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2021ファジアーノ岡山にフォーカス33 J2:第29節:ファジアーノ岡山vs栃木SC 「高低縦横の攻防」

1、 前置き

 触れるのが遅くなりましたが、ファジアーノ岡山も15周年なのですね。色々とあった15年間であったと思います。黎明期の頃の岡山に関しては、ニュースで名前を聞く程度の認知度でしたが、今では県内外問わず一定の認知度に到達したのではないだろうか。岡山と言えば、ファジアーノ岡山。そういった創設時には、夢のような話が、現実となろうとしている。

 ただ、現実的には、野球の方が人気は高く、全国規模の球団がある各6チームの両リーグと比べると、やはりJリーグは、認知度は低いだろう。日本代表の最終予選すらアウェーは、地上波から消えた。野球も頻度が減っている事を考えると、娯楽の多様化を含め、時代の移り変わりを感じる所ではある。

 モノクロの写真からカラー写真、データ上の写真と、アップデートが繰り返してきた中でも、昔には昔の良さ。現在には現在の良さがある。ただ、過去に固執していては、自然消滅してしまうのも事実。現代の形で、過去の模造した上で、現代型に改良した形での維持に、留まるであろう。歩みを止めた瞬間に、粉雪のように今の地位は、一瞬で溶けて無に帰ることとなる。

 J1という舞台は、夢舞台ということに変わりないが、変動する現代を戦い抜かなればならない。冷静になって、今季のJ2を見渡した時に、攻撃的なチームというのは、ほぼ存在しなくなっていて、一定の守備強度を保った上で、他のチームを圧倒する事で、得点を重ねるチームも存在するが、基本的には、守備ベースに1点勝負。それが基本である。

 こういった潮流になった事で、献身性と守備を重視してきた岡山は、J2の地位を辛うじて保つことができている。ここ3試合で、無得点に終わっている岡山だが、点が獲れないかからといって、守備のバランスを崩してしまえば、そこに突かれて逆転不可のスコアに持ち込まれてしまう可能性すらあるリーグとなっている。

 攻撃的に行くには、そこを補うスタイルを確立している必要があり、攻撃的な選手をただ並べれば、得点が増える訳では無いですし、仮に増えたとしてもそれで失点も増えてしまえば、成績が安定するどころか、不安定になる可能性すらありえる。何が正解という訳では無いし、序盤戦圧倒した新潟の苦戦を見ても勝利どころか失点を抑える事も得点を重ねる事もできていない。

 さて、そういった時代の変化と、岡山の変わらぬ安定した守備の反面、得点が奪えないという良い所を悪い所がはっきり出た試合となった。この部分に関して、チームの抱える課題と、栃木が、何故3連勝という結果を掴むことができたのかにフォーカスを当てつつ、48石毛 秀樹と9李 勇載の復帰した栃木戦を振り返りたい。

2、 強みを前面に出す栃木

メンバー:2021:J2:第29節vs栃木(Home)

「ファジアーノ岡山」
・柔軟性と流動性のある4-4-2。
・18斎藤がスタメンに、20川本はリザーブに回る。
・怪我明けの9李と48石毛がリザーブ入り。
・5井上と7白井の全試合出場継続。
「栃木SC」
・パワーを重視した4-4-2。
・元代表の31豊田がスタメン、29矢野がリザーブ。
・世代別代表の経験のある20三國のリザーブ入り。
・5柳が、全試合フル出場継続。

 この試合での栃木は、シンプルに31豊田 陽平を使っていくという基本方針であった。すぐにロングパスという程ではないとしても基本的には、31豊田 陽平を頂点とするロングパスを軸とした速攻の縦の攻めと、浮き球やグラウンダーのパスを繋ぐ時攻めを、状況によって選択する攻撃を志向していて、守備の安定への比重は大きいサッカーであった。

 また、人数をかけた攻撃は少なく、岡山以上に守備に人数を割いていた。少人数での攻めを可能性のある攻撃にするために、31豊田 陽平に如何に運ぶか、タッチ数と頂点への到達するまでにボールを持つ時間を極力短くする。もしくは、少ないパス数で前に運んで行く事で、攻撃の形を作っていた。まさにローリスク・ローリターンのサッカーであった。

