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時を計らない時計

初めてこの場所を賃貸として借りた時から時計があった。


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この時計、最初から壊れていた。

一度は、お客様が修理してくださったことがあったが、1ヶ月もたなかったと思う。電池をはめて電気が通電する金属の設置面がポッキリ折れていた。

「あの時計、店の方向性に合ってないよ」と何人かのお客様に言われて来た。

自分でもミスマッチなのは、分かってはいた。

気に入ってもいなかった。


時計を退けるとあの空間は、何か物足りなくなる。

有っても、ミスマッチ。

そのうちなんとかしようと思いつつ時間が過ぎた。

壊れた時計は、そのまま放置され、狂った時間に騙されるお客様が後を絶たなかった。いつしか「Tetugakuyaの時計は狂っている」がデフォルトになった。


8月19日に4周年目を迎え、5年目に入るにあたって、今後の進歩始まりに時計を変えることにした。

けれども、狂った時計があったところに、まともな時計を置いてなんになると言うのか。時間がまともに計れるようになるだけではないか!

時間に追われる現代人が、時間を忘れるような空間にせねばなるまい!

そこで美術家のカミイケタクヤさんに時を計らない時計の制作を依頼した。

もちろん「作品」として作ってもらうことにした。

8月17日カミイケタクヤさんから進捗状況を伝える写真が送られて来た。


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時計(ジャンク品)じゃん・・・。

気分的にかなり不安になった。

ジャンク品の昭和の時計をハンマーで叩いただけじゃん・・・。

などと、私はカミイケさんを疑ったりはしなかった。

断じて。

絶対に。

多分・・・。

18日前日カミイケさんから「明日持っていく」との連絡を受けた。


当日、見るからに重そうな額縁を抱えてカミイケさんが現れた。

額縁大好き人間の私としては、そのフレームのデザインを一目見るなり、すっかり安心してしまった。


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よく見ると鏡だったが、フレームの装飾が美しかったので、鏡である事には気がつかなかった。

もう、店主はご満悦状態だったのだ。

(なにせ、脳裏にあったのは、昭和の時計ジャンク品だった)

ただの鏡ではなく、これはマジックミラーらしい。

額縁を開くと中には細やかなアイテムが絶妙に配置され、別の世界が広がっていた。中には鏡があり、鏡に映ることで見えてくる景色もあった。

つまり、マジックミラーの向こう側にまたミラーがあるのだ。


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このマジックミラーの中には電球が仕込まれていて、光を得ると、ただの鏡が窓へと変化し内側の装飾が見えるようになるのだ。

なんて手の込んだ創りだろう。

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早速、作業してもらう。

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そうそう、この時計を外すと、丸い跡が残る。


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古きを捨て新しきを得る


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見る人には、不思議な「鏡」に見えるだろう


光が灯ると


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アンティーク調の鏡が、窓として開かれ内側に広がる世界が顔を表す。

私も梯子に登って、その世界を凝視した。

色々な角度から楽しめる。じっくり覗きこむことで次々に発見がある。

フレームの内側にはさらに鏡があり、鏡に映ることによってしか見ることのできないアイテムも隠れている。

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覗き込む角度を変えることで、見えてくるものが変化する。


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満足して、梯子を降りて、改めてカミイケさんの作品を見上げてみた。

距離が遠過ぎて中がよく見えない・・・。


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はっきり言ってこんなにディティールの細やかな作品を想定していなかった。

もう一度、梯子に登って覗き込んでみると見えてくるものがある。

梯子から降りると・・・・何か違う。


「ねぇ、ねぇ、これさ、ここに置くには勿体なさすぎる作品じゃないかな」


そう、この作品は、もっと近くでお客さんに見てもらいたい。

色々な角度から覗きこむ事によって見えてくる世界がある。

それに、照明をつけてしまったら、わざわざマジックミラーにした意味が・・・。

せめて、照明が5分単位で点滅するとか工夫しなければ、誰にもマジックミラーである事に気づいてもらえないじゃないか。

わざわざ、ガラス面にマジックミラーとしての処理を施した意味よ!!

できれば、この作品の良さを十二分に発揮できる場所に設置したい。

お客さんに覗き込んで色んな発見をしてほしいのに!!



・・・・カミイケさんは「仕事終わった」とばかりに帰っていった。





これは、来年もう一度、あのレンガのところに飾る新作を依頼して

今作品を下へ降ろしてくるしかない!!!



来年に続く・・・か?



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