PPA peak performance age:投は走・跳より高齢でピーク
エリートアスリートのピークパフォーマンス年齢と年齢によるパフォーマンス進行の分析によるパフォーマンス予測
Gorzi, Ali, et al. "Prediction of elite athletes’ performance by analysis of peak-performance age and age-related performance progression." European Journal of Sport Science (2021): 1-14.
🔗 DOI, PubMed, Google Scholar
✅ 前提知識:ゴールデンエイジとピークパフォーマンスエイジ
- ゴールデンエイジ:『成長度(加速度的)』ゴールデンエイジとは、人間の一生のうちでもっとも運動神経が発達する時期。 名前のとおり「黄金の年代」と言われるだけあり、子どもの成長においてとても貴重な期間である。
- ピークパフォーマンスエイジ:『最大競技力(速度的)』。人間の一生のうちでもっとも当該競技のパフォーマンスが大きくなる時期。
🔑 Key points
- 陸上競技選手のピークパフォーマンスとピークパフォーマンス年齢を予測することができれば、目標設定、期待の管理、才能の特定、専門化年齢、計画、傷害予防、各年齢でのパフォーマンスの進行の評価などに役立つ可能性がある。
- 将来のピークパフォーマンスを予測するには、過去1~2年間のパフォーマンス(全種目)、身長(走幅跳男子、走幅跳女子、三段跳男子)、体重(円盤投げ男子)がそれぞれ重要である。
- 短距離走者と中距離走者では、投擲選手、競歩選手、長距離走者のようにピークパフォーマンスが発生する年齢が遅くなるのに比べ、ピークパフォーマンスが発生する時期は、選手が怪我をしない範囲によって限定されます。
- 加齢に伴い種目を変えることは、ランナーにとって適切な戦略であり、特に短距離走や中距離走から長距離走や競歩競技へ、また長距離走から長距離走へと変化させることができるかもしれない。
[背景・目的] 本研究の目的は、陸上競技のエリートアスリートにおける年齢によるパフォーマンスの進行とピークパフォーマンス年齢(PPA)を分析し、ピークパフォーマンスを予測するモデルを用いることである。
[方法] 男子22種目、女子21種目において、14歳から15歳、前回のオリンピック開催年までの世界レベルのアスリートのベストパフォーマンス(n=798)、歴代トップリスト(n=444)、世界記録保持者(n=43)を検討した。パフォーマンスの傾向を分析するために、ダイナミックパネルデータの手法を適用して、種目・性別に特化したモデルを使用した。
[結果] プロフィール分析の結果、歴代トップリストの投擲選手のPPAは、男性では中距離ランナー(P<0.001)、距離ランナー(P<0.05)、跳躍選手(P<0.05)よりも高く、女性では中距離ランナーよりも高い(P<0.05)ことが示された。オリンピック年のトップリストアスリートでは、女子投擲選手のPPAはスプリンター(P < 0.001)および中距離ランナー(P < 0.05)よりも高く、女子距離ランナーのPPAはスプリンターよりも高かった(P < 0.05)。歴代トップリスト(P < 0.05)およびオリンピックイヤーリスト(P < 0.05)のいずれにおいても、男子競歩選手のPPAは中距離選手よりも高かった。
✅ 図. 男女8グループのオリンピック開催年トップリストと歴代トップ10のピークパフォーマンス年齢。
過去1〜2年の成績(全種目)、身長(走幅跳男子、走幅跳女子、三段跳男子)、体重(円盤投げ男子)は、それぞれ将来の記録を予測する上で重要であり(P < 0.05)、種目によって異なる係数が示された。
[結論] このモデルは、コーチが選手のピークパフォーマンス記録やPPAを予測するための有用なツールであり、陸上競技における目標設定や異なる年齢でのパフォーマンス進歩の評価に役立つと考えられる。
🌱 So What?:何が面白いと感じたか?
いや、これは面白い!
これまで、様々な競技を見ていて感じていた「なんとなく」が明確になった。
それは、「フィギュアスケート女子って、競技力ピーク早くない?」とか、「野球のバッターって、息が長いよね」とか、「スキージャンプのレジェンド、凄くね?」とかだ。
ピークパフォーマンスエイジ(PPA)。
これが明らかになってくると、以下のように現実に役立つと思った。
▶︎競技力への介入を予防的に講じやすい
「いまの時期はPPAから考えると、競技力が落ちやすい時期ですね。そのため、これまでより筋トレや基礎能力へのトレーニング量を増やした法がいいかもしれません。」
こんな感じの提案が、なされるかもしれない。
大まかな変化が予測できれば、事前から予防的介入を講じることができる。
▶︎競技選択に役立つ
「わたし、いま、18歳。これから何かでオリンピックを目指したいの。」
その時点で、フィギュア女子は、選択肢から消えかねない。
一方、投擲女子は、なかなかいい選択肢になってくるかもしれない。
競技開始年齢と、PPAから、至適競技というものが提案される。
だが、これは競技参加可能性を狭めるリスクもはらんでいることを知っておきたい。
▶︎長期スパンの「ピーキング」が可能となる
スポーツの世界では、「ピーキング」なる調整法がある。
ピーキングとは、本番にピークを合わせる調整法のことである。
具体的方法は、競技によって異なるが、例えば「冬は筋トレで筋肉量をつけて、春〜夏の大会前までに速度やstretch shortening cycle能力をつけるためのバリスティックや競技特異的な練習を行う」などだ。
PPAが可能にするかもしれない、長期スパンのピーキングとは、以下のようなものだ。
プロ野球選手(投手)を目指しています。
25-30歳がPPAですね(※まだ不明です)。
10-15歳くらいは、専門化せずに多様なスポーツに接するといいでしょう。
15歳からの10年間は、野球に専門化してパフォーマンス向上を図ってください。
すなわち、『当該スポーツへの専門化』の至適時期が提案されるかもしれない。
これまで、早すぎるスポーツ専門化は障害を引き起こすなど「悪」とされてきた。
だが、それもPPAによるのではないか?
フィギュア女子のオリンピア目指して、10歳で多様なスポーツでは、遅くないか。
今回のような研究が、すべての競技において標準化された方法で行われれば、そんな視点の研究も可能になるかもしれない。
PPA、面白い。
面白いが、途中にも言ったとおり、それが競技参加可能性を狭めるリスクもある。
要は、用いられ方なのだ。その部分は、考えたい。
人に時計をくれてやっても、その使い方を教えてやらねば何もならぬ
坂本竜馬
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