ良い方だ。・・・ぐらいの俺の認識だが。
「まあ、上がって」
「お邪魔します」
社宅と言っても、この辺りでは、最新のマンションで、綺麗な設えだった。薹部建設の建物なんだろう。綺麗なエレベーターがあった。こんなの、この辺りの古いビルにはない。フロアでは一つしかない、大きめの角部屋で、ドアの色が違う部屋だから、覚えやすい、と言われた。そう、教えてもらっても、個人的には、また、来ることはないと思うが・・・。
綺麗な室内だった。いわゆる、ドラマとかに出てくる、ちょっと、金持ちの家だ。確か、小学生の頃だったか、居間で、明海さんが、兄貴とドラマで見ていて「こういうとこ、憧れる」と言ったら、兄貴がなんとなく、ニヤけていた。あの後、兄貴が、俺を見た。なんか、俺は、あの場から、逃げ出した。全く関係ないが、急に、そんなことを、思い出した。今、思えば解る。新婚だったから、そういうことだ。
「こっち、俺の部屋」
大きさは、俺の個室と、大して、変わらなかったが、置いてあるものが、皆、新しかった。当時、皆が欲しがっていた、大きなラジカセがあった。タレントの女の子のポスターが貼ってあった。テレビのCMに出ている子だ。
「ああ、ヨーコちゃん、辻もファンなの?」
「いや、そういう名前なんだ、知らなかった」
「そうだよ、コーラのCMに出てるだろ、水着で、可愛いよなあ・・・あ、実紅ちゃんの方が可愛いか・・・あ、じゃなかった、・・・ごめん」
部屋に、小さな冷蔵庫がある。これは凄い、と思ったが。小津は、そのCMのやつの缶のコーラを、二本取り出し、俺に一本、手渡してきた。
「はい」
「ああ、ありがとう」
「その辺、座って、好きなとこに」
小津は、自分のベッドに腰かけた。それを見て、俺は、鞄を下し、対面で絨毯の床に胡坐をかいた。小津は、コーラを開けて、一口飲んだ。
「で、何?」
「まあ、そう急くなって、へへ・・・飲めよ、コーラ」
「ああ、いただきます」
そういうと、俺が飲むのを、待ってるかのように見ている。まあ、所在なく、コーラを開けて、一口飲んた。自分では、買って飲まないので、すごく、久しぶりだった。口の中が痛く感じた。
「コーラ、飲めた方が、ビール、飲みやすいよな」
何の話だ?なんとなく、自慢気に感じる。なんか、そういう所がある。
「ビール、飲んだのか?」
「ああ、こないだ、法事があってさ、親戚のとこで」
「・・・」
「ああ、まあ、なんていうか」
別に、言いつけたりする話でもないだろう。よくある話だ。親戚の大人とかに、そんなにされるやつ。
「ビールの話か?」
「の、わけないじゃん。・・・お前、水曜バイトないから、時間あるだろう?」
「まあ、やることはあるが」
「そうだよなあ、俺たち、受験生だし・・・ああ、宿題やろう、一緒に。腹減ったら、食うものあるから、俺、ちょっとしたものなら、作れるし・・・ああ、お袋、今日、親父の銀行の奥様会とかいうのに行ってて、帰り遅いんだ」
「いい。勉強は一人でするものだから」
「・・・もう、お前さあ、親父みたいなこというんだなあ、・・・で、誰と付き合ってんの?・・・実紅ちゃんじゃない子って?・・・聞いたよ、梶間から」
「え?」
ああ、淳には、何も言ってないのに、あいつ、余計な尾ひれつけやがって・・・。まあ、いいか。真実なんて、誰も知らないんだから。そういう話をしたいのか?最近、多いな。
「何の話だ?」
「お前も、『青』要らないんだろう?・・・なんか、梶間たち、見てたら、子どもっぽくてさあ・・・お前も、そう思ってる癖して・・・俺、当ててやろうか?お前の相手」
何、言ってんだ?こいつ・・・。
「年上だろ?ずっと、上の女の人」
・・・顔に出しちゃ、ダメだ。
「・・・っつうか、そういう話なら、俺じゃないだろう?」
「いやいや、辻、俺と同じなの、多分、お前だけだから、八倉だって、あんな感じだし」
要は、なんか、上を行きたい、自慢したい、そういう感じなのか。やっぱり、そういう奴なんだな。こいつは。
しかし、自慢するようなことなのか。それって。関係ないと思うが。焦ってすることでもないし。自然に・・・じゃないのか?それに、人に言って、ひけらかすことなのか?意味が解らないが。それにしても、なんでまた、決めつけるんだ?・・・まさか、何か、知っているのか?いや、そんなことない筈だが・・・。
「で、何?」
「えー、いやあ、なんかさあ・・・へへへ」
いわゆる、そういう話がしたいだけなのか?感じとしては、梶間が、松山さんと付き合ってなければ、確実に、自慢し放題の話を聞かされる相手にされるんだろうな。多分、梶間は、松山さんとのことを護るから、ひけらかさないに違いないし。ここは、余計なことは言わずに、早く、退散すべきだ。コーラを、多めに、口に含んだ。早く飲み終わってしまおう。
「まだ、あるぞ、コーラ、好きだったんだな」
「いや、もういい、久しぶりに飲んで、美味かった。ご馳走様」
「ああ、えーと、あのさ、親戚って、どうなのかなって」
なんだ?
