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2021ファジアーノ岡山にフォーカス28 J2:第24節:ファジアーノ岡山vsレノファ山口 「背中で引っ張る新ストライカー」

1、 前置き

 期待通りの勝利。まさしく今節の勝利は、そういった勝利であった。中断期間で、しっかり山口戦に向けて、準備できたというのが良く分かる試合であったと思います。一方で、39ブレネー・マルロスは、残念ながらリザーブ入りもできず、48石毛 秀樹も天皇杯の名古屋戦で、肉離れで、早くも離脱してしまっている。

 48石毛 秀樹は、ここ2シーズン怪我に悩まされていたという事で、環境を変えて再起の一年にしようというシーズンであったと思います。主軸とまでは、いかなくても準主軸として清水と岡山で、活躍してきたという事で、実力は十分である選手。怪我から復帰する時期は、恐らくシーズン終盤になると思いますので、無理をせず、是非、来季も岡山でというのが、個人的希望です。

 その方が、48石毛 秀樹の完全復活の道筋も立てると思いますし、来季も岡山で戦ってみて、清水に戻るとか岡山でもう少し頑張るとか、他チームに行くとかという選択した方が、この期限付き移籍の狙いというか、意志を尊重できるのかと思います。一番は、今季の加入での怪我なく、山口戦で出場機会というのを重ねていくのが理想でしたが、起きてしまった事は、どうしようもないので、現状のベストに向けて、進んでいくしかない。

 また、39ブレネー・マルロスは、中断期間という準備期間があったのにも関わらず、まさかのメンバー外。コンディション的な問題なのか、それとも日本のサッカーのスピードの速さへの適応に苦しんでいるのか。何れにせよ、中断期間を経ても、メンバー外という事を考えると、過度な期待は禁物かなと思っています。

 特にこの試合の19ミッチェル・デュークや14上門 知樹の2トップのパフォーマンスを見ていると、出場機会を掴むのは、至難の業と言えそうで、ここに20川本 梨誉や9李 勇載の存在を考えると、より立場が厳しくなる可能性がある。下手をすれば、出場機会が無く、そのまま退団というシナリオすらある。

 ただ、やはり待望のブラジル国籍の助っ人FWという事で、そのプレーを見てみたい。そして、何があるのが分からないのもサッカー。有馬 賢二監督も選手を活かす起用の巧い。そういった事を考えると、今後の39ブレネー・マルロスの台頭を含めチームの更なる前進には、総力をもって臨む必要があるので、これからの活躍に期待したい。

 それでは、希望に満ちた勝利を新加入のディフェンシブエースストライカーと言える19ミッチェル・デュークにフォーカスを当てつつ、この試合を振り返っていきたいと思います。それでは、よろしくお願いいたします。

2、 優位性

メンバー:2021:J2:第24節vs山口(Home)

「ファジアーノ岡山」
・1トップ色が強くなった4-4-2。
・CF19ミッチェルの初スタメン。
・7白井・6喜山・26パウリーニョのボランチ共存。
・7白井と5井上の全試合フル出場継続。
「レノファ山口」
・ポゼッションを意識した3-4-2-1。
・11島屋に代わり新加入の43大槻がスタメン。
・2菊池、14澤井、18小松がリザーブ入り。
・GK21関は全試合フル出場、6渡部もほぼフル出場。

 山口は、繋ぐスタイルという事で、岡山が、サイドに誘導していくという選択肢もあったが、後3人で回す山口に対して、岡山は、19ミッチェル・デュークが、途切れなくプレスをかけていく。そのプレスを受けた山口は、繋いで組み立てているとうよりは、奪われない様にパスを回して、逃れていると解釈しても良いほどであった。

 岡山も前からプレスをかけていくというのは、以前から実践していたが、これほど速く・強く・持続性があるハイプレスは、岡山史上初と言っても良いだろう。注目すべき点は、19ミッチェル・デュークの後方の14上門 知樹、41徳元 悠平、7白井 永地が、追随することで連動して、プレスをかけているという点である。7白井 永地の右SH起用もこのプレスを実現するためであった可能性もある。

 試合中盤から終盤にかけて運動量が落ちるまでは、絶え間なくプレスをかけていた。当然、ファーストディフェンスをかける19ミッチェル・デュークの負担は大きいが、交代するまで、並のFW以上のプレスをみせていた。このプレスの効果により、最終ラインを高く、中盤もコンパクトに保つことができた。

 山口は、なんとか前に繋いだ後は、ハイラインの裏のスペースを使うため、前の3枚43大槻 周平、10池上 丈二、46高井 和馬が突いていったが、ここで5井上 黎生人がスピード活かした対応で、山口の攻撃陣の完封に成功した。31梅田 透吾も広大な裏のスペースをスピードとテクニックで、冷静に対応してケアしていたことで、守備で優位に立てた。

