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「本と商店街」の一日

2023/06/17(土)第一回目の開催となる「本と商店街」が終了した。

(photo by 西嶋陸)

会場のひとつとなった、旧・大森書店の「本」の看板が、日詰商店街全体を包み込み、照らしたような一日。商店街中がまるっと本に囲まれ、人はみんな本を片手に会話をしていた。そんな不思議な一日が本当に起きていたみたいだ。

(photo by 西嶋陸)

「旧・大森書店」は、建物内の片付けを進めながら、この先の活用方法を探っている最中。なので通常時は棚が空っぽの状態だ。だけどこの日ばかりは、妙蓮寺の本屋・生活綴方の出張書店を中心に、作家さんや、個人で発刊物の制作を行う人、セレクトした雑誌やレコードを販売する人などが集うマーケットで、棚は満ち、人は溢れかえっていた。本を片手に多くの人が言葉を交わして、人と人、人と本の出合いがつながった一日。

(photo by Kazue Murakami)

今回の主なイベントは、「旧・大森書店」「日詰町屋館」「YOKOSAWA CAMPUS」「サンプラザ日詰」をつなぐ合計4会場で行われた。旧大森書店からサンプラザ日詰までは一直線の道ながら、歩くと片道で5分、お年寄りなら10分くらいかかる。前日の雨が嘘のように当日は晴天だったこともあり、途中にあるお店に立ち寄るなどしながら、多くの人が商店街を行き来していた。

「本」にまつわるトークイベント

商店街の中心に位置し、本部も備えていた「日詰町屋館」では、展示販売・トークイベントとワークショップを開催。

#1 「まちの本屋と図書館」 栗澤順一(さわや書店)×手塚美希(紫波町図書館主任司書)

ー「待ちの本屋」から「使ってもらう本屋」へ
栗澤「年齢男女問わず店内に足を踏み入れてお金を落とさなくてもいい商売って、なかなか本屋以外にはない。もっとお客さんに違う形で使ってもらえるんじゃないか、自由度が高いし、本は信用度が高い、そこから生まれるものもあるのではないか」
手塚「紫波町図書館としても、親近感を感じるばかり。書店と図書館と形が違っても思いが一緒だなということを感じます」
ーAmazonなどで本や電子書籍を買うのと、紙の本を読む、本屋に足を運ぶことはどう違うのか?
栗澤「世の中から無駄をなくす風潮になってきている気はしまして。はっきり言えば本は対極にあると思っている。必要な情報を求めてポチッ、ポチッとしていったそれは、一本の線にしかならない。脇に逸れることがない……」
手塚「夜のとしょかんという、本に囲まれながらのトークイベントを開催しています。ただ広い空間でやってもいいところを、図書館でやる意味を考えると、何かが違うんですよね。本に囲まれているその空間に身を置くと、たとえばインスピレーションを得るとか学びたい・知りたいという意欲が湧いてくるとか。ただの本があるという空間ではなくて。一冊一冊が、大袈裟にいうと、世界中の古今東西の森羅万象の知がそこにあって、そのシャワーをずっと浴びている状態、いつでもその世界に手を伸ばせるんですよ、待機している声が聞こえるというか……。」

#2 「土地の声を聞く」安達茉莉子(作家)×️富川岳(作家)

安達「トークテーマの「土地の声を聞く」ですが、ノンフィクションとして書くのであれば、作家としては正当性や調査、自分の中でどれだけ筋を通せたかなどを気にしすぎてしまうのではないか。ノンフィクションよりも、小説として書いた方がいっそアウトプットしやすいのではないかと思うこともある。あくまで自分のフィルターを通じたエッセイということで成り立っているけれど、土地の物語として表現する難しさを感じているのですが……」

富川「柳田國男自身も、「感じたるままを書きたり」と遠野物語の序文で書いていて。遠野物語って、佐々木喜善という話者と、柳田國男という書き手がいるという構造になっていて、「聞きたるままを書きたり」と書かなかったところに大事なポイントがあるのではないか。佐々木喜善自身が書いた本も出版されているのですがそれも内容がちょっと違っていて……」