 ただ、人数をかけない分、前からの守備は31豊田 陽平に頼る事になり、前からの守備の負担も2トップの比重は大きく、前方での人数が少ない事で、ボール保持する事が難しく、人数が少ない事で、攻撃が細く単調になり易く、攻め手も限られる。保持した時の攻撃に自信のあるチームに対しては、一方的な展開になる可能性もある。

 そこの打開策として、1つの栃木の武器が高さと強さであった。技術系の選手よりフィジカルに特徴のある選手を揃えている栃木の武器を使えるセットプレーの機会を増やす事にも力を入れていた。その1つが、ロングスローで、岡山でも岩政 大樹がピッチにいた時には、非常に効果的な武器であった。今の栃木には、31豊田 陽平や得点力のあるCBである5柳 育崇がいるので、大きな得点源となりえる攻撃手段である。 

 実際の先制点もセットプレーの流れの中で、5柳 育崇の高さを活かしたアーリークロスから5井上 黎生人の背後と、打点の高いヘッドで、コースを変えて、軌道とは逆のサイドに、ヘッディングシュートを突き刺す事で、31梅田 透吾には、ノーチャンスのゴールで、まさに栃木の狙っていた形との1つであった。

 終盤に守り方に関しては、前線に必要最低限の人数を残して、よりリトリートした形になった栃木。前線やサイドにボールを持てる選手がいれば、自陣に押し込まれる時間帯も減らす事ができるが、栃木は、ほぼクリアから岡山の攻撃をリセットすることで、手一杯であった。しかし、最後にカウンターのシーンを作れたという事で、最後まで栃木のゲームであった。

「栃木のサッカー」
・王道のリトリートを軸にしたサッカー。
・31豊田を頂点とした速攻主体の攻撃。
・ボールロスト後は、素早くスペースを消す対応。
・ロングスローも活用しセットプレーでの少しでも得点力アップ。

3、 バランスの良さが裏目に出た岡山

 栃木の徹底したリトリートしたサッカーに対して、岡山は、自分達のスタイルで栃木に挑んだ。カウンタ―・サイド攻撃・ポゼッションをバランスよく採用。カウンタ―に関しては、前線での抜け出す動きとスペース共になく、収めるのが巧い選手が不在という事で、クリアに近い攻撃になっていた事で、ほぼ機能していなかった。

 18齊藤 和樹や27木村 太哉が抜け出しそうなシーンこそあったが、裏抜けが目的ではなく、隙があったので、トライしたというあくまで状況に応じた判断であった。栃木のライン前後で、駆け引きする選手か、前線で体を張れる選手である19ミッチェル・デュークが、不在であれば、カウンターは難しい。そう印象づいた試合となってしまった。

 この試合はメンバー外であるが15山本 大貴も、裏への意識は高いが、サイドのスペースや、組み立てへの意識も高く、速さが欠ける。裏への意識のある選手が不在であった栃木戦のスタメンのメンバーによる主な前線まで運ぶ手段の主な選択は、ポゼッションであった。しかし、中央に人数を集めての攻撃の選択肢の多い形は作れていなかった事からも、中央から崩そうという意識は、岡山は高くないように映った。

 そのため最終的には、サイドを使っての攻撃を選択する事が多く、中央でドリブルや細かいパス交換で、密集地帯を攻めるというよりは、サイドにボールを動かす事で、中での駆け引きで、視点に変化を付ける事で、隙を生み出そうというサイド攻撃を狙っていた。空中戦を挑むというよりは、速いグラウンダーか低めのクロスを入れる事で、栃木に守備の対応の難しいプレーを迫っていた。

 ただ、栃木も中に人数が揃っているシーンが多く、決定機になりそうで、クリアされてしまうシーンや、シュートブロックされてしまうシーンが散見された。シュートを打てそうで打つコースがない。そもそもパスやクロスが通らない。カウンタ―が形にならず、ポゼッションからの攻撃であり、一定の人数をかけた攻撃から栃木の逆襲には怖さがあった。

 栃木の攻撃に約束事があるのか、少ない人数であるのにも関わらず、正確に味方の位置を把握しているかのような少ないタッチ数での細かく速いパスワークに、岡山の守備陣は、奪取のアクションを起こしているのに関わらず、奪いきれないというシーンを連続して作られ、ゴールに迫られるシーンを、何度か作られてしまった。

