2021ファジアーノ岡山にフォーカス45 J2:第41節:V・ファーレン長崎 vsファジアーノ岡山 「受動的vs能動的」
1、 前置き
有馬ファジは、この試合を終えた事で、残り1節を残すのみとなりました。この試合の勝利を受けて、磐田戦から始まった無敗を12試合と伸ばした岡山。千葉との無敗対決が、有馬ファジは、負けても勝っても有終の美を飾ることとなります。この長崎戦では、有馬ファジの優れている点と、長崎に勝てた理由と、後半戦に試合を動かせた理由についても、フォーカスを当てて行きたいと思います。
2、 個で勝負する組織
長崎のゾーンディフェンスは、ゾーンディフェンスのゾの字も知らなかった頃に、松田 浩監督が、著書を出すほどの第一人者であるという事を知ったが、岡山が組織的に戦えたこの試合だからこそ、長崎の松田 浩監督の目指すゾーンディフェンスの狙いが、今となって少しだけ理解できた。結論から言うと、組織で勝利を目指すというよりは、サッカーの本質である個の力で、勝利するというのを主眼としているのではないだろうか。
この辺りを、組織をどう考えるかではあるが、ゾーンディフェンスは、シンプルに言えば、エリアを決めて、守備の分担することで、隙を作らせない守備網を布くことで、堅守を構築することにある。言葉で書くと、簡単なようであるが、選手同士の距離感や、攻守での判断をチームとして、共有させるためには、ゾーンディフェンスに対しての造詣(ぞうけい)が深いことが必要である戦術である。
また、エリアを分担するという事以外には、明確な形を持たないことから、形にすることは、非常に難しい戦術でもある。しかし、松田 浩監督就任後の長崎は、息を吹き返したように結果を残して、上位まで浮上し、終盤まで、自動昇格の可能性を残した。その原動力は、どこにあるのか。それは、やはり、勝負を決定づける個の力である。
そう言える理由の1つとして、まずゾーンを分担するという事は、隙ができないが、チームの弱点を補うためのカバーよりは、個でしっかり対応するというのが、基本原則としてある。弱い所をカバーしあう岡山とは、まさに対極にあると言っていいだろう。この試合でも、岡山が、連動して前からボール奪取しているのに対して、長崎は、自陣での奪取が多かった。
この奪取の形として、岡山の攻撃でのミスプレーのように見えるシーンも、スペースを空けない事と、個で対応できる力と範囲が広いことで、結果的に岡山の選手のミスに見えるが、それは、長崎というチームの狙いである。ただ、先ほど話した通り、11人全ての選手が、高い個の力を持っているからこそできる戦術で、隙があれば、そこを集中して攻められてしまうリスクもある。
それは、攻撃でも同じことである。受動的な守備スタイルである以上、奪ったら誰かに預けるぐらいしか攻撃の形をもたない。決まった形を持たない以上、ボール奪取してもしっかりパスを繋いで運ぶというよりは、ある程度攻めさせることで、その隙をついていくことで、崩していくことで、得点を狙うスタイルである。
この試合であれば、お互いに中盤での攻防が激しく、シュートまで到達しなかったのは、やはり、アプローチこそ違うが、お互いにスペースを空けないという事を基本原則としており、我慢比べの前半戦となった。前半を見ただけでは、得点するのは難しいと感じる内容ではあったが、試合は動いた。次の項ではそこにフォーカスを当てて行く。
3、 勝負を分けた個の力
岡山が長崎からゴールを奪う事ができた理由。それは、やはり最大の理由は、9李 勇載がリザーブに控えていたという点である。五分五分の展開の所で、エースが出てくる。14上門 知樹が、ゴールを量産していても、エースは、9李 勇載だと表現したくなるのは、やはりそのプレースタイルにあるだろう。その存在が、後半に出てくるという事は、流れを岡山に引き寄せるには十分な材料である。
岡山の選手の並びをみただけでも、その強力さが分かる。14上門 知樹がシーズン途中からFWを任されるようになったが、本来はMFである。FWとして得点が求められていた15山本 大貴と18齊藤 和樹が、得点が遠かったことで、チャンスメークに特徴のある2選手から、得点力の高い14上門 知樹をFWの軸としてチームを再構築していく事で、得点力不足打破を図った流れから今のスタイルがある。
14上門 知樹が、FWより比較的ボールを持てる2列目であれば、ミドルシュートという武器を使いやすくなるだけではなく、FWでの経験で培ったキープ力や、岡山で伸びた奪取力といった部分をより、発揮し易くなる。岡山では、点を取る能力が評価され易いが、J1クラスであれば、どちらかと言えば、そのユーティリティ性が、評価されていても不思議ではない。