「ひょっとしたら、ヤバいのかな、って思って」
「何?どういうこと?」
「お前、弁護士目指してる、って言ってたから、そういうの、よく知ってるのかなって」
一応、案件があったんだな。つまりは、そういうことだ。まあ、仕方ない、淳の時と一緒だ、質問してやろう。
「何があった?」
「こないだの大型連休の時にさ、法事があってね、ちょっと、東都の方でさ、遅くなったから、うちの家族は、まあ、おばさんの家に泊まらせてもらったんだけど・・・」
そういうことか。
「で、マンションなんだけど、そこの従姉がさ、別の部屋に住んでて」
ああ、よく解った。
「んで、何?親戚だと、ヤバいって・・・?」
「そう、そういうことなんだけど・・・昔から、そういう時、よく遊びに行ったりしてくれて、今回も、子どもレベルで放逐されたわけよ。子どもたちで遊んでらっしゃいって。だから・・・」
そういうことだ。
「・・・従姉は、四親等だ」
「四親等って、・・・ダメなのが、三親等までだから、・・・大丈夫ってやつ?」
「法律的には、民法で、結婚できるってことが示されてる」
「ああ、そうかあ、よかったあ」
「結婚、とか、もう、考えてるのか?」
「ああ、いやあ、なんか、ダメなの、あるじゃん。血族とか、そういうの」
「そうか。判明したな。じゃ、俺、行くから」
「あ、待てって、ホッとした。こんなこと、八倉とかに言ったら、どうなるか・・・流石、辻だ、良かったよ、ありがとう」
「うん、いいな、大丈夫だ、別に、誰にも言わないから。・・・じゃあ」
「ああ・・・」
「まだ、何か、あるのか?」
小津は、一度立ちかけた、俺の身体を押さえつけるように、座らせる。
「東都大、俺も一応、あと少しだけど、頑張ろうと思って、どうせ、マンションで一人暮らしの予定だから、お前も、そうするんだろ?」
また、来た。俺の「東都で一人暮らし」設定。
「なんか、皆、言うから、ハッキリ言っとくが、東都に行くことになったら、叔父の所に居候の予定だから」
「またまたあ・・・なんで、大地主の息子が、居候なんだよ?年上の彼女がいて」
・・・また、デマになる言い方をするな。
口が軽そうだ、ヤバいぞ、こいつは。
「全部、違う話だ」
「嘘だ。お前、感じ変わったから・・・何歳?相手?いいじゃん、俺、ここまで教えたんだから」
・・・淳だな。同じ言い方をしている。淳にだって、一言も肯定なんかしてないのに・・・どうでもいいことじゃないのか、人のことなんて。
「百歩譲って、事実があっても、人に話すことじゃないだろう?」
「・・・そうなんだ。秘密主義だなあ。言えない相手なんだ」
「小津も、東都大に行くなら、それでいいじゃないか。目標ができて、やる気が出たなら」
「ふーん・・・解った。大事にしてるんだ。俺も見習わなきゃな、よーく、解ったよ」
「もう、いいか?やることがあるから、悪いけど・・・」
「また、会うんだ。今度、大学の見学の時とか、一緒に行くんだ」
「良かったな」
「緑聖女子、出てるんだ。系列の銀行に勤め始めて・・・」
「そうか、名門一族な感じじゃないか」
「えー、そんなんじゃないよ・・・お前だって、大地主じゃんか」
大地主ではない。ちょっとした、土地持ちなだけだ。大地主っていうのは、薹部の人や、その実、羽奈賀の家の方なんじゃないかな?まあ、今、それは、どうでもいい。
「早く、会いたいんだよなあ」
「・・・」
「えへへ、なんて顔してるんだよ、雅弥。・・・まあ、たまに、こういうの、聴いてくれると嬉しいんだけど」
「そうか、良かったな。休みに会うのか?」
「そう」