 それでも失点したシーンを除いては、カウンターを受けてしまってゴールに迫られるシーンこそ作られていたが、最後の所では、集中して対応する事で、フリーで前を向かせるという回数も制限し、31豊田 陽平との競り合いも負けずにしっかり戦えていた。基本的には、失点したシーンを除いて、集中力切らさず、最後の所では体を張った対応ができていた。

 しかし、9李 勇載や48石毛 秀樹といった攻撃的なカードを投入し、攻勢に出るも栃木の体を張った守備の前に決め手を欠いた岡山の反撃は実らず、最後まで栃木の壁を破る事ができなかった。結果だけみると、これで、5試合負けなしから3試合無得点と変わり、深刻な徳力不足が重く圧し掛かった試合となってしまった。

「対栃木の岡山のサッカー」
・持たされたことで伸びたボール支配率。
・サイド攻撃での揺さぶりの崩しも栃木の壁を崩せず。
・栃木の守備の人数が揃う前までに、有効な速攻の形を作れなかった。
・失点シーン以外の安定した守備と9李の投入で猛攻も勝ち点に届かず。

4、 高低縦横の攻撃への道筋

 岡山の後半途中までは、攻撃の属性は、低く横からの攻撃を主体としたものであった。9李 勇載が、投入されてからは、裏への高低の縦攻撃も形となるようになった。流石にリトリートした栃木のGKとDFラインの裏にはスペースはなかなか空かず、決定機こそ作れなかったが。9李 勇載をターゲットにした攻撃は、可能性を感じた。

 DFに対して、裏をとられるという怖さを与える事ができれば、ラインを高くする事を恐れて、ラインが下がる状況を作れるので、持続的な攻撃を可能とする。それでも、前半以上にシュートを打てそうなシーンこそ作れたが、ゴールが最後まで遠かった岡山。48石毛 秀樹も積極的にクロスを配給していたが、栃木の厚い壁に弾き返され続けた。

 ドリブルによって、縦深くに侵入する意識が高い27木村 太哉と比べてみると、48石毛 秀樹は、ドリブルではなく、パスやクロスを入れる意識が高いので、パスを受け易い所と、パスを出し易い所へのポジション取りが巧い。自ら局面の打開を目指す仕掛ける選手の27木村 太哉か、仕掛ける選手を活かす48石毛 秀樹かという特徴を踏まえて、組み合わせや起用のタイミングの試行錯誤していく事となる。

 9李 勇載は、裏への高低の縦攻撃のターゲットとして、48石毛 秀樹は、高低の縦横攻撃の出し手として期待したい。ここに19ミッチェル・デュークが加われば、高低の横攻撃だけではなく、9李 勇載と違った起点としての高低の縦攻撃も可能となる。この3人のが、ピッチに揃い、コンディションや連係が良くなれば、得点力不足解消に繋がる。

 9李 勇載が、裏への抜け出す動きを続けて、裏への浮き球やグラウンダーのターゲットにDFラインにプレッシャーを与え続ける。その手前で、19ミッチェル・デュークが、足下のボールや浮き球のボールをポストプレーで収めるか、繋ぐ事で、前線でボールを持つ時間が増える。競り合ったボールが、9李 勇載の前に転がれば、それこそ一瞬で決定機になるシーンも演出できる。

 3バックであれば、ここにこの二人をリンクできる14上門 知樹や、20川本 梨誉、18齊藤 和樹、48石毛 秀樹、41徳元 悠平、27木村 太哉といった2列目かつMF適性のある選手を状況に応じて、シャドーの一角か2トップの下で起用できる事は大きな武器となる。交代カードを切れば、相手も修正を行わなければ、対応できない破壊力を秘めたオプションと成り得る。

 2トップであれば、元々左SHであった14上門 知樹だけではなく、20川本 梨誉も2列目での起用も面白いかもしれない。後は、DHを一枚削って、4-1-3-2のような超攻撃的な新布陣も選択肢の1つと成り得る。何れにせよ9李 勇載の復帰と19ミッチェル・デュークの再合流による化学変化への期待は、私のみならず、多くの岡山サポが期待している所であるだろう。

 奇しくもベストメンバーが揃うであろう試合に首位の磐田のホームに乗り込むアウェー戦。両チーム戦力を総動員しての総合力が問われる試合になるだろう。何処かのタイミングで投入される攻撃的な選手によって、高低縦横の駆使した総攻撃を磐田に仕掛ける状況になった時の、攻防が今から楽しみである。