ゴラッソなミドルシュートでの得点を量産できるだけではなく、90分間献身的に守備する力。また、そのプレーを支える判断力。そして、チャンスメークする力を揃えている。1人いれば、スコアに応じた戦い方に対応できる。20川本 梨誉も近いプレーができるが、90分間は難しく、プレー強度や、安定感の部分でまだまだ粗削りである。
岡山のFWは、様々な守備のタスクが求められることで、なかなかゴールを決める事ができない事が多い。その岡山で、14上門 知樹は、既に13ゴール。10月では、J2での自身初の月間MVPを獲得。48石毛 秀樹と14上門 知樹というタイプこそ違うが、点が獲れる2列目と、最前線で体を張れる19ミッチェル・デュークと9李 勇載という4選手が、前線に揃う事で、岡山は、試合を動かすことができる。
終盤戦の大躍進は、この4選手が、全て揃う試合こそ限られていたが、この試合でも5分5分の攻防から、シュート数を見ても岡山が、主導権を持つことができた大きな理由の1つであるだろう。4選手のタイプに応じて、点を狙うプレーと、チャンスメークする事で、マークの分散で、大きなチームの武器で、個で相手を上回ることで、勝機を手繰り寄せてきた。この試合もその試合の1つである。
4、 個の力勝負に持ち込んだ組織力
9李 勇載を後半に送り出す時に、勝負できる状態を作れたのは、岡山の能動的な動きのできる組織力も大きい。ゾーンディフェンスという蜘蛛の巣に岡山の攻撃を絡めさせて、ボール奪取からの速攻で、一点突破による長崎の個の力で岡山の守備組織を突き破って、ゴール奪う。こういった90分間の流れを無視する一撃の鋭さと狙いを長崎は持っている。ゆえに岡山としては、それを発揮させない必要があった。
岡山の守備は、三手一組での能動的に近い守備組織を築き上げた。奪取→マイボール→縦に付ける。この流れセットで、高確率で完遂することで、「自陣でのプレー時間を短くする=相手のゴール前でのプレー機会を少なくする。」ということを、実現している。マイボールと縦に付けるというビルドアップまでセットで考えた守備組織。それが、岡山の堅守を支えている本当の鍵である。
そして、岡山の攻撃は、一転して明確な形ではなく、多彩なスタイルを持っている。ショートカウンター、パスワーク、ミドルシュート、裏への抜け出し、サイド攻撃、パワープレーなど、相手の弱い所を効果的な攻撃パターンを試合毎に変えて、攻略していく。このように岡山は、チームとして、明確な守備スタイルと、多彩な攻撃パターンにより、現有戦力を最大限生かして、今季のJ2の各チームに互角、もしくは、互角以上に戦えるチームとなった。
よって、この試合でも長崎の一撃必殺の発動を許さない守備の基本に忠実な対応をした上で、長崎の弱い所を選手が瞬時に判断し、個でゴールを窺う。9李 勇載と19ミッチェル・デュークという1人で仕事ができるCFを2人並べることによって、長崎のゾーンディフェンスの個の対応力の限界を、僅かに超える瞬間を作れたことで、ゴールが生まれた。そして、リードしてからも守勢だけにならないためのカウンターの姿勢を見せ続けることで牽制して、前半からの堅守を90分間維持する事に成功している。
ただ、0-1とでの僅差でのスコアである通り、長崎は強いチームであり、恐らく来季は、今季以上の戦力を揃えた上で、開幕から松田 浩監督が指揮を執る。そう、さらに強くなる長崎に、個で勝てる戦力。もしくは、個の力に対抗できる組織力を、有馬 賢二監督から岡山の想いを継承した後任の監督の方が、ベースを継承した上で、開幕から安定した組織力を発揮できるかは、現段階ではまだ不透明。そう考えると、少なくとも開幕戦や最序盤では、可能であれば対戦したくないチームの1つであることは間違いない。
5、 後書き(有馬監督に退任について)
ここまで、この試合の選手レベルでの攻防の細部までのレビューではなく、松田 浩監督のゾーンデュフェンスに対する大きな枠組みに対して、岡山が、どう上回ったのかというのは、大局的にフォーカスを当ててきた。ハイレベルな攻防であるが、マークの分散と、個の力での総力によって、岡山が、長崎を僅かに上回ったと解釈して差し支えない。
しっかり整備された組織と、そこに嵌る個の力が揃った時の強さというのを久々に見る事ができた。一方で、問題であったのは、メンバーが固定されつつある点。チームとして完成してしまうと、若手を起用する機会は減っていく。怪我というアクシデントをチーム戦術に組み込み、最高値を更新してきた有馬 賢二監督。ただ、完成しているからこそ、逆に弄り辛いのも事実。