 攻撃でも奪ったら前線にという意識をこの試合では強くもっていた。19ミッチェル・デュークの所で収まるので、単純なロングパスでも山口に対しては、効果的であった。しかし、攻守でスピード感のある展開は山口の選手だけではなく、岡山の選手も体力的にも精神的にも消耗し、遅れていくプレーが多くなり、双方にファールが目立つ様になった。

 ただ、局面によっては、岡山が優位性を保ったことで、結果的に先制点に繋がった。盤石の5バックに見えたが、ハイプレスいや「ミッチェルプレス」の消耗の大きかった岡山の選手にも重くのしかかり、31梅田 透吾のファインセーブやクロスバーに助けられて、辛うじて、勝利を収める事ができた。

「岡山のサッカー」
・19ミッチェルが絶え間なくハイプレスし、後も連動。
・高いラインとコンパクトな陣形。
・奪ったら19ミッチェルに付ける。
・サイドと中央、速攻バランス良い攻め。
「山口のサッカー」
・後ろでしっかり繋いで、前まで運ぶ。
・前三枚が岡山のハイラインをスピードで突く。
・WBは、前の3枚に速くてもクロスを入れて行く。
・WB自身も時には、サイドのスペースへ走り込む攻撃もあった。

3、 ミッチェルプレスの影響

 まず、間違いなく守備強度が高まった。7白井 永地が右SHに入った事で、19ミッチェル・デュークのプレスの強度についていくことができた。14上門 知樹もフル出場試合も多く、問題なくついていける。41徳元 悠平もSBの選手なので、守備にも定評がある。後ろで回す力のある山口にその特徴を出させない程、中断前より高い位置でボールを奪うことができた。

 その結果、ハイラインとコンパクトな陣形を実現できたが、その背後のスペースを突かれた。5井上 黎生人が、長い距離を走って守備する機会が多くなっていたが、この試合では、ほぼシャットアウトできた。ただ、今後は、対戦チームによっては、難しい対応が迫られるシーンも増えてくる点は、このサッカーを志向する上で、小さくないリスクである。

 そして、19ミッチェル・デュークをターゲットにする攻撃を嫌がった山口もハイプレスを仕掛けてきた。ハイプレスの寄せの強度だけ言えば、岡山に引けを取らないもので、危うく相手にボールを渡しかけた危険なシーンもあった。今までの岡山であれば、ある程度持たせて来るチームもいたが、19ミッチェル・デュークに通されるのを嫌がって、プレスを仕掛けてくるチームが増えてくる可能性も考えられる。

 更に心配であるのが、盤石でなくなった5バックである。この試合で、先制したのは、後半33分。負担の大きいプレスの代償として、5バックに移行した後のバタつきがあった。攻めてきたところを、確実に潰して、カウンターを狙う様な戦いが今まであれば、出来ていたが、消耗していた事で、守備の出だしが遅かったのか、押し込まれる時間があった。

「ミッチェルプレスの課題」
・19ミッチェルに追随する事でより強度が増すハイプレス。
・ハイラインでコンパクトな裏の突かれた時に求められるCBのハードな対応。
・高い強度として、当然心配されるチームとしての消耗の大きさ。
・消耗による5バックへ影響が見て取れ、やや不安定であった。

4、 数段階向上した攻撃

19ミッチェル・デュークは、守備だけではなく、攻撃でも存在感を示した。まず、純粋な高さを活かしたターゲットとして、5割以上の勝率で、競り勝てていた。背が高いだけで競り勝てない選手もいるが、陸上選手並の運動量とスピードを持つ19ミッチェル・デュークには、跳躍量もあり、高さとして、大きな武器となっていた。

 加えて、基礎技術もしっかりしており、足下へのパスもポストプレーで、チャンスを広げることが出来る。パスを近くの選手に預けるだけではなく、スルーやお洒落なタッチで、意表を突く創造性にも優れる。守備側に、予測不可の対応が迫られる事で、大きなストレスを負わせて、対応を誤らせる可能性もあるので、シンプルな攻撃ながら今後も有効な攻撃手段となる。

 セットプレーやクロスのターゲットとしてももちろん有効であった。セットプレーでは、惜しくも正面というシーンがあったが、クロスではスピードと高さが伴っている事で、合わせる事のできるポイントが広いのも大きい。グラウンダーのクロスへも単純なクロスにも、緩い速いクロスも問わず、クロスのターゲットとして、今後得点に絡むシーンは増えてくる。少なかったクロスや毀れ球での得点は、間違いなく増えてくるだろう。

