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2021ファジアーノ岡山にフォーカス23 J2:第20節:京都vs岡山(Away) 「スピード感に攻守で飲まれた岡山」

1、 前置き

前節の琉球に対してのホームでの完勝を受けて、意気揚々と、京都の新スタジアム「サンガスタジアム by KYOCERA」に乗り込んだ岡山。前節の快勝であったことと、近いアウェー戦という事で、サポーターも高い期待感を持って、チケットを購入し、参戦された方も多く、実際に、アウェー席のチケットは、完売した。

専スタは、喉から手が出る程、欲しいのも事実だが、一度できると、しばらくは、そのスタジアムを使っていく事となるだろう。そう考えると、適切な土地、便利なアクセス、相応の集客可能な規模の広さ、地域との関係性や試合がない日のスタジアムの在り方。様々な角度から、慎重に進めて行く必要がある。

国立スタジアムのように、予定が変更されるようでは、無駄な部分が出てくるので、多くの方に支持された上で、無理のないように進めないと行けないが、そういった心配ばかりしていても、なかなか実現は難しくなってくる。京都の新スタジアムに関しても、確か予定地が一度、変更された筈なので、なかなかデリケートな事業だと感じる。

 現状の岡山のシティライトスタジアムは、アクセスに優れ、満席になるのは、好カードの時がほとんどで、コロナ収束後にどれだけの観客がスタジアムに入るのかというのは、未知数な部分がある。そういった意味では、県の財政面を考えても、専スタ構想は、当分は浮上してこないだろう。こればかりは、仕方ない。また、良くなった時に実現する日が来ると信じたい。

 さて、そういった京都の新スタで、首位の京都の勢いに前に敗れ去った岡山。通用した部分と通用しなかった部分。ここにフォーカスを当てて、首位の京都が、何処が凄かったのか、京都の何処にやられたのかなど、2-0というスコア通り、完敗で、実力差を感じた試合を振り返っていきたいと思う。それでは、よろしくお願いいたします。

メンバー:2021ファジアーノ岡山「第20節vs京都(Away)」

2、 付け焼き刃では太刀打ちできず

岡山は、アクシデントにより、メンバー変更を余儀なくされた中で、京都への対策を行ったメンバーを、組んだ。そういった部分を含め、まずは、両チームについて簡単にまとめていきたい。

「ファジアーノ岡山」
・4-4-2のいつものシステムだが、組み合わせは大きく変更。
・左SB(11宮崎→2廣木)、右SB(2廣木→5井上)、11宮崎はメンバー外。
・左SH(41徳元→27木村)、右SH(10宮崎→16河野)、41徳元もメンバー外。
・フル出場継(5井上&7白井)、久々のリザーブ入り(35山田&25野口&24下口)。
「京都サンガF.C.」
・4-1-2-3の攻撃の質を活かすシステムを継続。
・前節からのスタメンの変更はなし。
・リザーブ(IN:6本多&14仲川、OUT:11曽根田&22谷内田)。
・23ヨルディはフル出場継続と、チーム得点王の9ウタカもスタメン。

 まずは、岡山のメンバーを見た時に、3バック(5バック)を最初から採用したのではないかと思ったが、いつもの4-4-2の形を維持した上で、22安部 崇士、4濱田 水輝、5井上 黎生人を同時起用と、京都の左サイド攻撃に対する備えという意図があったと考えると、納得できる部分もある。

岡山の左サイドでのボールの落ち着きどころとして、存在感を放っていた11宮崎 智彦の欠場の影響は大きく、2廣木 雄磨が、右SBから左SBに回ることとなったが、利き足は、右なので、ビルトアップにおいて、安定感の部分で、大きく低下した。22安部 崇士もビルトアップをやり辛そうにしていたのは、印象的であった。

一方で、右SBに入った5井上 黎生人は、CBでは目立ち難かったドリブルやパス交換といった攻撃面の良さが光った。以前、有力なオプションという話をしたが、今後も選択肢に入って来るであるだろう。本職のSBのような攻撃参加は、魅力的で、高い位置で、仕掛けを見せるシーンもあった。守備でも本職が、CBらしい粘り強い守備というのは、SBでも見ることができたので、攻守での選択肢として、状況や戦い方や、対戦相手次第では、今後も採用さえる可能性はある。

 ただ、この試合の京都の9ピーター・ウタカをシンプルに使う攻撃の切れ味は鋭く、4濱田 水輝、22安部 崇士、GK31梅田 透吾の3人をもってしても押され気味の対応を迫られた。ボールを奪いに行ってもキープされて、スルーパスを出される。スペースを消すように受けても、身体能力を活かした仕掛けで、ゴールに迫って来る。岡山の守備は、終始落ち着きが無く、対応に困っていた。

