【ショートショート】泣き声は最高のエネルギー

あぁ、今日もこの時間がきた。

はやく聴かせておくれ。

その声を。
泣き声を。

さぁ、今日はどんな子がやって来るのかな？

「ぎゃあああぁあああ！！」

「はいはい。コタロウちゃん。先生に診てもらいましょうね」

「すぐに元気になるからね」

泣き止む気配のない子ども。
名はコタロウちゃんと言うのか。

「ふむ。なかなかいい名前だ」

そして、元気な泣き声である。
その調子でもっと泣いてもらおう。

「さぁ、コタロウちゃん。お口をあけてごらん」

そして、心臓の音も聴かせておくれ。

「ぎゃああぁあああ！！！」

「ふむ。風邪ですね」

お母さんにそう告げ、コタロウちゃんには
私そっくりなシールを渡してやる。

お、泣き声がやんだ。

ふむ。
そんなに気に入ったのか。

「お大事に」

かわいい子だ。

「先生。お母さんもお子さんも不安なんです。いくら子どもの泣き声が好きだからって、ニヤニヤしないでください」

「んー、そんなこと言われてもね」

「ずっと思ってたんですが、どうしてそんなに子ども達の泣き声が好きなんですか？」

「泣き声を聴くと、"この子はまだ生きている"って実感するからだよ」

昔、海外でたくさんの子ども達を診てきた。
だが、ほとんどが泣き声すらあげなかった。

いや、あげられないくらいの状態だった。

「そんな子ども達を救えなかった。だから、今度こそ救おう、ってね」

あのとき聴こえなかった声を聴くと、
まだ間に合う。
助けられる。
絶対助けるって気持ちになる。

だから、

「私にとって、子ども達の泣き声は希望なんだ」

大丈夫。必ず助けるから。

泣き声は最高のエネルギー

―おわり―

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