#3 クロージングトーク「本と商店街」 本屋・生活綴方×️BOOKNERD

ー出版業界って不況なんですか?
早坂「本が売れないとは思っていない。僕が食べていける範囲でうちのお店では本が売れてます。取次を通して取引をしている昔からある書店はなかなか厳しいと思います、取次という仕組みが……。僕たちのような業態の場合だと……」
鈴木「神奈川で小さい本屋さんを集めた「本は港」というイベントをやったとき想像以上に人がきて最初から最後まで入場規制がかかって。取次を介した本の売上が減っているのは事実ですが、独立系書店は増え続けていて売り上げを上げているんですね。取次を介した数字しかメディアは拾っていないので売上が入ってないんです…」
中岡「文学フリマ東京も1万人を超える来場があって、相当売り上げたんですけどそれも数字に入ってない。業界全体で1兆円の市場が9000億になったというような話は一つのお店には実は全く関係ない話なんですよね、それくらいスモールビジネスなんです。本を作りたいとか売りたいとか本屋をやりたいとか、いろんな形で本屋を作ることはできるし、本を作るのもいろんな手段があるから、業界のなんちゃらでそれを諦めてほしくない。いきなり自動車メーカー作ります!とかだとちょっと無理かもしれないけれど、本屋だったらいいじゃないですか、失敗してもいいし」

ごく一部の抜粋だけでもこんなに熱い内容で驚くほど。質問者さんの熱のこもった質問も含め、ぜひアーカイブ配信でもご覧いただきたい内容です。
(2023/7/31まで視聴可能です)

商店街で過ごす一日

今回、やはり嬉しかったのは、ご来場いただいた多くの方々が商店街のお店を利用してくださったこと。

「松本精肉店」でコロッケを買ったり、「よかろ」の冷麺を食べたり、「鈴徳」で駄菓子やパンを買ったり…「GreenNeighbors Hard Cider」のサイダーを片手に、端から端まで商店街を往復。

BOOKNERD早坂さんの推し「松本精肉店」も混雑していたとか

暑いね〜と歩いているうちにジャグリングのパフォーマンスに立ち止まったり。

(photo by 西嶋陸)

図書館の本を閲覧しながら、立ち話に花を咲かせたり。ZINEワークショップに参加したり、トークイベントに耳を傾けたり。

(photo by Kazue Murakami)

台湾フードや肉料理、プリン!を屋台でゲットして、YOKOSAWA CAMPUSで、BOOKNERDさんの出張本屋、study from objectsのセレクト雑貨を覗いてコーヒーを飲んで。

BOOKNERD出張書店 at YOKOSAWA CAMPUS

とにかく内容が充実していて。歩くうちに商店街まで満喫しているという一日になる、贅沢なイベントだった。みんな、いい顔してるなぁ!!
熱量高く、本や本のある空間を楽しむ力のあるお客さんが今回集まってくださったのは、BOOKNERDさんと一緒に企画を練り、発信も大いに後ろ盾していただいたことが本当に大きかった。

まちに、何かを残せたのだろうか

単発のイベントは過去に何度か企画していて、紫波町に来てからも面白い人を呼ぶ企画もいくつかあった。そのとき目指していたのは「近隣の若い人が来てくれるように」というターゲット設定で、想定している層に発信が届いて来てもらえたら、来場者には喜んでもらっていた自負がある。ただそれが、商店街と連動できていたか? まちに何かを残せていたか? というと疑問が残るものではあった。

(photo by Kazue Murakami)
この写真、特にとても好き。可愛すぎるし、嬉しそうだし、主催にとってはご褒美のような写真。

今回のイベントが今までと違うのは、関東含む各地からの出店者を複数組お呼びする規模になったこと、そして地元商店街へのご挨拶やご協力を多いに仰ぎ、助けていただいたこと。
その結果、町外から来ている出店者、来場したお客さん、商店街の人たちと、それぞれの人たちの「交流」が明らかに生まれていた。

「お客さん」のつもりが「自分もやる側の人になっている」ジャグリング体験
この日教わり、熱中して練習したのち「先生」になった人も現れた

「地元だったけれど商店街はいつも車で通過するだけで、歩いたのは初めて」という声も聞かれた。町外から訪れた人もまた、地元の人たちとフラットにおしゃべりができるというのは嬉しいもので、町への愛着が一気に湧いたそう。イベント翌日は盛岡で「文学フリマ岩手」が行われたが、その後の夕飯時に生活綴方の鈴木さんが、「紫波に帰りたいなぁ」とつぶやいたのが耳に残っている。単純に、嬉しい。