 また、攻撃でも京都の奪取力のある守備に苦しんだ。守備のアクションが洗練されていて、寄せを受けることは多かったが、岡山の選手が、ボールを持つと、瞬く間に囲まれて、ボールを奪われる。寄せを受け手もキープできずにボールロストする。京都の守備は、寄せた後の奪取力が洗練されていた。

 岡山は、4-4-2の守備のスペースを作らせないバランスと、前線の2枚の質の高さで、勝負する方針で、そういった京都に立ち向かったが、京都の攻守の展開のスピードに付いていけずに、押しきられてしまった。前線は孤立し、後方も奪いきれず、DFラインも混乱していた。粘り強く守っていたというよりは、堪えていたと捉える方が、適切であった。

 後半の終盤辺りには、京都の運動量が落ちて、多少ゲームが落ち着いた時に、シュートの形を作れたシーンを含め、岡山の時間帯もあった。連動性や次の展開まで発展性のあった京都の攻撃と守備の完成度の差は大きく出てしまった。ベストメンバーではなかったとはいえ、それ以上に、岡山の目指すサッカーの完成度と京都のサッカーの完成度に大きな差があった。

 もちろん、質の差はあるが、チーム強化のアプローチの仕方や、スタイルに明確な差があった。ただ、京都も負けていた時期もある事や、岡山も新潟や琉球といった上位に勝利したのも事実であり、下を向く必要はなく、2巡目のホームで、雪辱を果たす事で、岡山のサッカー、岡山の意地を京都に見せたい。そのためにも一戦一戦しっかり戦って行きたい。

「岡山のサッカー」
・急造ながら守備重視の4-4-2で、京都の攻撃に備えるも安定せず。
・センターラインで20川本、6喜山、4濱田、31梅田を軸とする狙い。
・10宮崎をジョーカー、33阿部FW起用の奇策を用意するも得点は遠かった。
・主軸を引っ張るも、1点が遠く、堅守も綻び、総合力に差。

「京都のサッカー」
・速い寄せと奪取力からの攻守の入れ替えの速さで、岡山を圧倒。
・9ウタカをターゲットにした攻撃で、岡山DFを翻弄。
・後方の選手の攻撃参加で、裏のスペースを突く攻撃が機能。
・攻守共に数的有利に感じるサッカーで、攻守共に有利に試合を進める。

3、 京都の強さに迫る

 2-0というスコア以上の差を感じたこの試合。「京都のサッカー」というか京都の強みで、おおまかにまとめたが、その強さに触れる事で、岡山の課題や、岡山が通じた部分を整理していく。これによって、岡山の現在地や2巡目のホームでの京都戦で、岡山がどう戦うかという点まで、発展していきたい。

 やはり、際立ったのは、9ピーター・ウタカの存在感。9ピーター・ウタカにボールが入った時に、岡山のDFが寄せに行くが、そのフィジカルの強さ、スピードやパワーといった部分で、後手となった。他の試合で、安定感を見せていた4濱田 水輝と22安部 崇士をもってしても、2人でやっと対応できるという状態であった。

 1対1では、抑える事ができないので、2人がかりに近い状態で対応していたが、それによって、背後のスペースや、サイドのスペースといった所を活用されて、岡山のDFラインは、面白い様に突破されていた。岡山の20川本 梨誉が、近いプレーを見せていたが、そこをほぼ全てアップグレートした感じである。

 ただ、20川本 梨誉も基礎技術という部分では負けていないと思うので、そこにフィジカルの強さというのが、伴った時に、手を付けるのが難しくなる。現状、20川本 梨誉も囲まれた時に、ボールを失わないといった懐の深さまでは無く、技術を活かした上で、創造力で、意表を突いた時に、局面を打開できる時もあるという域で、留まっている。

 そういった意味では、ここのストライカーの質という部分では、正直岡山は、負けていた。しかし、戦術で挽回できれば、それを覆すことは可能であるが、残念ながら、戦術というか、チームの完成度の部分でも京都に負けていた。サッカーのテンポが、速いのが現代サッカーであるが、ピッチのスペースが狭く感じていたのが岡山で、広く感じていたのが京都であった。

 岡山のボールを持つ余裕を奪っていたのが、ボールホルダーに対する素早い京都の寄せである。寄せが速いだけだと他のチームでも見ることはあったが、どうやらそれだけではない差がある。ボール奪取時の守備の鋭さである。ファールではなく、正当なチャレンジにより、岡山がボールロストするシーンが目立った。

