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カルテ参照のコツ。後方視的研究の限界を最小限に

📖 文献情報 と 抄録和訳

電子カルテのコード化されたデータとナラティブデータを用いた変形性膝関節症の発生率と有病率。母集団に基づく研究

📕Arslan, I.G., Damen, J., de Wilde, M., van den Driest, J.J., Bindels, P.J.E., van der Lei, J., Schiphof, D. and Bierma-Zeinstra, S.M.A. (2022), Incidence and Prevalence of Knee Osteoarthritis Using Codified and Narrative Data From Electronic Health Records: A Population-Based Study. https://doi.org/10.1002/acr.24861
🔗 DOI, PubMed, Google Scholar 🌲MORE⤴ >>> Connected Papers
✅ 前提知識:コード化されたデータとナラティブデータ
- コード化されたデータ:特定の疾患に対する特定のコード(疾患名や疾患コードなど)
- ナラティブデータ:フリーテキストのカルテ記載、メモや他の医療提供者との間の通信
🔑 Key points
- オランダのプライマリケアデータベースを用いた本研究により、電子カルテの成文化データに基づく変形性膝関節症(OA)の現在の発生率および有病率の推定値が過小評価されていることが示された。
- コード化されたデータにナラティブデータを加えた場合、膝関節OAの有病率と発症率は約2倍になる。
- 本研究で適用したように、膝関節症に関連するキーワードを含むアルゴリズムを開発することにより、コードされたデータに加え、ナラティブデータを使用して、より正確な膝関節症の発症率および有病率を推定することが可能

[背景・目的] オランダの一般診療所における変形性膝関節症(OA)の発症率と有病率を、成文化されたデータとナラティブデータを用いて明らかにすること。

[方法] この後ろ向きコホート研究は、Integrated Primary Care Informationデータベースを用いて実施された。コード化された膝関節炎患者を選択し、ナラティブに診断された膝関節炎患者のみを識別するアルゴリズムを開発した。2008年から2019年にかけて、30歳以上の人の点有病率割合と発生率を評価した。併存疾患とコード化された膝OAの関連は、多変量ロジスティック回帰を用いて分析した。

[結果] コード化されたデータに加え、ナラティブデータを含めると、有病率は1.83~2.01倍(調査年以上)となり、2008年から2019年の間に有病率は5.8%から11.8%に上昇した発生率は1.93~2.28倍で、2008年から2019年の間に1,000人年当たり9.98人から13.8人に増加した。コード化された膝OAの患者のうち、39.4%が以前に膝OAとナラティブ的に診断されており、平均で~3年前であった。併存疾患は、コード化された膝OAの記録される可能性に影響を与えた。

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✅ 図. ナラティブデータ(緑)とコード化データ(青)に基づく変形性膝関節症(OA)の点有病率。コード化された膝関節症と診断された患者のうち、39.4%は、コード化された膝関節症と最初に診断される3年前の早い段階で、ナラティブに膝関節症と診断された。これらの患者は、ナラティブデータのみの有病率にはカウントされていない。

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✅ 図. ナラティブデータ(緑)とコード化データ(青)に基づく変形性膝関節症(OA)の発症率。コード化された膝関節症と診断された患者のうち、39.4%は、コード化された膝関節症と最初に診断される3年前の早い段階で、ナラティブデータにより膝関節症と診断された。これらの患者は、ナラティブデータのみによる年間発症率にはカウントされていない。

[結論] オランダのプライマリーケアデータベースの研究から、電子カルテのコード化されたデータのみに基づく現在の発症率および有病率の推定は過小評価であることが示された。ナラティブデータは、より正確に膝関節OA患者を特定するために、コード化されたデータに加えて取り入れることができる。

🌱 So What?:何が面白いと感じたか?

カルテ参照を含む後方視的研究の限界の1つに「情報バイアス」がある。
情報バイアスとは、情報収集をする段階で生じるバイアスのこと。
具体的にカルテ参照時に生じやすいバイアスとして、以下のようなものがある。

✅ 生じやすい情報バイアス
- カルテに記載されていない情報は得ることが出来ない
- もともとカルテは特定の研究を目的にデータを収集していないので「分類法・記載法が主治医によって統一されていない」
- 場合によっては「カルテの文字が汚くて解読できない」などの理由で欠測値が多くなり、データの質に問題がある
- 前向き(prospective)にデータを集めるのであれば、初めから収集すべきデータとその記載方法を研究者全員に周知しておくことでデータの質を高めることが出来る
🌍 参考サイト >>> site.

すなわち、後方視的カルテ参照は、患者の断片的な情報しか含まない
そのために、常に有病率/発症率の過小評価のリスクがある。
今回抄読の研究では、そのリスクを最小限に抑えるために「ナラティブデータの使用」を推奨している。
これは、特定箇所の疾患名、疾患コードではなく、日頃の自由記載のカルテ参照部分に該当するもの。
かくいう僕も、後方視的カルテ参照研究を、いくつか実践している。
その実践の中で感じたことは、「理学療法評価など特定時点の評価はとても有用だけど、それと同等かそれ以上に日々のカルテに記載された客観的観察情報、毎日の看護師の疼痛評価は凄く有用!」ということ。
だから、本研究を抄読したとき、心の底から共感したというわけだ。
その威力は2倍ほど結果を変えるという大きななものだった。

さて、もう少し大きな話。まず、以下の質問に答えていただきたい。
カルテ記載は、面白いだろうか?
ほとんどの人は「別に面白くはない。作業的なものだから」と答えると思われる。
だが、その部分について、もう少し深く考えたい。
当たり前のようだが、カルテ記載とは記憶ではなく記録である。
もう少し丁寧に言いかえると、「自分の記憶の中の一部を記録したもの」である。その日、患者を診察した中で、印象に残った部分、主要な部分だけを記載する。たとえば、腰痛がかなり強く出ていたのなら、「歩行中に腰痛(NRS7-8)を認めた」と記載する。
すべて現実の中で、1部だけを記載している。その腰痛者のカルテ記載の中には、微細に感じていた下肢の痺れ感は記載されていないかもしれない。すると、1年後、どうなるか?その患者の1年前の今日、その患者はただ「腰痛(NRS7-8)を有していた患者」になる。
何が言いたいか?
そのカルテ記載が、後世から見た『いま』を『つくっている』ということだ。僕が、あなたが、着眼した一部分を記録が、そのまま『いま』の歴史となる

歴史とは、断片的な記録をつなぎ合わせたもので、星座みたいなもんだ。
意味づけは、とても主観的に行えてしまう場合がある。
司馬遼太郎という偉大な歴史作家は、「歴史をつくる歴史家」といわれる。
その所以は、彼がすでにある歴史を記載しているのではなく、司馬遼太郎が記述したものが歴史になる、というもの。
このように、後世から見た過去とは、断片を繋ぎ合わせるがゆえに、とても自由度の大きいものになっている。
とくに客観的な情報が少ないときに、時として現実に起こったこととは全く違う過去が創出されてしまうことすらあるだろう。
少し、それた。
とどのつまり、記録とは、「ただ書き留めるという処理的な営みではなくて、後世から見たいまをつくる創造的営み」と言えそうだ。
もう一度問う。
カルテ記載は、面白いだろうか?
多分それは、面白い。

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