 見逃せないのは、囮としても非常に有効であることである。やはり、速さ・高さ・強さ・巧さの三拍子どころか四拍子揃ったストライカーを、守備する側は無視できない。その動きに対して、空けることができたスペースを14上門 知樹がミドルシュートを狙うというシーンやそのスペースに7白井 永地が飛び込むなどの相乗効果も期待できるので、19ミッチェル・デュークのフリーランの動きは、効果的である。

 そして、相手が消耗した所に27木村 太哉や18斎藤 和樹といったドリブラーを投入することで、より彼らの持ち味を発揮し易い状況を作れる。リードを許した時に逆転する手立てがなかったが、そこを押し返す事もできるかもしれない。更に9李 勇載が復帰できれば、終盤投入することができれば、1人でダメ押しという展開にもっていけるかもしれない。もちろん、19ミッチェル・デュークとのスタメンでの共存も面白いかもしれない。

 何れにせよチームとしてベースに19ミッチェル・デューク1人が、加わった事で、劇的な変化を遂げたと言っても過言ではない。攻撃パターン増による攻撃の多彩化は、得点増に繋がる。中でも最後の質の部分で足りなかった高さや、中央の厚みへの改善には、特に期待したい点である。

「ミッチェルの攻撃での武器」
・前線のターゲットとしての空中戦の勝率の高さ。
・基礎技術と創造性を活かしたポストプレー。
・多様なクロスに合わせるポイントの広さ。
・高い存在感を活かした囮となる動きの有効性。

5、 総評(後書き)

 19ミッチェル・デューク中心に語って来たが、それだけの存在感であった。しかし、有馬 賢二監督も試合後に、語っていたが、今までやったことの延長戦にあるという趣旨のコメントには、共感しかない。後ろから前までの運び方や、前から行く守備。こういったスタイルは、シーズン開幕当初からじっくり作り上げてきたスタイルである。

 1試合1試合を大事にして行く中で、完成したスタイルで、今後のチームのバージョンアップやグレードアップを繰り返して行く中で、上位に迫るサッカーをどこまで構築することができるのか。少なくとも、後半で補強した選手やシーズン当初から活躍する選手を含め、このメンバーで戦えるのは、このシーズン限りなので、残り試合全勝するぐらいの気持ちで、最後まで諦めず戦って欲しい。

 消えていたJ1昇格の可能性が1パーセントでも、見えてきたと言える勝利であった。まだ、1試合しか見ていないが、今後の強化方針にも大きな影響を与えると言っても良い働きでもあった。正直、岡山でここまで攻守にハイレベルな選手はみたことがない。流石オーストラリアの五輪のオーバーエイジとして、参加した選手である。開幕からいたらと心から思ってしまったのは事実。

 怪我から復帰する選手や、出場機会の少ない選手の活用は必須で、今後の戦いは、厳しく難しいものとなっていく。どこまで望みを食い止める事ができるか。そういった戦い方ができれば、主軸選手が、もう一年岡山で、昇格を目指そうという気持ちにも繋がるので、無駄にはならない。9李 勇載が岡山に残ってくれたようにサポーターだけではなく、選手も岡山のサッカー、岡山という土地を好きになってもらえると嬉しい。是非とも1人でも多くのサポーターだけではなく、選手の心を掴む残りの試合になったらと心より願うばかりである。

文章・図版=杉野 雅昭
text・plate=Masaaki Sugino

関連動画
【公式】ハイライト:ファジアーノ岡山vsレノファ山口FC 明治安田生命J2リーグ 第24節 2021/8/9
は、こちら(別サイト:youtube)。
URL:https://youtu.be/QmOfi0-aRDQ

関連コメント
監督コメント
URL:https://www.jleague.jp/match/j2/2021/080920/coach/


選手コメント
URL:https://www.jleague.jp/match/j2/2021/080920/coach/#player


造語

「ファンタジスタシステム」
2トップに技術のある選手を据えて、中央にポジションをとる。中央を通そうとするパスコースを制限し、サイドへ出した所を狙う。そこを突破された後も、粘り強く守り、ボールを奪ったら2トップにボールを集め、技術のある選手が攻撃に移った時に、2トップの傍にいき、技術と創造性を活かして、ゴールに迫るやや攻撃よりの作戦。
「ミッチェルプレス」
速さ・高さ・強さ・巧さ・持続力によって、19ミッチェル・デュークがプレスを繰り返して行く中で、攻撃的なMFが追随する中で、相手のパス回しの自由を大きく制限する。また、後方の選手もハイライン、中盤もコンパクトに保つ事で、高い奪取力を発揮する。ただ、チームとしての消耗も大きく、19ミッチェル・デュークの1トップ時しかできない作戦。

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