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スコウスの!オリジナル超長編連載小説『THE・新聞配達員』

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真田の真田による真田のための直樹。 人生を真剣に生きることが出来ない そんな真田直樹《さなだなおき》の「なにやってんねん!」な物語。
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#新聞配達

オリジナル連載小説 【 THE・新聞配達員 】 その100

100. お守りがわりの新聞を持って・・・ 遠藤さんが可愛かった。 背が低くてポニーテールで 色が白くてちょうどよいムニムニ感でいて 柔らかそうだった。 目が切れ長で一重で 表情はあまり変えないけど 楽しそうに仕事をしていた。 黒縁の眼鏡。 26歳くらいだろう。 私達より少しお姉さんな感じがした。 最高だ。 ここのところ最高だと思える 女の人によく出会う。 一体いつになったら私は、 運命の人と出会うのだろう。 会った瞬間抱きしめ合ってしまうような人。 きっとこの

オリジナル連載小説 【 THE・新聞配達員 】 その99

99. もう、おっさん。 8千円だった。 「はいご苦労さん。順番にここにサインしていってや。書いた人からお給料渡すさかいに。」 名前と住所と年齢を書いた。 そしてお給料をもらった。 「はい!ご苦労さん!」 「ありがとうございます!」 あれ? 7千円だと思ってたのに8千円もらった。 おっさんが間違えたか? このまま黙ってもらっておこうか。 いや、 これからもお世話になるのだから言っておこう。 「すいません。8千円あるんですけど?」 「なんや。みんな8千円やぞ

オリジナル連載小説 【 THE・新聞配達員 】 その97

97. 一か八か 京都の住所はややこしい。 でも『西入ル』は西に曲がれということだから 逆に分かりやすいとも言える。 ナビゲーション機能つきだ。 もちろん西がどっちか分かればの話。 まず太陽の位置を見なければならない。 夜ならば北極星の位置を。 方位磁石を持ってくれば良かったのかも知れない。 この辺りだけど下宿らしい建物が多く、 目星をつけるには数が多すぎた。 「ん?『川口』の表札!これか?あの電話に出た川口氏がいるのか?なぜ電話を保留に出来ないのか聞いてみたいぞ。

オリジナル連載小説 【 THE・新聞配達員 】 その95

95. 太陽と月 このままみんなには何も言わずに去ろう。 今夜の新宿南口から出る夜行バスの中で 東京に別れを告げれば、 明日の朝には大阪に再会の挨拶が出来る予定だ。 そして1ヶ月後にはカナダにご挨拶だ。 しかし、 このままカナダに行くにはまだ何もなくて 荷物も多すぎた。 一度城に戻ってから出直しだ! 5階建ての団地の一室の我が城へ! いや、待てよ。 お金だ。 最後の最後のお給料をもらいにお店に行かなければ。 真鍋くんに冷蔵庫を売って得た3万円のおかげで 部屋の荷

オリジナル連載小説 【 THE・新聞配達員 】 その94

94. 最後のハイタッチ ちょこちょこと後ろから付いてくる 由紀ちゃんが可愛い。 おかげでいつも通りに新聞を配れない私。 ぎこちない体の動きが自分でもよくわかる。 カクカクとまるでロボットのようなしなやかさ。 各関節にはうっすらとネジの跡が見え隠れする。 隠しきれない心の古傷が私をロボット化する。 自転車すら上手く止められない。 サイドスタンドがうまく出せずに倒れそうになる。 いまさら由紀ちゃんに緊張する気の弱い私。 いつも通りに配れないから余計に疲れる。 でも後

オリジナル連載小説 【 THE・新聞配達員 】 その89

89. 靴箱は宝箱 ついにやって来た3月5日。 決戦の日だ。 満額もらえる最後のお給料日。 このお給料と今までの幾ばくかの雀の涙貯金で 足りなくなる学費の支払い【12万6400円】を払う時が ついに来たのだ! 憎っくき【12万6400円】との戦いの最終決戦の今日。 たっぷりと札束が入ってるはずのカバンを覗きながら 独り言のようにぶつぶつとつぶやいている私がお店に居た。 「あれ13万円はあったはずなのにな。おかしいな。」 私は何回も札束を数えた。 もう何回数えたか忘

オリジナル連載小説 【 THE・新聞配達員 】 その87

87. 『 特別 』と『 変 』は同じだった件 2月のような風が吹いたので 風に今何月かと聞いたら12月だと言われた。 どうやら12月に生まれた風が今私の耳元を 吹いているようだ。 そんな誰にも話せない変な独り言を頭の中で 言いながら私は由紀ちゃんの目の前に居た。 「チョコレートだとさ、すぐに無くなっちゃうと思ったからさ、だからさ・・・これにしたんだぁ。」 「わー。ありがとー。」 由紀ちゃんが何回も髪をかきあげながら 照れて手元だけを見つめながら言う。 ハンカチ