つまりは、聞いてほしかったのか、惚気話をか。
色々だな。本当に。人それぞれだ。
悪いが、呆れ顔丸出し、だったかもしれない。
小津が、呆けてる隙に、俺は、荷物を持って、玄関に出た。
「いいよな。ちょっと、上なんだ。大人で。ヨーコちゃんなんて、目じゃないよ」
「・・・」
「今度、お前のお姉さんの話も聞かせてよ」
「・・・」
「良い匂いで、柔らかくて・・・」
「・・・お邪魔しました」
「仲間だからな、俺たち」
「・・・」
なんだ。最後のは。勝手に一緒にするな・・・
良い匂いで、柔らかくて・・・
気を付けないと、・・・そろそろ、坂下に行こうと思ってたのに、小津には、要注意だ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
それにしても・・・、なんとなく、皆、浮足立ってる。
俺は・・・、まあ、状況がそうなんだろうけど、忙しさを理由に、坂下には行けてない。それに、こんなに、周囲の鼻が利く状態というか、それぞれが、そんな雰囲気に向いている。羽奈賀がいたら、なんか、上手いこと、言ってくれるんじゃないか・・・。
「関係ないでしょ」
そうだな。そんな感じだ。・・・そうか、そうすると、俺の知ってる範囲では、『青』を・・・という奴はいなくなったんだ。そう思ったら、少し、安心した。小津の家からの帰り道、ふっと、別れ道で立ち止まった。家と星見の丘に行く方向。右手を選ぶ。星見の丘の方・・・、つまり、清乃のアパートの方だ。
どうだろうか?
今、俺のしていることは、これで、いいんだろうか?
いや、違うだろう。そういう意味じゃなくて、今日は、ついでだし、なんか、ダメだ。色々と考えて、踵を返した。別れ道まで戻り、自宅の道に入ったら、力が抜けた。
ああ、こんなに・・・、
自分の感じに気づく。淳や小津と、多分、俺も同じなんだ。
帰り道、歩きながら、考えた。このまま行ったら、制服姿だ。清乃の素性が解る人間が見たら、『青』紛いのことだと、こないだ、清乃の同業の女性が言ってたからな。きっと、皆、大人は、そう見るだろう。着替えていくにも、どうだろうか?親や明海さんに見られても、なんか、勘ぐられないだろうか?バイトは、このまま行くのだから、本来は家に寄らない方がいい。
あと、そうだ。給料日の後だ。行くなら。そうだった。
結論が出た。これで、俺の思考は、なんとなく、普段通りに落ち着いた。丁度、家に着いた時だった。
この時、俺は、少し後ろから、人が尾けてきていたことに、気づくことができなかった。
~つづく~
みとぎやの小説・連載中 それぞれの② 守護の熱 第十七話
お読み頂き、ありがとうございます。
クラスメートのその2、小津君が出てきました。
都会育ちで、マイペース。そして、学業、スポーツ、ルックスという
自らの平均点の良い、ステイタスを誇っています。
自分がちょっと、皆より進んでいると思っていて、
やっぱり、口が堅い雅弥に、自慢がしたい。
小津君が、雅弥の状況を決めつけているのは、
その実、どういう意図なのか?さて、どうなのでしょうか?
さてさて、次回は、少し、趣向が変わります。
第十八話は「地元筋」です。
この回は、雅弥から離れて、もう一人のクラスメート八倉君の視点で語られて行きます。お楽しみに。
この話は、こちらのマガジンから、纏め読みができます。
長くなってきてますから、振り返りも、お勧めです。
未読の方も、是非とも、お立ち寄り、お勧めします。
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