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2021ファジアーノ岡山にフォーカス42 J2:第38節:ファジアーノ岡山 vs モンテディオ山形 「1点を大事に」

1、 前置き

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 山形は、昇格への望みを繋ぐために負けられない一戦であり、苦手な岡山を破り、可能性を繋ぎたかった一戦でもあった。昇格が消滅している岡山ではあるが、昇格の可能性があるある山形に対してでも、負けるわけにはいかない。岡山にとっては、消化試合ではなく、来季への戦いであり、意地がある。そう、意地と意地のぶつかり合いこそが、終盤戦の醍醐味である。

 とは言っても、昇格を争っての1戦にしたかったというのが本音。開幕前の日程を見た時に、痺れる終盤戦になる可能性もあると思っていたが、プレーオフがない以上、なかなか厳しい夢であった。ただ、今季が駄目であっても来季がある。そういった想いを継承して戦って来た岡山と山形の一戦を、メンバーからまずは、振り返っていきたい。

 岡山は、いつも4-4-2。19ミッチェル・デュークが、スタメンだが、代表のために試合後に離脱する。24下口 稚葉が連日のスタメン。14上門 知樹は、連戦での疲労を考慮してのメンバー外となった。26パウリーニョや15山本 大貴、22安部 崇士は、スタメン復帰。連戦の中日で上手く凌いで勝利した事で、良いチーム状態で、この試合を迎える事ができた。

 山形は、東京V戦からの1人の変更に留めた4-4-2。連戦を必要最低限の変更に留めた事に加えて、遠距離の移動で厳しい構成。この試合も28吉田 朋恭に代わり、6山田 拓巳がスタメン。チーム最多得点の9ヴィニシウスを軸として、中盤の多くの選手が得点を重ねている。チームとしても運動量と技術を融合した岡山の色に似た選手を中心としたメンバーの山形。

2、 最後の砦

 前半の岡山は、山形のポゼッションに対して、プレスで、前で嵌めて行くという事はできなかった。山形のポゼッションの特徴として、両SBが高く上がっていくという意志があっても、そこ一辺倒にならないという特徴がある。具体的には、右SBの31半田 陸は、少し上がりがちではあるが、左SBの6山田 拓巳は、積極的にビルとアップに関与していく。

 CHの選手が、降りてこない。GKが上がって加わらない。DFラインのみで、ビルトアップできるのが、山形の強みである。縦へのスピードこそ落ちるかもしれないが、その分ビルトアップの安定と、バランスは維持できるのも、このスタイルの強みである。岡山の2トップもプレスを積極的に仕掛けて、ボール奪取からのショートカウンターを目指したが、なかなかボール奪取できなかった。

 加えて岡山のプレスからのサイドへの誘導後も2CHの技術力が高いことも相まって、中盤でのボール奪取も岡山は、なかなかできなかった。山形は、中央で組み立てるというよりは、伝統的にサイドの縦のスペースを使い、そこからクロスでチャンスメークしていくというのに優れる。クロス精度とスピード共に山形は、高い水準にある。

 それにしても山形のビルトアップから攻撃の仕掛けまでのパス回しは、非常に丁寧である。チームとして工夫して、ポゼッション力を高めるというよりは、「動く・止める・蹴る」の三原則を忠実に遂行し、得点に繋がり易いサイド攻撃できる位置まで運ぶ形は洗練されていた。最後のクロスの質や、中でのシュートまで持っていく形までしっかり確立されていた。

 岡山としては、中盤より前でのボールの奪い処を見つける事が出来なかった前半であったが、ゴール前での集中力は高かった。マークもしっかりついて、コースに対してもしっかり塞ぎ、最後の所で、厳しく制限できていた。ゴールを割られなければ良い。そういった意志統一と、結束力から来る粘りが、今の岡山にはあると、感じることができた守備であった。

3、ゴールへの迫力

 今の岡山にとって、1点は大きなアドバンテージを持つことができる。この試合開始時点での8試合負けなしは、先制点が多い事も関係している。5試合先制で、3勝2分と負けなしである。先制されていても、粘り強く戦えており、3試合で追いつき3分けに繋げている。この山形戦でも、好調の攻撃で、どう得点を目指していったのかをこの項で、フォーカスを当てていく。

 前項の通り、岡山は、前から奪ってショートカウンターという攻撃は、山形のパスを繋ぐチーム力の前に、前半では、奪えなかったので、ほぼ出来なかった。ただ、今の岡山には、19ミッチェル・デュークというターゲットが存在し、裏へのパスを出せる48石毛 秀樹がいる。ロングカウンターで、山形の裏を狙って行くことができる。

