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ファン×パリーグ×国:All Winの歩数競争アプリ

▼ 文献情報 と 抄録和訳

身体活動を増加させるための大規模なファンデーションベースのゲーミフィケーション介入。準実験的研究

Kamada M, Hayashi H, Shiba K, Taguri M, Kondo N, Lee IM, Kawachi I. Large-Scale Fandom-based Gamification Intervention to Increase Physical Activity: A Quasi-experimental Study. Med Sci Sports Exerc. 2022 Jan 1;54(1):181-188. 

[ハイパーリンク] DOI, PubMed, Google Scholar

[背景・目的] ゲーミフィケーションは、ゲーム以外の文脈でゲームデザインの要素を使用し、行動経済学の知見と組み合わせることで、行動変容への介入に適用されることが多くなっている。しかし、このアプローチの効果や拡張性、特に長期的な効果についてはほとんど知られていない。我々は、スポーツに内在するファンダムとチーム間競争を活用したゲーミフィケーション技術を用いて、日本の野球ファンの身体活動を促進するための大規模なスマートフォンベースの介入を検証した。

[方法] 日本のパ・リーグファンを対象に準実験研究を実施した。アプリ「パ・リーグウォーク」は、試合日の1日の総歩数で対戦チームのファン同士が競うなどのゲーミフィケーション要素を含んでいた(2016年3月から無料ダウンロード数6万件以上)。

✅ アプリ「パ・リーグウォーク」の具体的内容
①1日の歩数に関してチーム間で競い合う
このアプリは、野球の試合日に1日の総歩数で対戦チームのファン同士が競い合うもの。
②1日1万歩達成で選手の写真をプレゼント
また、1日1万歩達成のインセンティブとして、2016年10月(野球のオフシーズン開始)より「選手写真集」を導入し、1万歩達成の日に贔屓のチームの選手のデジタル写真をランダムでプレゼントした。
※このアプリは、野球のオフシーズン(10月〜3月)を含め、いつでもどこでも使用することができる。そのため、ターゲットユーザーは球場来場者に限定されない。また、PAの健康効果については言及せず、ファン同士のつながりや連帯感を高めることに主眼を置いた。

アプリ利用者20,052人の1日の歩数を、利用者274人とマッチした対照者613人のオンライン調査データで補足して分析しました。差分推定量により、ユーザー対マッチドコントロールのアプリインストール前後の1日歩数の変化を評価した。

[結果] インストールから3ヶ月後、ユーザーの1日の歩数は対照群と比較して574歩(95%信頼区間、83-1064)増加しました。この増加は最大9ヶ月間維持され(ベースラインに対して1日当たり559歩増加)、より長いフォローアップ期間では減少した。アプリの使用頻度が高いことで正の効果修飾が認められたが(P < 0.001)、教育や所得などの他の共変量では認められなかった(P ≥ 0.14)。

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✅ DIDモデルによるパ・リーグウォークアプリのインストール前後の調整済み1日歩数。A、ユーザー274人対対照者613人(n = 887)の一次分析。B、ベースライン時に1日1000歩未満の差があったマッチドペアのサブサンプル(n = 193、ユーザー89人 vs コントロール104人)。エラーバーは、潜在的な交絡因子で調整した95%CI。ベースラインは、アプリインストールの3週間前。三角印は、アプリインストール後の期間のみ、全ユーザー(n = 20,052)の平均歩数を示す。

インセンティブ(デジタルプレーヤー写真)の追加導入により、1万歩達成日は24.4%から27.5%に増加した(P < 0.001)。

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✅ 1万歩報酬制度導入前(A)と導入後(B)のユーザーとコントロールの1日の歩数のヒストグラム(ユーザー14,673人、コントロール370人、2016年シーズン)。Y軸は、観測値(参加者1日あたり1観測値)のうち、ビン内に入る割合(相対頻度)を表している。

[結論] 既存のファンダムと連帯感を利用し、ゲーミフィケーションアプリは、従来の健康プログラムでは代表的でなかった社会経済的地位の低い人々を含む野球ファンの身体活動を大規模に増加させた。

▼ So What?:何が面白いと感じたか?

なんと、Win × Win × Winが設計されたアプリだろう!
😊ファンのWin:推しチームの勝利に貢献、身体活動量が増大し健康になる
😊パリーグチームのWin:ファン心理の増強、チームの広告的機能も果たす
😊国のWin:国民が健康になることで医療費などコスト低減が図れる

この仕組みの秀逸さよ。
要素別に分解しておき、後々自らの活動にも生かせるようにしておく。

▶︎秀逸さ①:チームの勝利に対する自己帰属感の高さ

おまえは、ただの幼童ではない。
毛利家三十六万九千石の山鹿流兵学教授である。
一日勉学を怠れば、国家 (藩)の武は一日おくれることになるのだ。
【世に棲む日日(1)】

吉田松陰が幼少のときに師匠から受けた言葉だ。
この言葉をいわれて、発奮しない者がいようか。
「自分一人の行動が集団全体の結果に直接的に影響しそうだ」という感覚、これを自己帰属感と呼ぶ。
今回の研究は、普段は間接的にしかチームの勝利に貢献できないファンが、直接的にチームの勝利に貢献できるような設計になっている。
さらに、チーム間の競争意識によっても、動機づけを高めている。
当然、発奮すると思う。ファンの熱量は並外れているし。

▶︎秀逸さ②:自らの善行に対する報酬(外発的動機付け [取引的])

10,000歩いたら選手の写真プレゼントキャンペーンも効果を出していた。
この「選手の写真プレゼント」は外発的動機づけの中でも取引的な動機づけだ。

✅ 動機づけの3種類
①外発的動機付け(取引的):成果に対する有形の報酬(金銭的報酬など)
② 外発的動機付け(関係的):成果に対する無形の報酬(従業員の意見に基づき組織が動く、表彰など)
③ 内発的動機付け:内発的動機付けとは内面に沸き起こった興味・関心や意欲に動機づけられている状態のこと

各動機づけの特徴とエビデンスについては、以下noteの「So What?」を参照いただきたい。

取引的な外発的動機づけは、行動に対してガソリン的な機能をもち、短期的な行動促進にはなるが、長期的&自発的な行動促進にはつながりにくく、むしろ内発的動機づけを低減させる(アンダーマイニング効果)ともいわれる。
個人的には、今回の取り組みに関係的な外発的動機付けの要素を盛り込み、「ホームページに1万歩以上歩いたレジュンドウォーカーの氏名を表示(表彰)」などすると長期的・自発的なインセンティブ効果を期待できるのではないかと思った。

このアプリ、やればやるほど、健康になる。
「いつまでもゲームばっかやってんじゃないの!」とはいわれまい。
やるほど、個人もうれしく、チームもうれしく、国もうれしい。
最高のアプリではないか。
設計図は、概ね理解できた。
僕もいつか、こんな最高の取り組みに帰属したい。

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