長澤 徹監督の3~4年目というのは、メンバーの固定が顕著であり、有馬 賢二監督の率いる今季終盤の選手が、ベースと考えられる来季も恐らく、軸となる部分は大きな変化は出し難い。有馬 賢二監督であるならば、その辺り、巧くやって上積みしてくれるとは思うが、やはり昇格を狙うためには、アクシデントをどう防ぐかというのも大事な要素である。
そういった時に、同じ選手を起用し続けるメリットとデメリット。怪我だけでないとしても、チームとしての成長だけではなく、粗削りな部分も目立つ部分はあると思うが、そこをカバーしつつ、巧く起用していく事で、育成と結果を選手レベルでも起こしていく。そこが、有馬 賢二監督が、悪くなくて、むしろ良い方に入ると思うが、後任の方には、よりそこに強みを出していく方針の可能性は高い。
同時に、そういった思惑が働いての判断であったとも予測できる。来季も恐らく14上門 知樹の言葉を聞いても主軸が残ってくれる可能性も高かったが、もし7位やプレーオフという結果を残せば、もう一年となる。そこで、昇格となると過去最長の6年目という事となる。となると、チームの長期的視点となると、依存するリスクや主軸の高齢化などを含め、動きにくい部分が出てくる。
反町監督も松本時代もそういった意図がないとしても、選手と監督の信頼関係や、結果が出ている分、高齢化が加速したのだと思う。そう考えると、ビッククラブではなく運動量でカバーしていくチーム作りに定評のある監督で、フリーとなる可能性が高く、監督への意欲がある1人である木山 隆之氏や、似たタイプの現在フリーである渡辺 晋氏の両名のように、個を活かすだけではなく、組織的に戦えるチームを作れる両氏などを含め、そういった監督の方に声をかけるのもまた一定の理解も出来る。
ただ、退任が決まったこの長崎戦においても、26パウリーニョをアンカーに据えて、7白井と48石毛を前に据える新システムテスト。まだまだ限界ではなく、伸びしろのある采配ができている第一次有馬ファジが、千葉戦が最後となるのは寂しい。しかし、千葉戦で、勝利に加えて、無失点で終えることができれば、ホーム通算100勝とJ2での岡山の最少失点数を更新することで、ファジの歴史の中に有馬 賢二監督の名がより強く記録として、刻まれていくことに繋がる。
第一次有馬ファジの最終戦、記憶でも記録でも、今考えられるベストを尽くす。そういった試合になることは間違いない。千葉も無敗を維持し、来季に繋げたいと、士気も非常に高く、岡山のホームの力と、有馬監督への感謝の気持ちの総意が、試合の内容に、プレー1つ1つにどう還元されるか。京都戦以上の気迫が、プレーに出てくるだろう。京都戦の試合後の悔しさではなく、最高の笑顔で終えたいと心より願う。
試合後に強くて、もしかすると、解任という決定した強化部への不満や不安が溢れ出す方や、ただただ事実が、受け入れることができなくて、悲しくて、悲しくて泣いてしまう方、もしくは、有馬監督が、ファジの記録に残る結果を残せた時に、その余韻に浸る方。今は、勝つことしか考えていないが、これは、昇格が掛かってないからこそ、驕りではなく、有馬監督への感謝の気持ちから来るポジティブな思考という願望。
むしろ、私は、もうここまで来ると、どんな結果であっても最高の結末として、受け入れる準備と心の整理はできている。みんなで、感情を応援に乗せて、最高の空間、試合にしよう。そして、楽しもう。これが、私たちが愛したファジアーノ岡山、そして、有馬ファジへの感謝の気持ちの伝え方であると、私は思う。
繰り返しになるが、私は、「ありがとう。」という気持ちを監督に届けたい。その一心で、辛い気持ちを押し殺して、最終節を心から楽しみ。笑顔でセレモニーを終えたいと思っている。しかし、涙腺が緩むかもしれないが、笑って送り出せたらと思う。
そして、皆さんが、色々な形で、有馬監督や退団するGKのレジェンド1椎名 一馬選手への感謝の気持ちを伝えて行くと思うが、そこにどういったドラマがあり、感動的なものになるのか、正直予想がつかない。しかし、この日は、来季に向けて大事な一日になる。そして、ファジをより好きになる日になりそうな気がしてならない。
文章・図版=杉野 雅昭
text・plate=Masaaki Sugino
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