 岡山は、持たれる時間が長く、シュートを打たれる所までの攻撃を許すことも多かったが、前線の2トップが「受ける・抜ける」の意識を高く持ち、機をうかがう事で、山形にプレッシャーをかけ続けた。山形は、ポゼッションとサイド攻撃を主体としている以上、ハイラインとSBが上がるケースが多く、そこを15山本 大貴が抜け出していく動きをみせて、19ミッチェル・デュークは、攻撃参加で、分散した守備選手の間(空間)のスペースで、受けるという事を徹底していた。

【公式】ハイライト:ファジアーノ岡山vsモンテディオ山形 明治安田生命J2リーグ 第38節 2021/11/7(1分27秒から)
は、こちら(別サイト:youtube)。
URL:https://youtu.be/UDBqQNUFUBg?t=87


 実際の得点もSBの上がったサイドレーンで受けた15山本 大貴が、後方から上がって来た48石毛 秀樹へ預ける。48石毛 秀樹は、右サイドのハーフレーンへ走り込んだ7白井 永地へのスルーパスを選択。15山本 大貴が、サイドレーンを突く動きで、マークを引き付けて出来たハーフスペースに走り込んだ7白井 永地が、スルーパスを受ける。そして、中へのクロスを選択するが、19ミッチェル・デュークは、軌道をずらすに留まるも、その奥に先ほどスルーパスを出した48石毛 秀樹が、飛び込み足を伸ばして、押し込んだ。

 悪い時の岡山は、攻撃の人数が足りない時が多かったが、2トップと、SH、CHの4人が絡んだ上に、ゴール前のセンターレーンに2人が飛び込むという迫力のある攻撃であった。囮となる動きと、そこを突く動き、密集地の先に飛び込む第3の動き。こういった攻撃の基本を忠実に行った事で出来たプレーであった。

 序盤の岡山は、同じようにスペースを突いても、ゴール前でマークを引き付けて潰れて、その先のフリーのスペースに飛び込む形が少なかった。スペースを使うまでは出来ていたが、感じのゴール前に侵入するプレーや、体を張るプレーが出来ていなかった。というよりは、そういったタイプのFWが不在であった事で、崩す形が出来ていても、シュートだけで、得点が増えなかった。

 そういった課題は、19ミッチェル・デュークと48石毛 秀樹の加入によって、順を追って解消された。その結果として、15山本 大貴と、7白井 永地が、このゴールシーンのような動きが、活きるようになった。序盤戦の14上門 知樹や20川本 梨誉のミドルシュートや、数少ないセットプレーの機会を活かしての得点パターンの良さも残しつつ、より攻撃は多彩となり、この試合を含め、9試合連続得点に繋がって、9試合負けなしという結果も手にすることができた。

4、一点の重み

 負けなしの原動力となった9試合連続得点について述べてきたが、ここからは、その1点をどう守ったのかについて、フォーカスを当てて行く。1失点以下の堅守に、1点以上の得点力を叩き出している事で、この結果は、当然と言えば当然の結果かもしれない。ただ、これは、驕りではなく、それが出来なかったシーズンだったからこそ強く感じている点である。

 1点リードして、後半に突入した岡山は、甲府戦のように、やや受ける守備を、余裕を持ってできるようになった。前半は、前からプレスをかけて、SHの所で、嵌めて奪いに行くという基本スタイルで入ったが、ここが巧く行かなかった。試合後に5井上 黎生人のコメントにあったが、どちらかと言うと、連動したプレスではなく、待って制限することで、引き付けて誘導していくことで、ボール奪取するという形に変更した。

 この変更により、山形のビルトアップからでも、中盤でのボール奪取する回数を増やすことができた。また、5井上 黎生人は、自分達で、こういった判断が出来なければならなかったとも語っている。確かに強いチームは、選手間の判断で、修正することもできる。選手交代を含めたシステムレベルでの修正が必要な場合は、監督で行う必要があるが、選手間で、修正できるのが理想である。

 また、この試合では、こういった守備の修正も良かった事もあるが、勝利の方程式である3バックにほぼ頼ることなく、逃げ切った。これは、CHの6喜山 康平の欠場の影響もあるが、9李 勇載や19ミッチェル・デューク、27木村 太哉といった推進力のある前線の選手を活かす狙いもあった。守勢ではあったが、後半は、加点のチャンスを何度か作る事ができた。

 そして、監督が追加点を獲れたら、もっと良かったとも語っているが、3バックを終了間際まで使わず、勝てた事で、追加点こそ奪えなかったが、新たな勝利の形として、勝ち点3に繋げられたことは、チームとしての対応力も含め、勝ち点3の可能性を高める事ができる強さへと繋がる。残り4試合となったが、その辺りにも注目したい。