「高低縦横に向けて」
・9李で縦の攻撃の形がより強力なものとなった。
・48石毛も加わった事により出し手の選択肢の多彩化。
・19ミッチェルの再合流に横に合わせる力の復活。
・多彩な攻撃で近づいた有馬ファジの理想系。

5、 後書き(敗戦で逆に高まった期待)

 やはり、9李 勇載と48石毛 秀樹は、ベストコンディションではなかったという事を考えれば、これからもっと良くなる。点こそ入らなかったが、そういった可能性を感じるパフォーマンスであった。2選手とも、今季の岡山に足りなかったものを持ち込んでくれる。本文で触れなかったが、48石毛 秀樹のプレースキックも新たな武器となる。直接FKでの得点への期待を含め、CKの質も更に上がる事も間違いない。

 また、9李 勇載がピッチに入って来た時の拍手の大きさ。ずっと、9李 勇載を待っていた。そういった拍手であったのは間違いない。今季何もできていない。9李 勇載自身もそういった悔しさもあるのは間違いないので、ここからの活躍と復活は、自他共に今季のここからの楽しみであり、岡山の試合を見る価値の高めることができるポイントである。

 そして、48石毛 秀樹もここ数シーズン清水で、怪我に悩まされており、再起を掛けた残り試合となる。清水に戻る事ができるのか。それとも清水を離れる事になるのか。順調に怪我が癒え、早く復帰できたことで内外にアピールできる試合数は十分ある。怪我にだけ気を付けて、岡山で、48石毛 秀樹の輝きを取り戻してくれたら嬉しく思う。

 個人的には、残り試合で、スタメンとリザーブのメンバーの主軸を維持した上で、来季にJ1を目指せるかどうか。そういった手応えを掴めるかどうかの重要性をこれまでも訴えてきたが、首位の磐田が相手だからこそ特にその部分が問われる試合となる。勝ち点的にはJ1の芽は、ほぼないと思われるが、来季を見据えた時には、絶対勝利したい重要な試合となる。

 磐田としても、守備が安定している上に、ベストメンバーの揃った岡山に内容と結果で勝利すれば、更に勢いが付くところであるので、優勝での昇格を目指す上で、勝ち点3を獲りに来ることは間違いない。意地のぶつかり合いとなる好ゲームに、岡山にして欲しい。磐田も警戒した中でも自分達のサッカーを展開してくることが予想されるが、どういった試合になるのか楽しみである。

文章・図版=杉野 雅昭
text・plate=Masaaki Sugino

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ファジ造語

「ファンタジスタシステム」
2トップに技術のある選手を据えて、中央にポジションをとる。中央を通そうとするパスコースを制限し、サイドへ出した所を狙う。そこを突破された後も、粘り強く守り、ボールを奪ったら2トップにボールを集め、技術のある選手が攻撃に移った時に、2トップの傍にいき、技術と創造性を活かして、ゴールに迫るやや攻撃よりの作戦。
「ミッチェルプレス」
速さ・高さ・強さ・巧さ・持続力によって、19ミッチェル・デュークがプレスを繰り返して行く中で、攻撃的なMFが追随する中で、相手のパス回しの自由を大きく制限する。また、後方の選手もハイライン、中盤もコンパクトに保つ事で、高い奪取力を発揮する。ただ、チームとしての消耗も大きく、19ミッチェル・デュークの1トップ時しかできない作戦。
「勝利の方程式」
リードした場面で、4バックから3バックにシステム変更し、重心を完全に後ろに置く分けではなく、中間に位置をとり、遊撃に専念しつつ、カウンターにより追加点を狙う。スペースを空けずに、岡山の守備時の集中力や献身性を活かし、守備にハードワークし、攻め手側のミスを誘発させて、時間を稼ぐことで、同点や逆転のリスクを小さくし、逃げ切る作戦。
「高低縦横の攻防」
得点を狙う攻撃スタイルの属性の指標。9李 勇載と19ミッチェル・デュークが揃う事で、縦の攻撃と横の攻撃。どちらでも高い質の攻撃が可能となる。また、低い(グラウンダーの)クロスやパス、高い(浮き球)のクロスやパスの多彩な出し手も揃った事で、多彩な攻撃と柔軟性のあるチームスタイルが可能となった有馬ファジが目指す理想系の1つの形を感じさせる要素。

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