オリジナル連載小説 【 THE・新聞配達員 】 その86

86. コンビニに佐久間さんが来たけど私だって気付かなかった話 コンビニのアルバイトはもう 寝坊ばかりするようになった。 でもクビにはならなかった。 週5日シフトに入る予定が週3日になった。 蓄積した疲労が抜けない。 朝刊が終わってお腹いっぱいご飯を食べたら なぜか寝てしまう。ビールを飲んでないのにだ。 ダメな私。 酒を飲まずして眠れるものなのかと 自分の体を不思議がった。 疲労はやはりアルコールで取るのが一番だと 幼い頃父親から教わっていたからだ。 晩酌する父の膝

オリジナル連載小説 【 THE・新聞配達員 】 その85

85. ギターリストが魂ではなくギターそのものを売った日 クリスマスはみんなでカラオケに行った。 私がみんなのリクエストに応える形で盛り上がった。 由紀ちゃんがJUDY AND MARYの そばかすを歌ったときは声がそっくりすぎて みんなびっくりしていた。 由紀ちゃんにあげたクリスマスのプレゼントも 由紀ちゃんからもらったクリスマスのプレゼントも 両方マグカップだったので、ふたりで笑った。 お正月もみんなで神社に初詣に行った。 念願の浅草だ。おみくじは末吉。 全てが

オリジナル連載小説 【 THE・新聞配達員 】 その84

84. 舞台の下で名芝居を打った大根役者さなだまる 早稲田から神楽坂まではたったの一駅だ。 これはもう覚えた。 前に佐久間さんのピアノ発表会で来た場所だ。 あの時はかなりの弱虫で 景気付けにビールをたらふく飲んでから来たので あまり覚えていない。 今こうして、 ゆっくりと街並みを眺めながら散策すると 神楽坂は京都に似ている気がする。 路地がやたらと多く、石畳が敷かれている。 車のあまり通らない道。 閑静で小さなお店がいっぱい並んでいる。 そんな風情豊かな事を考えな

オリジナル連載小説 【 THE・新聞配達員 】 その83

83. ビッグスターはみな四畳半からスタートするものだ もう朝刊の時間か。 私はコタツの中にいる。 中に潜ってはいない。 ひとりだから潜らない。 もし向かいに女の子が座って居たら 潜らなければならない。 私は腰から下をコタツに入れ お尻から上は座椅子にもたれている。 そして両腕にはめずらしくギターがある。 気持ちが弱くなるとギターを 弾かずにはいられなくなる。 わずかなレパートリーを弾き終えると 適当なコードを弾く。 「おや?今のはなんだ?ふんふんふ〜ん♪」

オリジナル連載小説 【 THE・新聞配達員 】 その1

1. 進路なき人生 やっと高校を卒業した19歳の秋。 留年したのに、そのまま友達で居てくれる 同い年の友人達。 特に進路は決めていなかった。 親も先生も友人も 飼っている金魚も誰も 次に私が何をするべきかを言う者は 現れなかった。 幸運だ。 信じられている証拠。 もしくは諦められている証拠。 何をしても良いし、何もしなくても良い状態。 そんな責任と責任のちょうど間に 【何もしなくても良い】という隙間が あったなんて。 居心地が良いので、しばらくそこで考えに考える。

オリジナル連載小説 【 THE・新聞配達員 】 その2

2. 時給7カナダドル 何もしていないわけではない。 『なにをしてるの?』と訊かれたら みんなのそれはきっと【職業】のことだろう。 『くそったれのあなたの、くそったれた仕事は、いったいどんなくそ?』 これを略して 『なにをしてるの?』だ。 みんな略すのが好きなのだ。 だからこう答えるしかない。 『全く何もしてません』と。 属性がないという属性の人生。 でも友人たちに 『今日は何をしていたの?』と訊かれたら 何もしていない時間なんて全く無いはずである。 屁理屈でもなん

オリジナル連載小説 【 THE・新聞配達員 】 その3

3. 名曲の作り方 カナダ行きは一年後に先送りになってしまった。 『一年後でもいいからカナダに来たいという気持ちがあるのなら いつでも連絡してくださいね。』と言われて。 呆然となる私。 一緒に行こうと言ってくれていた友人常盤木氏は 普通に大学と彼女の部屋に通う毎日に戻った。 いや失礼。 まだ行ってもいないのだから 戻ったのでもなかった。 私はと言えば、その友人の大学にコッソリと入り込んで 大学生のフリをして図書館で本を読んだり 食堂でご飯を食べたり飲んだりして過ご