5、後書き

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 上位との3連戦を2勝1分という結果を残せた事は自信になる。もし、このまま6連勝という結果を残す事が出来たら、主軸の19ミッチェル・デューク、14上門 知樹、9李 勇載、48石毛 秀樹、22安部 崇士といった選手達も残ってくれるかもしれない。31梅田 透吾は、来季の清水に権田 修一が残るかどうか、J1に残るかどうかの部分が大きいが、来季は、岡山でJ1昇格できる力があると思えば、残ってくれる可能性は高まる。

 それだけ、昇格やタイトルという経験や、連勝や負けない試合数の継続、上位のチームや格上のチームに勝つという成功体験とは、サッカー選手として魅力的で、サポーターだけではなく、良い監督、良い選手、良いルーキーを引き付ける。各方面の情報や、試合後の選手の表情を見ると、非常に充実しており、良い雰囲気だと感じる。

 この良い流れを断ち切らず、ファジアーノ岡山のサッカーファミリーとして、それぞれの立場として、来季に向けて、最大限の意志を繋げていく事で、来季こそJ1昇格という機運と、J1昇格に相応しい戦力を整えて、悲願を達成して欲しい。岡山は、終盤失速して終える事も多かったが、今季は、上位に勝てている。

 このままシーズンを終えた時に、内定の決まっているルーキーに、どれだけの戦力を維持と上乗せができるのかという期待を持つことができる。サッカー内容こそが、サッカークラブとしてのプレゼンテーションであり、もしJ1昇格が達成できれば、岡山監督最長タイの5季連続で有馬監督体制という事に繋がる可能性もある。

 本当に、どうなるか。前半戦で、岡山が勝てなかった相模原。残留争いをしていて背水の陣で来る相模原に、岡山がどこまで戦えるか。そして、昇格争いの当事者で、圧倒的な士気で向かって来る京都と長崎。そして、終盤戦の成績1位に近い千葉に対して、最終節で、どこまで戦えるのか。あと4試合だが、まだまだ見逃せない熱い試合が、残っている。今季も最終節まで、岡山のサッカーを楽しみたい。

文章・図版=杉野 雅昭
text・plate=Masaaki Sugino

ファジ造語

「ファンタジスタシステム」
 2トップに技術のある選手を据えて、中央にポジションをとる。中央を通そうとするパスコースを制限し、サイドへ出した所を狙う。そこを突破された後も、粘り強く守り、ボールを奪ったら2トップにボールを集め、技術のある選手が攻撃に移った時に、2トップの傍にいき、技術と創造性を活かして、ゴールに迫るやや攻撃よりの作戦。
「ミッチェルプレス」
 速さ・高さ・強さ・巧さ・持続力によって、19ミッチェル・デュークがプレスを繰り返して行く中で、攻撃的なMFが追随する中で、相手のパス回しの自由を大きく制限する。また、後方の選手もハイライン、中盤もコンパクトに保つ事で、高い奪取力を発揮する。ただ、チームとしての消耗も大きく、19ミッチェル・デュークの1トップ時しかできない作戦。
「勝利の方程式」
 リードした場面で、4バックから3バックにシステム変更し、重心を完全に後ろに置く分けではなく、中間に位置をとり、遊撃に専念しつつ、カウンターにより追加点を狙う。スペースを空けずに、岡山の守備時の集中力や献身性を活かし、守備にハードワークし、攻め手側のミスを誘発させて、時間を稼ぐことで、同点や逆転のリスクを小さくし、逃げ切る作戦。
「高低縦横の攻防」
 得点を狙う攻撃スタイルの属性の指標。9李 勇載と19ミッチェル・デュークが揃う事で、縦の攻撃と横の攻撃。どちらでも高い質の攻撃が可能となる。また、低い(グラウンダーの)クロスやパス、高い(浮き球)のクロスやパスの多彩な出し手も揃った事で、多彩な攻撃と柔軟性のあるチームスタイルが可能となった有馬ファジが目指す理想系の1つの形を感じさせる要素。
「守備は最大の攻撃」
 良い守備からの攻撃が主な攻撃パターンの岡山のチームスタイルを表現する言葉。岡山が意図した展開の時は、自陣でのプレー時間が短く、シュート数が多くなる。ただ、現状は得点まではなかなか繋げられず、攻撃は最大の防御と言えるぐらい質の高い攻撃ができない現状のチームが行き着いた勝負に徹する岡山の献身性が反映されたプレースタイルと言える。
「+1を作る3の原則」
 攻守のあらゆるプレーで、数的有利を効果的に作る事で、守備時にはスペースを空けない。攻撃時には、対応が難しい攻撃パターンを多彩化することで、守り辛くする。また、守備では危険なシーン自体を少なくするリスク管理、攻撃では、良い形を作るための迅速さ。こういった部分を最低でも3人で、そして第3の動きを強く意識したチームで戦う。

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自分の感じた事を大事にしつつ、サッカーを中心に記事を投稿しています。今後とも、よろしくお願いいたします。