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本と商店街の話 ー「本」と「商店街」は似た道をたどっている

 本を作る人、売る人。リトルプレスやZINEを発刊する個人出版レーベルや、作家、独立系書店が集まる出張本屋。県内は盛岡・遠野から、県外は東京・神奈川・山梨・宮城から、本に携わる人たちが集い、一日限りのマーケットを開きます。

 魚は魚屋で、野菜は八百屋で、お肉は精肉店で、本は本屋で。日常的に商店街で買い物をして、店主と日々顔を合わせる。かつての子どもたちは、「大きくなったねぇ」なんて言われながら、商店街に成長を見守られていたのだろう。そういう時代の商店街がある暮らしを、知らない人は多い。これを書いている30代後半の私も、そういう商店街で育ってはいない。

日詰商店街

 今回のイベントの会場となるのは岩手県紫波町の「日詰商店街」。ここは盛岡から電車・車でも二十分程度、花巻からも車で20分ほどでたどり着ける、岩手県内陸部の町。

 まちとしては地方創生の成功事例として、公民連携の「オガールプロジェクト」が全国的に注目されている。その複合施設オガールから1.5km離れた、かつて宿場町として栄えたのが日詰商店街だ。全国の商店街が抱えている共通の悩みの例にもれず、ここもまた空洞化が進み、空き店舗、空き家、空き地、駐⾞場が増えた。その一方で、一見、なにもないと言われてしまいそうな商店街を「余白のある風景」として面白がり、新しい店や事業を興す人たちがいる。彼らは壊して建て替え、景色を変えるのではない。そこにあったものを生かして手を入れ、空気を入れ替えている。今回の会場となる「旧・大森書店」・「YOKOSAWA CAMPUS」・「日詰町屋館」はいずれも、そんな場所だ。

 2022年にカフェ営業をスタートした「YOKOSAWA CAMPUS」は、商店街の店主や近所の人、遠くから来た人を含めさまざまな人が交差する場所。美味しいコーヒーと、「よっ」と挨拶できる存在を求めて、人が集まってくる。そのお店のあり方には、場を作った人の嗜好や哲学が滲み出ている。その場所に吸い寄せられる人たちが求めるものは、大手コーヒーチェーンでは決して提供できない何かだ。

YOKOSAWA CAMPUS

 「本」と「商店街」は、似た道をたどっているのではないだろうか。世の中の大きな流れの中で生じた余白に小さい規模の商店を構えるように、小規模で発刊される出版物が増え、それを売る書店も増えてきた。

 出版物もまた、刷れば売れるという時代は過ぎ、出版業界の市場規模も縮小。大型書店やネット通販の台頭も影響し、まちの書店は商店街から姿を消し始めた。その一方で、独立系書店が全国的に増えている。

 盛岡「BOOKNERD」も、大型書店のように豊富な種類の新刊本を置くのではなく、店主が厳選した本を置くスタイルの書店だ。新刊や古書、和書だけでなく洋書も取り揃え、一般的に流通していないようなリトルプレスも取り扱う。店主の早坂大輔さんは、書店経営のかたわら、くどうれいん著『わたしを空腹にしないほうがいい 改訂版』や、自身の著書『ぼくにはこれしかなかった。』などの出版も手がけている。本を選び、売る。そして作った本も自ら売る。その書店の本棚にあるものは必ず店主の手を介している。だから思わず、その本棚で手に取った本を片手に、店主に話しかけたくなってしまう。

 神奈川県の妙蓮寺の商店街にある「本屋・生活綴方」も独立系書店の一つ。まちの本屋である「石堂書店」の姉妹店として生まれた。詩集やエッセイを中心に扱う書店の奥には、リソグラフ印刷機があり、印刷・製本が行われる工房がある。

「妙蓮寺は生活者の街。何かが生み出される場所ではなかった。でも本がつくられる風景があれば、生産と消費が共存して、街がもっとおもしろくなるんじゃないかと思ったんです」

『IN/SECTS Vol.16 特集 本をつくる』 より(p.60)

 そんな言葉が表すように、この場所で、自身でも書き、製本した本を売る人が増えた。本を買う・売るという消費と、本を作るという生産が共存する「本屋・生活綴方」と「石堂書店」の存在が、本と商店街への愛着を確実に高めている。


 「本」を家に一冊も持っていない!という人は、おそらく多くない。そのくらい本は身近な存在だ。「あなたの好きな本はなんですか?」と問うと、語り止まらなくなる人もいれば、「ふだんはあまり読まないんだけど…」と言いながら1冊くらいは何かを教えてくれたりする。はじめて出会う人でも、「本」を介すると、話しかけやすかったり、盛り上がって一気に距離が近づくこともある。

 「紫波町図書館」は、開館して十年来、まちの人とのコミュニケーションを模索し続けてきた場だ。農業を中心とした町の産業を支援する図書館として、その産業に携わる町の人たちにおすすめの一冊を問いかけた企画展示も開催している。今回は私たちが開催する特別企画「わたしの一冊 日詰商店街」にご協力をいただき、「出張としょかん」を開催することとなった。貸出カードを持っていればその場で借りることもできるというから、驚きだ。

 紫波町・日詰商店街。コロナ禍にあってもさまざまなイベントを開催し続け、多世代の人たちが挨拶を交わしながら行き交う景色は少しずつ増えている。

 まずは、本を片手にこの町を歩く一日を作ろう。本の話をたくさんしよう。YOKOSAWA CAMPUSのコーヒーや、この町で作られたハードサイダーなどを飲み、お店でランチでもして、まちのお風呂にも入って。そうして何気なく挨拶を交わせる相手が、この町に少しずつ増えていくように。

■出店一覧

【BOOKNERDの出張書店 @YOKOSAWA CAMPUS
BOOKNERD @booknerdmorioka
study from objects @study_from_objects アンティーク・ヴィンテージ雑貨

【本屋・生活綴方マーケット @旧・大森書店】
本屋・生活綴方 @tsudurikata
十七時退勤社 @hashi_si
Magazine Isn’t dead. http://magazineisntdead.com/
安達茉莉子 @andmariobooks
fake plants @bunnyboy67@st.130ts
大森書店の本
富川屋 @gaku.tomikawa
Green Neighbors Hard Cider @greenneighbors_hardcider
やさいとワイン酒場 natsuka-hatake @punk_sake_farmer

【飲食】@サンプラザ日詰前
台湾酒場 @taiwansakaba
純米ニトロ @junmai_nitro
紫波deエール @shiwa_de_yell

【パフォーマンス】
青木 直哉 @jugglernao

【ワークショップ・展示】@日詰町屋館
ZINEづくり部 @sakuhanjyo
中野活版印刷店 @nakano_letterpress
紫波町図書館 出張としょかん @shiwapubliclibrary
 特別企画展示「わたしの一冊 日詰商店街」

■トークイベント @日詰町屋館
14:00-15:00 まちの本屋と図書館
栗澤順一(さわや書店)×手塚美希(紫波町図書館主任司書)

16:00-17:00 土地の声を聞く
安達茉莉子(作家)×️富川岳(作家)

18:30-19:30 クロージングトーク本と商店街
本屋・生活綴方×️BOOKNERD

・会場参加 1回券1000円/ フリーパス2000円
・オンライン配信(フリーパスのみ)2000円 (*アーカイブ配信6/30まで)

チケット購入はこちらから。


■会場
旧・大森書店
YOKOSAWA CAMPUS @yokosawa_campus
日詰町屋館
サンプラザ日詰前

主催:「本と商店街」実行委員会
共催:BOOKNERD、本屋・生活綴方、ZINEづくり部
協力:紫波町図書館

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