 これは、恐らく練習から、守備練習を徹底していたのではないかと想像できる。「寄せに行って、守備の方法は任せる」ではなく、「寄せに行く、この角度ならこのボール奪取の方法、この人数で囲めたらこう奪う」守備の方法1つをとっても細部まで徹底した守備練習をしていないと、ここまで差はでないであろう。

 守備が良い理由は、それだけではない。京都の選手は9ウタカを中心に巧い選手が多い。つまり、京都は、普段からJ2でもスペシャルな選手を相手に練習ができている。実は、これも大きな京都のアドバンテージである。試合に向けての一番の準備は、質の高い練習をできるかどうかも大きなポイントである。もしかすると、京都からすれば、普段通りのプレーなのかもしれない。

 岡山も限られた予算の中で、プレーの質の高い選手を獲得して、練習の質を高めて行くというのも1つのチームの強化の方法である。更に、その練習を考える指導陣の存在も大きい。そう考えると、チームは、総合力が高ければ高いほど強くなる。一方で、どこか欠けてしまう事や、バランスが悪ければ、チームとしてのハイパフォーマンスを魅せる事は難しくなる。

 もう1つ大きな差を感じたポイントがある。京都の選手や攻守で、迷いがないプレーが多かったのに対して、岡山は、味方の上りを待って、攻撃のスピードが止まるプレーや、攻撃で、味方を探すプレーが多かった。対して、京都は、味方選手が、良い所へ攻守で顔を出し、攻撃では厚み、守備では密度を作り出し、攻守で迅速さが光った。

 これは、前述の京都の質の高さに対して、岡山の選手が、攻守での対応時に人数を割く状況が生まれ、チームとしての局面に顔を出せる人数が限定されてしまった事。よって、状況や流れによって、攻守の様々な局面で、人数が少ないことが、京都よりは多くなってしまった。ただ、この辺り、運動量でカバーしてきたが、京都の武器の1つも運動量で、カバーしきれなかった。

「岡山と京都の差」
・勝負を分けるスペシャルな選手の存在。
・練度の高い守備時の奪取力や判断の質。
・数的有利を作るチーム力と個の力。
・攻守のスピード感を生み出す局面の1対1の差。

4、 考えたいスタートからの3バック

この試合に、出場できなかった11宮崎 智彦や41徳元 悠平が、出場できていればどうだったのか。そういった仮定の話をしたくなる。これを言い出すとキリがないが、エースストライカーである9李 勇載という岡山のスペシャルな選手がいたらどうか、39増谷 幸祐という守備の巧い右SBがいればどうかという選手の質の差を埋める要素に対して、言及したくなる。

 それと、同じく、私にもこの試合で、できれば見たかった事がある。スタートからの3バックである。前回のフォーカスで、「岡山の勝利の方程式3バック」という文章を投稿したが、勝利に徹するなら3バックという選択肢も入って来る。この試合の京都の戦い方は、予想していたより更に、攻撃に積極的であったからである。

 それは、2点リードした終盤でも攻撃の手を休めることがなかったからで、チームとしては、何処かセーブしていた部分もあったかもしれないが、サイドの深い所で時間を稼ぐというような戦い方はせずに、得失点を少しでも稼ごうという気高い強者の戦い方であった。つまり、京都の得点に対して貪欲な姿勢を逆手にとって、岡山が、キックオフから3バック(5バック)で、カウンターを狙う戦い方を採用していれば、勝機があったかもしれない。

 そう考える理由として、4濱田 水輝を9ピーター・ウタカに1人で対応して、5井上 黎生人と22安部 崇士で、カバーリングする事で、対応する。そうすれば、9ピーター・ウタカにもしっかり対応する事は可能であった。2人後ろに備える事で、簡単に裏のスペースを使われる事も無くなる上に、9ピーター・ウタカの自由を制限するという一石二鳥の作戦である。

 また、WB(SB)の両選手が、逃げ切りの作戦のように遊撃に専念する事で、京都のサイド攻撃に備える。前線の選手が、孤立することが多かったこの試合の戦い方を見ていると、下手に攻撃に人数をかけるよりは、岡山の誇る20川本 梨誉を頂点に、14上門 知樹と27木村 太哉の3人で、得点を奪いに行くというのが、現実的な戦い方であった。

 もちろん、チャンスがあれば、CBもWB(SB)も攻撃参加するのもありだと思うが、この試合では、京都の堅守をどう破って、破壊力のある攻撃を抑えるかという難しい対極のテーマの試合であったので、京都は、勝利だけではなく、得点失点まで考えて攻めてくるチームなので、守備を固めて、失点をしない事を第一に考えたかったが、有馬 賢二監督の選択は、いつもの4-4-2であった。

