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#148吉田初三郎の鳥観図から見る地域の様子

 前回まで石切剣箭神社から枚岡神社までの史跡見学の話を全五回にわたって紹介しましたが、今回も関連してのお話です。

 石切剣箭神社は、延喜式神名帳に掲載されるような古い由緒のある神社で、『河内名所図会』にも掲載される、江戸時代にも一般に対して著名な神社でしたが、大正三年(一九一四)年に大阪電気軌道(現在の近畿日本鉄道奈良線)が開通し、石切千手寺前駅が最寄りの駅として設置されたことで、非常に広範囲からの信心を得ることになり、現在のような形で発展する元となったことは「#143信仰とツアーリズム(一)-身近な身近な史跡、文化財の楽しみ方(21)」でも紹介しました。

 このような発展についての説明の参考としたのが、国際日本文化研究センターのサイトで公開されている「吉田初三郎式鳥瞰図データべース」です。
 吉田初三郎は、鳥瞰図を取り入れた観光案内図を作成して非常に好評を博し、「大正広重」ともあだ名されるほどの人気となりました。大正時代以降に盛り上がった観光ブームの際に、この吉田初三郎の鳥瞰図が大流行したため、ブームに一役買ったといえるでしょう。今回はこのデータベースを使って、どういうことが読み取れるかを見ていきたいと思います。下記にデータベースのURLを記します。ご興味のある方は是非ご覧ください。

 今回の史跡見学は吉田初三郎式の鳥瞰図のデータベースから大阪電気軌道の沿線図を探し、史跡見学の参考としています。大阪電気軌道(通称「大軌」)は現在の近畿日本鉄道の前身にあたります。大軌の沿線が近畿地方になるので、試みにデータベースで「近畿地方」を選択してみると、鳥観図が一八〇件ほど出てきます。一八〇件のうちには、比叡山や近江八景、伊勢神宮などの観光名所や江若鉄道、叡山電鉄、加悦鉄道、阪神電車や大阪電気軌道などの近畿地方の各電鉄会社の沿線図、また大阪、京都などの都市、観光地以外にも高槻市や三田市、西宮市など市制が施行された都市などのものもあります。非常にたくさんの種類の鳥瞰図があるので、出身地や訪れたことのある場所などもあるかもしれませんので、どなたにも見ているだけで楽しめるでしょう。

 今回の史跡見学で参考としたのは、「沿線案内 信貴生駒電車」、「大軌電車沿線案内」、「大軌信貴山電鉄交通図絵」、の三つになります。

 「沿線案内 信貴生駒電車」を見ると、上本町駅に大きなビルが描かれています。恐らく現在の近鉄百貨店上本町店でしょう。近鉄百貨店上本町店は大正一五年(一九二六)九月開業ですので、それ以降の発刊と思われます。この沿線では、下図のように「石切」と駅名が記されているだけで、近隣には特に何も記載されていません。

「沿線御案内_信貴生駒電車」(部分)

 次に「大軌電車沿線案内」を見てみましょう。こちらの図は昭和二年(一九二七)に発刊されています。こちらの図は観光名所に特化した図として作成されたようで、下図を見ても、「木村重成墓」、「恩智左近ノ城跡」、といった史跡や、「水呑地蔵」、「瑠璃光寺」、「往生院」、「枚岡神社」、「石切神社」といった神社仏閣、「高安梅林」、「葡萄園」、「枚岡梅林」などの観光名所が描かれていることからも判るでしょう。特にこの図では、石切神社と枚岡神社は鳥居や建物までも細かく描いことで興味を引くように作成されています。

 続いて「大軌信貴山電鉄交通図絵」を見てみましょう。下図を見てみると、左の方に「日本大学」と書かれています。これは大正一四年(一九二五)に設置された日本大学専門学校、現在の近畿大学に当たります。さらに、右の方を見ると「ラグビー場前」という駅があり、ラグビー場が描かれています。こちらは昭和四年(一九二九)に設置された大軌花園ラグビー運動場、現在の花園ラグビー場です。更に右手を見ると石切駅が描かれていますが、駅の周辺に多くの住宅が描かれています。こちらの図は発刊年が昭和五年(一九三〇)となっており、この図では神社仏閣などの観光名所より、大学やラグビー場など新たに設けられた施設に注目して描かれていると言えるでしょう。

「大軌信貴山電鉄交通図絵」(部分)

 時期、目的によって鳥瞰図の描かれ方は異なりますが、鉄道が観光名所に人々を連れて行って地域経済を発展させることや、あるいは都市部から離れた地域に住まいを持つことでベットタウン化していく様子など、さまざまな情報が読み取れます。このように手のひらサイズの小さな大量頒布されたものからも沿線の地域がどのような発展を遂げて来たのかを読み取ることが出来る面白い資料ですので、手軽にデータベースを使って地域の発展の様子を見てみることをお勧めします。




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