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手投げは精度(コントロール)が悪い:プロ野球選手121人の解析結果が証明

▼ 文献情報 と 抄録和訳

プロ野球投手のピッチングメカニクスと精度との関係

Manzi, Joseph E., et al. "Pitching Mechanics and the Relationship to Accuracy in Professional Baseball Pitchers." The American Journal of Sports Medicine (2022): 03635465211067824.

[ハイパーリンク] DOI, PubMed, Google Scholar

✅ 前提知識:コントロールをどのようにどのように算出しているか?
- 絶対中心偏差という数値によって算出している
- 中心からの実際の投球までの距離のばらつきをpitching grid(恐らくストライクゾーン幅:65cm × 65cm)に対するパーセンテージで出していると思われるが、詳細はまだ理解しきれていない(イメージ図を作ってみた)
- この抄読を読むにあたっては「中心ターゲットからのばらつき具合いで、値が小さいほど精度が高い」と解釈してみよう

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[背景・目的] 野球の研究において、投球精度のバイオメカニクス的予測因子は十分に評価されていない。投球精度の高い投手がキネマティクスや上肢運動学の面でどのように異なるかは不明である。目的は全身運動学的および上肢運動学的パラメータによって、精度の高い投手と低い投手を区別すること。

[方法] 121名のプロ野球投手が、モーションキャプチャ技術(480Hz)を用いて評価しながら、8~12球の速球を投げた。投手は,投球チャート中心に対する各投手の平均球の絶対中心偏差が平均から0.5SDより大きいか小さいかによって,高精度群(n = 33),中精度群(n = 52),低精度群(n = 36)に分けられた.分散分析を用いて、群間の運動学的および動力学的な値を比較した。

[結果] 絶対中心偏差(14.5% ± 6.7% vs 33.5% ± 3.7%グリッド幅;P < .001)は低精度群と比較して高精度群で有意に小さく,球速(38.0 ± 1.7 vs 38.5 ± 2.0 m/s;P = .222)に有意差はなかった.ボールリリース時のリード膝(右投手の場合の左膝)屈曲(30.6°±17.8° vs 40.1°±16.3°;P = .023)は,高精度投手で有意に小さかった.正規化肩内旋トルクのピーク値(5.5%±1.0% vs 4.9%±0.7% BW×BH; P = .008)、正規化肘関節曲げトルク(5.4% ± 1.0% vs 4.8% ± 0.7% BW×BH; P = .008)、正規化肘内力(42.9% ± 7.3% vs 38.6% ± 6.2% BW; P = .024)において、低精度のグループは高精度グループと比較して有意に大きかった

[結論] プロの投手では、精度が高いほど投球腕の運動量が低下していた。これらの投手は、投球の後半でリード膝の伸展が増加し、より安定した地面との係合と上肢への運動エネルギーの伝達が可能になる可能性があった。プロの投手は、投球の正確性を向上させ、肘関節曲げ伸ばしを軽減するために、投球の最終段階でリード膝の伸展を増加させることを検討することができる。

[臨床的な関連性] 精度の低い投手における肘関節曲げ伸ばしトルク、肩関節内旋トルク、および肘関節内反力の増大は、このグループの傷害リスクの上昇に寄与している可能性がある。

▼ So What?:何が面白いと感じたか?

もう、これは『めっちゃ面白い』だろう!
長年言われてきた、「手投げはあかんやろう」が科学的に証明されたのだ。
しかも、プロ野球選手121人を対象とした質の高い研究によって!
さらに、AJSMという、世界超一流スポーツ科学雑誌の掲載において!

この論文の肝は主に3つ。
①下半身が使えておらず②手投げになっている選手は、③コントロールが悪い

▶︎ ①下半身が使えていない選手はコントロールが悪い
吉福のモデルという、図に示したような並進運動→回転運動を説明するモデルがある。

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これによれば、下半身は固定か、骨盤-大腿骨間の衝突を強めるような運動をすることで並進運動をより強烈なものにすることができる。
そして、「固定か、骨盤-大腿骨間の衝突を強める」戦略こそが、膝関節伸展だ。
この研究において、コントロールの良かった投手群の方が有意にリリース時の膝関節が伸展していた。
この結果は、下半身が使えていない投手はコントロールが悪い、と解釈できる。

✅ Related research
Whiteley, Rod. Journal of sports science & medicine 6.1 (2007): 1–20. >>> PMC.

▶︎ ②手投げになっている選手はコントロールが悪い
投球動作にとって重要な肩関節内旋と、肘関節屈曲、肘関節内反の各トルク(身体が発揮した回転力)が、コントロールが不良な群において有意に大きかった。
この結果は、上半身の力が入っていた「手投げになっている」選手はコントロールが悪い、と解釈できる。

▶︎ ③投球動作におけるコントロールの定量化
まだ詳細は分析が必要だが、コントロールを今回の研究のように定量化できれば、それと投球動作メカニクスの様々な側面との関連を分析することができる。

なんにせよ、伝統的に言われてきたことを科学的に証明した、この手法!この結果!心より感服した。感動すらした。
これからは、さらに勢いこんで「手投げはあかんぜよ」を選手に伝えよう!

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