まちのつながりが強い「図書館」が中心にあったこと

紫波町図書館が定例で行われている企画展示「わたしの一冊」。それぞれのテーマに即した町の人におすすめの一冊を伺う展示企画だ。今回は特別編として「わたしの一冊 日詰商店街」編を実施させていただいた。その過程では、実行委員会としてもご挨拶を兼ねて、おすすめの本を伺いにいく時間があった。

「納豆を作ってみたくて」と図書館に教えてもらったらしい『なっとうの絵本』が気になる

商店街にどんなお店があるか、どんな人がお店を開いているのか、その人はどんな本が好きなのか。ひいては、そのおすすめした本から町や地域の姿が浮かび上がってくるようでもあった。中にはおすすめポイントを話し出すと熱弁して止まらなくなる方もいらっしゃるほどで、「本」がコミュニケーションツールとしてもありがたい存在であることを体感できた。

会場の一部が公共空間となって、買い物をしなくても立ち寄れて、休憩できるような雰囲気を作ることができた。それは町とのつながりが深い図書館であること、地域に顔見知りも多い司書さんたちがその場にいらっしゃったことが本当に大きい。

また、当日は一部のイベント会場が変更となるトラブルもあったが、アンケートにご回答いただいた方が展示を見にいらっしゃり、その方の機転もあってトラブルに対処いただいた上、商店街内の放送まで使わせていただいた。「11:00からは〜ジャグリングのパフォーマンスがあります」と美声でアナウンスが鳴り響くのを聞いた方からは「ペンギン村かと思った」という声が上がった。商店街に助けてもらうってこういうことなのか。

地元産にこだわってみた

イベント用に製作したTシャツとサコッシュは、いずれもシルクスクリーンで刷られており、町内にある「けやき学園」さんにお願いしたもの。

Designed by: Shogo Sato
Model: Kazue Murakami/ Natsuka Okamoto
Photo by: Ai Nanjo

出店者やスタッフ向けのお弁当も、地元食材をふんだんに使った「高橋健菜」さんに依頼し、食べた方からは大いに喜ばれた。

600円でこの充実感。Facebookに写真をあげたらこの写真にやたらと「いいね」がついた

イベント終了後は地元のお店「サンセット」さんで打ち上げ。「ほやごはん」など、岩手県産食材をたっぷり使ったバイキングディナーにも一同感動。(写真は数回目の乾杯)

「本と商店街」はいろんな場所でできるはず

イベントタイトルの「本と商店街」。この名前を考える前提となったのは、「この場所に限らず、全国的に使える、いろんなところで開催できる名前だといいよね」という想いだった。

特に観光地ではない、紫波町のような商店街は全国にある。このイベント企画の起点となった、「本屋・生活綴方」がある妙蓮寺は、まさに「本と商店街」だし。商店街に本屋があるまちでも、ないまちでも、それぞれに合う形があるのだろうと思う。

平穏な日の日詰商店街

商店街を満喫する!という一日って結構珍しい。だけどわざわざ来たからには、その土地のものを食べたり、その土地の人と話せたりすると、訪れた価値は増す。

SNS発信についても、当日の来場者が後で「あの人の作品が気になったな…」などというときに見返せるカタログのような役割と。商店街のあのお店にまた行きたいなという備忘録にもなるような情報を中心にそろえた。日詰商店街でランチを食べよう、というときなどにぜひ参考にしてもらえたら。

とにかくとにかく、さまざまな方への感謝はしてもしきれません。
本当にありがとうございました。

本と商店街、一年目は無事に終わりました。
また来年も、みなさんに会いたい。そのときは「ただいま」って来てくれたら、もっと嬉しいな。

左から BOOKNERD 早坂さん、本屋・生活綴方 鈴木さん・中岡さん、ZINEづくり部 あまの

「本と商店街」2023年6月17日
主催:「本と商店街」実行委員会
共催:BOOKNERD、本屋・生活綴方、ZINEづくり部
協力:紫波町図書館


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