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運動学習の神経仕分け。連合相と自動相を担うニューロンは別

📖 文献情報 と 抄録和訳

運動学習における皮質スパインダイナミクスのシナプス前監督

📕Sohn J, Suzuki M, Youssef M, Hatada S, Larkum ME, Kawaguchi Y, Kubota Y. Presynaptic supervision of cortical spine dynamics in motor learning. Sci Adv. 2022 Jul 29;8(30):eabm0531. https://doi.org/10.1126/sciadv.abm0531
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🔑 Key points
- 動物が学習する過程で大脳皮質に出現するシナプスには、“学習”に重要な記憶回路の定着を促すシナプス、さらにその“記憶”を保持するシナプスが別のものであり、別々に機能することを発見した。
- 運動関連の大脳皮質内の神経回路は、“学習”“運動技能の獲得”に重要な働きを担っていることがわかった。
- 脳の深部にある視床から運動野へのシナプス入力は、学習した技能を“記憶”として保持し、自動運動機能に大事な役割を果たしていることがわかった。

[背景・目的] 脳では、神経細胞間で情報が複雑にやり取りされ、巨大なネットワークを形成している。特に、神経細胞間で情報を伝達する結合部はシナプスと呼ばれ、学習や記憶に非常に重要な働きをしている。実際、マウスに、特定の運動課題トレーニングをさせると、大脳皮質の中の運動を担う領域(第一次運動野)で、新たなシナプスが形成され、神経回路が変化していることはわかってた。しかし、それを神経回路の変化として明らかにした研究は過去になく、どの領野からの情報が、学習や記憶に重要なのかなど、その詳細は知られていなかった。学習過程において変化するシナプス結合を明らかにすることで、例えばナイフやフォークを使って食事する動作などが、練習することで上達し、徐々に無意識に行えるようになる脳内メカニズムが明らかになるものと考えらた。

[方法-結果-考察] 「運動学習」と「運動記憶」の神経メカニズムを明らかにするため、運動学習をトレーニングしたマウスのシナプスの変化を観察した。

視点1
まず、前肢を用いた運動学習課題トレーニングを続けたマウスの脳内を観察し、前肢の運動を制御している大脳皮質の第一次運動野に新しいシナプスができることを確認した(図1上図)。先行研究の報告通り、学習初期(学習1日目~4日目)においては、新しいシナプス結合が頻繁にできており、より運動が上達したマウスほど、その数が多いことから、運動技能の上達には新しいシナプス結合の形成が重要であることがわかる。

視点2
本研究では、この新しいシナプス結合が脳のどこからの情報を伝達しているのかを検証した。その結果、新しくできたシナプス結合の多くは、より高次の運動皮質(第二次運動野など)から送られてきていることを明らかにした(図1下図)。高次の運動皮質は、運動の計画や準備など、運動の実行に関わる意識的な情報処理を行なっていると考えられており、意識的に運動を補正するための信号情報が送られている可能性が考えられる。つまり、学習初期にはその運動課題を習得するために、動物は様々なことを「試行錯誤しながら」行っていると推察できる。

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✅ 図1. 「学んだ」ことが「身につく」過程のシナプス結合変化

視点3
学習の後期(学習5日目~8日目)になると、学習初期に新たに形成されたシナプス結合の多くは消失した。しかし、残存しているシナプスも存在しており、それらの入力元を調べたところ、視床からの情報を受けているシナプスが学習後期にも残存していることが新たに分かった(図1下図)。また、視床から情報が伝達されたシナプス結合は残存しているだけでなく、信号がより強化されていることも明らかになった。視床は自動化された運動信号を中継すると考えられる領野。これらの結果から、学習の後期には、視床からの入力が重要な役割を担っており、学習した運動の情報処理が徐々に自動化・習慣化していると考えられる。

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✅ 図2. “学習”と“記憶”は別々の経路を使っている

🌱 So What?:何が面白いと感じたか?

運動技能学習の3相説(Fitts)というものがある。

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🌍 参考サイト >>> site.

今回の研究では、この3相のうち「連合相」(意識を向けながら運動を修正・獲得する段階)と「自動相」(連合相で獲得された運動が自動化する段階)で担当するニューロンが異なることを明らかにした。
■ 連合相:高次の運動皮質(第二次運動野など)
■ 自動相:視床からの入力ニューロン

運動学習における自動化段階では、小脳や大脳基底核といった脳部位が想起される。
運動に対する、大脳基底核ループと小脳ループを見てみる。

スライド3

📕石田, 2017. 基底核と小脳の相互連関. CLINICAL NEUROSCIENCE. >>> site

これをみると、そのどちらもが最終共通路として視床→大脳皮質のルートを通っている。まさに、今回の結果と合致するところだ。
運動学習の連合相には、脳の表層で意識的な改変がなされ、そこが活動する。
一方、自動相では、脳の深部(基底核、小脳)の活動へと次第にシフトしていく。
それが『神経回路』の『変化』として観察された点が、この研究の新規性ということか。

なんにせよ、「視床 ≒ 感覚障害?」的な直感だけで終わらすと、痛いやつになってしまうかも知れない。
視床における運動の最終共通路を担当しているVlo、VPLoが障害されれば、自動化された運動が損なわれることが想定される。

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✅図3. 視床の外側部 🌍 参考サイト >>> site.

脳内は、単独のスポット(脳領域)が支配する世界というより、その結合の仕方やあり方(ニューロン結合・シナプス結合)によって意味合いが大きく変わってくる世界のような気がする。
だから、ニューロンの変化やニューロンの配置などを考えてみることも、必要なことだ。
突き詰めすぎると、ときに鼻血が出るけれど。
止血しながら、走ろう。

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