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#067博物館の収蔵資料は交換、売買出来るのか?

 前回の「あちこち歩いて、見つけた珍しい石碑―身近な史跡、文化財の楽しみ方(13)」で動物の慰霊碑のお話を書きましたが、その話を書きながらふと思い出したことがあるので、ここで書き留めておこうかと思います。
 以前、文化財保護法に関する連続講座を行ったことがあったのですが、何かあまり目にしたことがないような面白いことが出来ないかと、いろいろと資料を探っていたところ、下記の新聞記事にたどり着きました。

 こちらの記事は、「朝日新聞 PREMIUM A」に掲載されていたものです。この記事には、動物園で繁殖したことによって余った動物、余剰動物と呼ばれるのですが、各地の動物園は、その余剰動物を他の動物園にいる余剰動物と交換を行うことで、自分のところにいない種類の動物を確保している、といったことを紹介しています。文化財保護法のある一面について考えるにはいい材料だと思い、連続講座ではこの記事を使ってお話しました。

 普段あまり考えたこともないと思いますが、実は動物園も博物館、美術館の一種で、「動物を資料として扱う博物館」と博物館法で規定されている施設で、自然科学系の博物館という取扱いになっています。博物館で展示される資料は「採集、購入、寄贈、製作、交換等によつて収集されたものであること。」という規定があるため、実は博物館の収蔵品は他館と交換、あるいは譲渡などすることが可能となっています。そのため、自分の博物館に所蔵する複数ある同じ資料を、他の博物館が所蔵しているが自分の館にないものと交換することによって手に入れる、ということが可能となっています。とはいえ、歴史系の博物館では、収蔵庫に唐箕や踏み車などの民具に代表される資料は同じ形のもの、同じ種類のものがたくさん収蔵されていることがままあります。それは、資料を寄贈される際に、含まれる資料を内容によって選り好みすることで、所蔵者の方がこれは大事でこれは大事ではないんだと感じられて気を悪くされることがあるため、そのような余計な気を使ったり使わせたりしないようにするために、玉石混交というと言いすぎですが、資料の中身の良し悪しを選り好みせずに資料群として受け取ってしまう、ということが多くあり、そのような原因で同じ資料を他の家からも寄贈されることなって、結果として同じものを複数所蔵することになる、ということがあることによります。しかし、歴史系の博物館施設では、譲渡や交換、売却などということはあまり実際に行われたという話は聞いたことはありませんでした。これは資料の現地保存の法則という考え方や、あるいは使用されていた地域から離れてしまうとあまり意味をなさない、という点からかもしれません。

 しかし、動物園においては、実は交換が日常茶飯で行われており、それどころか「展示動物の飼養及び保管に関する基準」(平成16年4月30日環境省告示第33号)の「第4 個別基準」の「2 販売」にも、展示、繁殖、販売の方法が記されており、売却してもよいということが記されています。これは他の博物館ではなかなかないことですが、自然科学系の博物館ならではの特色ともいえるかもしれません。

 この記事によると、ライオンについては、実は交換や売却の際に非常に価値が付きにくいと書かれています。というのも、ネコ科の動物は交尾をすると必ず妊娠するため、繁殖率が非常に高く、どちらかというとどこの動物園でも増えて困っているというのが現状だそうです。そのため無料で譲渡するところはいくらでもあるとのことで、ペットショップで購入する猫の方が断然高価であるというのが、動物園業界の中での相場となっている、と記事にあります。われわれ来場者からすると花形とも思えるライオンが実はこのような扱いになっているとは、全く知らなかったので、非常な驚きでした。その他にも、サイ1頭とペンギン20羽を交換することが等価交換となっている、など、この記事には書かれていますので、ご興味のある方はリンク先から読んでみてください。

 このように、同じ博物館施設と言っても、歴史系の博物館と自然科学系の博物館では資料の取り扱いがかなり異なることが判ります。資料といっても、動物園で展示するのは生き物ですので、資料という言葉にすら抵抗があるかもしれませんが、歴史系ではあまり見受けられないことが自然系では普通のこととして行われているという実例として挙げられます。これは同系統の水族館でも同じことと思います。

 一応、博物館学芸員になる際に、大学の学芸員課程で、館蔵資料を他の館と交換、売却、処分することは実は出来るんだ、ということを授業で習ったことがありますが、実感としてそのようなことを現場で感じたことはなかったのですが、この記事を読んでみて、確かに動物園、水族館も博物館だと習ったな、ということを思い出しました。

 動物を資料、文化財というと、何となく違和感があるかもしれませんが、時々耳にすることもある「天然記念物」や「特別天然記念物」と呼ばれる動物もある通り、動物も「記念物」というカテゴリーの文化財に入るわけです。そのため、売買、譲渡、交換などが可能な博物館資料という扱いになっていることを、筆者も改めて思い知らされました。インパクトのある記事でしたので、少し前の記事ですが、ここで紹介しておきたいと思います。

 なお、朝日新聞の記事に関連する無料のインターネットラジオである朝日新聞PodcastのURLも下記に参考までに記しておきます。


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