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#023お祝いの席での食事~古文書に見る食べ物、いろいろ(2)

 今回はお祝いの席でどのような食べ物が出てくるのかを見ていきたいと思います。こちらはさる家の史料のうち、婚礼の際の祝い膳が書かれてある史料です。

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 最初に「木具 鴫羽盛」とあります。木具とは、漆塗りをしていない白木の木製の器です。そこに鴫の羽盛りが盛り付けられて出てきています。鴫は水辺に棲むくちばしの長い鳥です。羽盛りというのは、焼いた鳥を飛んでいるような形に盛る盛り方です。前回、鶏の普及前には鴨や鴫などの、現在でいうところのジビエが食肉として利用されていたという話を書きましたが、早速ここで出てきます。次の食べ物は写真真ん中に出てきます、「木具 海老船盛」。器は先程と同じ白木の器で、海老の船盛り、つまり器が船の形をしたものに海老を持っています。次の料理は小魚と田作り、小魚と勝ち栗が添えられた「御雑煮」。雑煮の中に入れられている具は、「熨斗焼目附新丈、串貝、丁子茸、青昆布、亀甲大根、ひら松魚」とあります。熨斗はのしあわびあるいはいかで、それを「新丈」=しんじょう→しんじょ、つまり水で戻したものをすりおろして丸めたものに焼目を付けたものになります。串貝は串に刺されて干したあわび。丁子茸はクローブのようなにおいのするきのこ。青昆布は、すいません、どのような昆布かが調べが付きませんでした。ご存じの方がおられましたらご教示いただければと思います。亀甲大根は、亀甲の模様を包丁で刻んだ大根。ひら松魚は、松魚がかつおのこと。ひらは平造りにしているという事でしょうか。平造りは最もオーソドックスな刺身の切り方です。こちらは雑煮に一緒に入っているのか、横に添えられているのかについては、判断が付きません。

祝い膳_002

 次のページには本膳の部としての料理が記載されています。最初に「鱠皿」とあり、「皆敷付 小鯛生作り、まつ菜、白髪大根、小猪口 わさび醤油」と書かれています。「皆敷付 小鯛生作り」は皆敷(かいしき)は料理の下に敷く緑の葉で、小鯛の活造りに緑の葉が敷かれている状態です。「まつ菜」は松菜で、松葉に似た海岸などに生える草で、若い芽は食用として食べられるそうです。「白髪大根」は大根の千切りですね。白く細く切るので、白髪のような見た目から、その名をつけられています。その左には「小猪口 わさび醤油」、つまり小さい猪口にわさび醤油が添えられています。

 続いての「汁」ですが、「長呂木 摺味、岩茸」とあり、「長呂木 摺味」は長呂木=ちょろぎ、摺味=すり身です。つまりすりおろしたちょろぎを団子状にしたものと岩茸の汁物です。

 次の「香の物」は「西瓜 なら漬、葉付小蕪、花しほ」とあります。すいかの奈良漬とは、となかなか驚く方もおられるかも知れませんが、現在も小すいかの奈良漬は販売しているところもあります。葉つき小かぶらに、花塩。花塩は赤穂の名産品で、花形に象った焼き塩です。

続いての「平皿」には「粟蒸さわら、水禅寺巻 摺身、平茸、相生結麩、葉付小蕪」。粟蒸しとは、蒸した粟を持ち状にして肉や魚に乗せてあんかけをした料理で、ここではさわらがベースになっています。水禅寺巻はおそらく水前寺海苔のことではないかと思われます。平茸はあわび茸とも呼ばれる白っぽいきのこ。相生結び麩は、相生結びという水引の結び方があり、縁結びの意味合いがある結び方です。それを食べ物では単純化した結び方で結んだものを用いますが、ここでは相生結びを麩で作っているようです。最後には葉付小蕪。こちらは先ほども登場しました。

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 こちらの写真では、「大猪口 梅肉あへ 烏賊、長呂木、木茸」、「二の膳 二ノ椀 汁 すまし、摺味蛤、しめじ」、「鱠皿 鶴亀蒸菓子、鯛錦海苔巻、魚 かんぞう、かぶらほね」、「坪 薄葛 餅鯨、まつ茸」とあります。最初の品は、大きめの猪口に、いか、長呂木(ちょろぎ)、木茸の梅肉和えが入れられています。木茸は「きのたけ」と読みます。現在はきくらげの別称と言われますが、きのこ全体の総称でもあるので、どんなきのこかは断定出来ないでしょう。

 次の椀物の汁では、すまし汁で、蛤すり身と書いてあるので、すり身の団子らしきものが、しめじと一緒に入っていたようです。さらに次の鱠皿には4品あります。鶴亀蒸菓子は詳細は判りませんが、鶴亀のおめでたい焼印でも入っているんでしょうか。鯛錦海苔巻は、初めて知りましたが、鯛の錦巻という料理があり、薄焼き卵で昆布じめした鯛の刺身を巻いたものだそうです。おそらくこれを焼きのりでアレンジしたものでしょう。かんぞうは右上に魚と書いてあるので、ガンゾウヒラメでしょう。ガンゾウヒラメは、鮮度が落ちるのが早い魚のため、干物としての利用も多かったとのことですので、干物で出されていたのでしょう。かぶらほねは鯨のあごの軟骨で、酢の物や刺身として珍重されていた部位だそうです。

 坪は現在では壺椀と言われる器で、少し深めの器ですので、煮て汁のあるものやあんを掛けるものなどに使われる器です。ここには、最初に薄葛とかいてあるので、くず粉でとろみをつけていることが判ります。具材は、餅鯨と松茸。餅鯨は鯨の皮の下にある油層のこと。結構油っこそうですね。

 こういう史料は、食品関係のことを調べている方でない限り、あまり興味はないかも知れません。実際に歴史の現場では、調査してもあまり顧みられることがない、「ハズレ」の史料と思われがちです。個人的には食べるのも作るのも好きなもので、こういうものを見ると俄然興味が湧きます。引き続いて、同じ史料についてもう少しお付き合いいただければと思います。

いただいたサポートは、史料調査、資料の収集に充てて、論文執筆などの形で出来るだけ皆さんへ還元していきたいと思っております。どうぞよろしくお願いいたします。