 これは、やはりスタートから3バックを選択した場合は、岡山の3バックの完成度が高さを考えれば、チームとしての成長は大きく期待できない。そう考えると、京都に対して、完成度で差を見せつけられた4-4-2で、京都に挑むという選択肢も悪くなかった。もし、有馬 賢二監督が、勝ち点に徹したサッカーをこれまでにしてきていたら、もっと勝ち点を稼げたかもしれないのも事実である。

 ただ、有馬 賢二監督が、もし、そういったサッカーを続けていたら、前任の長澤 徹監督のように、終盤に全く勝てないという状況に陥る事態となる可能性は高くなる。ただ、長澤 徹監督のサッカーは、着実に勝ち点を積み重ねていく事で、プレーオフにも挑戦できた。ただ、サッカーの内容としては、退屈なものであったのも事実。

 有馬 賢二監督は、理想を高く魅力的なサッカーをしようと試行錯誤して、戦ってきているが、勝ち点の取りこぼす時期も長かった。ここに来て、形も出来つつあり、後半戦は、勝ち点の積み上げできる可能性も秘めている。本当に今季で昇格を考えているのであれば、3バックの採用が現実的であったと思うが、それを採用しなかった事を、結果で、証明できるか。

 それは、次節の甲府戦に勝利して、前半戦の勝ち越しこそ出来なかったが、得失点で上回ることが出来れば、着実な前進と言えるだろう。ただ、それでも勝負所で、スタートから3バックを採用する。そういった選択をする日が近いうちに来るかもしれない。ただ、カウンターや守備の安定が狙いの戦い方である以上、4-4-2の様にチームとしての対応力には、現状では差がある。

 今後は、WB(SB)が、遊撃でなく、通常の3バックの様に攻守で顔を出す戦い方もできるように、中断期間で、取り組む可能性もあるかもしれない。5井上 黎生人が右SB(
CB)としてプレーして、16河野 諒祐が、SH(WB)としてプレーすれば、可変システムとして、今後のチームとしての幅となる可能性もある。

 そう考えると、この試合の最大の収穫は、5井上 黎生人の右SBでも十分やれた事。逆に誤算は、22安部 崇士と4濱田 水輝の2人のCBでも9ピーター・ウタカを抑える事ができなかった事であるだろう。9ピーター・ウタカを1対1で、しっかり対応できていれば、勝負は、違ったものとなった可能性はある。

 岡山としては、そこに対して、手を打てる策はある事に加えて、最初の失点に絡んだ31梅田 透吾や22安部 崇士の2選手が、岡山で試合に出場するようになったのは、ここ数試合で、まだまだ連携が不十分であった事、4濱田 水輝も復帰して間もなかった事、連勝中のメンバーで戦えなかったことを考えると、4-4-2でも戦える可能性もある。チームとして、2巡目のホームの試合では、その辺りどういった試合になるのか、今から楽しみである。

「岡山の課題と収穫」
・J2トップレベルでは感じた31梅田と22安部の連携面の不安。
・3-4-2-1のスタートからの採用する選択も考えたい。
・5井上の右SBが有力なオプションだが、右サイドは飽和気味。
・4バックと5バックの可変システムの道も見えた。

5、 総評(前半戦最終節に向けて)

京都に対して、2連勝中のメンバーで臨めなかったのは、首位相手には、流石に分が悪かった。岡山と京都の現在地の差。3バックをスタートから採用する選択肢もある。という3点から、この試合を振り返ってきましたが、如何でしたでしょうか?力の差を感じる結果になってしまいましたが、それでも戦い方はあると思います。

 夏場の補強の可能性を含めて、怪我人が戻ってくれば、京都に対抗できるチーム力まで高めることもできる可能性もある。開幕の頃と比べて、岡山のパフォーマンスが向上した通り、次の対戦では、どうなるか分からない。そういった意味では、次節の前半戦最後のホーム戦の内容と結果が問われてくる事となる。

 有馬 賢二監督が、目の前の勝ち点だけではなく、先を見据えた戦い方を選択して、この試合に臨んだ事は分かった。後は、勝利(結果)に徹する状況を作れるかどうか。チームとして、理想を追い求める中で、チームに幅を作る事で、総合力をあげて行く。二巡目のホームでは、是非難敵京都を打ち破って欲しい。

 そのためには、変幻自在の4バックで、京都に対抗できるチーム作りを進め、次こそは、京都に勝利の方程式である3バックで、逃げ切るという展開に持ち込みたい。そのためには、今季は、苦手となっているホームでしっかり勝つ事。ここが、重要になる。甲府も上位もあるので、勝敗での勝ち越しは無理となったが、得失点でのプラスを目指す明日の試合も楽しみである。

文章・図版=杉野 雅昭
text・plate=Masaaki Sugino

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