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筋膜の伸張はゴルジ腱器官の閾値を下げる

📖 文献情報 と 抄録和訳

ゴルジ腱器官による上筋筋膜力の検出

Maas, Huub, et al. "Detection of epimuscular myofascial forces by Golgi tendon organs." Experimental Brain Research 240.1 (2022): 147-158.

🔗 DOI, PubMed, Google Scholar

✅ 前提知識:ゴルジ腱器官は何をしている?Ⅰb抑制
- ゴルジ腱器官の反射とは、筋腱に持続的な伸張が加わるとその筋の収縮を抑制する反射。
- Ib抑制や自原反射とも呼ばれる。
- まず、筋腱が伸長されると筋腱移行部にある受容器(ゴルジ腱器官)が活動して、求心性の感覚ニューロン(Ⅰb感覚ニューロン)、脊髄の抑制性介在ニューロンの順に興奮が伝わる。
- 次に抑制性介在ニューロンが遠心性の運動ニューロン(α運動ニューロン)を抑制し、その筋の活動を妨げる。その一方で拮抗筋には運動ニューロンを興奮させるような反射が起こり、筋活動が促通される。

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[背景・目的] 骨格筋には、筋繊維の近位端と遠位端の両方に、複数の腱器官が埋め込まれている。このような空間的分布の機能の1つは、局所的にユニークな力のフィードバックを提供することであると考えられ、応力が筋内で不均一に分布している場合に、より重要になる可能性がある。隣接する筋間の結合によって発揮される力(すなわち筋膜上皮力)は、このような力の局所的な差異を引き起こす可能性がある。本研究の目的は、隣接する筋間の力学的相互作用が腱器官による感覚エンコーディングに及ぼす影響を調べることである。

[方法] 受動的アゴニスト筋の長さや相対位置を変えてランプホールドリリース(RHR)伸張を行い、単一求心性筋からの活動電位を軸内記録した。腓腹筋(GAS),足底筋(PL),ヒラメ筋(SO)の腱を骨格から切断し,サーボモータに装着した.これらの筋肉間の結合組織はそのまま残した.

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✅ 異なる実験プロトコルの筋肉の長さと相対的な位置の概要。
● 実験1(左):アゴニストによるランプホールドリリース(RHR)を適用したときの相乗的筋の筋腱ユニットの長さを示す図。ヒラメ筋(SO)、腓腹筋と足底筋の組み合わせ(GAS+PL)が交互にアゴニストとシナジストになった。Lsynergist = 0 mmは、膝と足首の角度が90°に相当する基準長さと位置を意味する。なお、筋肉の遠位腱のみを剥離し、サーボモータに接続した(外科手術の手順参照)。
● 実験2(右):アゴニストRHRをかけたときのシナジスト(SO)に対するアゴニスト(LG+PL)の位置の図。ΔPagonist=0は、膝と足首の角度が90°に対応する基準長さと位置を意味する。最も近位の相対位置(Pref - 3 mm to Pref)では、RHRは遠位に適用された。最遠位(PrefからPref+3mm)の相対位置では、RHRは近位に適用された。筋肉間の結合組織の連結を直線で模式的に示し、アゴニスト位置Pref-3mm(上)およびPref+3mm(下)について示した。LG+PL(アゴニスト)とSO(シナジスト)の遠位の腱を結んで1つのサーボモータに接続し、近位ではLG+PLの腱のみをサーボモータに接続したことに注意(「外科的処置」参照)。

[結果] GAS+PLを伸ばすとSO腱の閾値が減少した(p=0.035).また,外側腓腹筋(LG)腱の力閾値はSOの長さに影響されなかった(p = 0.371).また、筋-腱ユニット長を一定にしたLG+PLを近位から遠位へ変位させると、LG腱器官の力閾値が低下した(p=0.007)。

[結論] これらの結果は、腱器官の発火が隣接する相乗筋の長さおよび/または相対的な位置の変化に影響されることを示している。我々は、腱器官が筋膜上筋力による局所的なストレスに関する情報を中枢神経系に提供することができると結論付けた。

🌱 So What?:何が面白いと感じたか?

筋膜という魅力的な概念に、近年、エビデンスが実装されつつある。
例えば、筋膜による力の伝達、これは明らかにされている。

今回の論文は、「筋膜の長さ」が脊髄反射にどのような影響を及ぼしうるか、に1つの示唆を与えている。
その影響は、簡略化すると以下のようなものだった。

①筋膜が伸張される
②隣接筋のゴルジ腱器官の閾値が下がる

以前、面白い論文を見た。ストレッチ前のモビライゼーションが、ストレッチング効果を増大させる(📕 Capobianco, 2019 >>> doi.)というもの。
そのときは、単に局所循環の向上による影響かと思っていた。
しかし、もしかしたら、仕組みの1つは、以下に示したような「筋膜の伸張によるⅠb抑制の亢進」ではないか。

✅ Ⅰb抑制の亢進がストレッチング効果を増す?
①筋膜が伸張される
②隣接筋のゴルジ腱器官の閾値が下がる
③その筋のストレッチング効果が増す

もしその仮説が真ならば、循環をあげるように、ではなく「筋膜を伸張させるように」がpre-stretching前の介入として効果的ということになる。
これは、検証していく必要があるだろう。

「いやいや、そんなミクロなモビライゼーションの棲み分け、できるかい!」

できる。いまならできる。超音波によって、筋膜がある程度見れるようになってきているから。

その超音波でガイドしながらのモビライゼーション。
十分、やれると思う。
『筋膜』という概念の実態や機能が、だんだん、体系だってきた。
まさか、pre-stretchingモビライゼーションと筋膜がつながるとは!
やはり、connecting dotsは、後から起こる(起こす)ものらしい。
信じて、無目的に、勉強を続けてみよう。
今回のような嬉しい誤算が起こると信じて。

繰り返しですが、将来をあらかじめ見据えて、点と点をつなぎあわせることなどできません。できるのは、後からつなぎ合わせることだけです。だから、我々はいまやっていることがいずれ人生のどこかでつながって実を結ぶだろうと信じるしかない。
Again, you can’t connect the dots looking forward; you can only connect them looking backwards.
So you have to trust that the dots will somehow connect in your future.
スティーブ・ジョブズ

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