見出し画像

子宮口が2.5cm開いたまま、働いていた

「産前はぎりぎりまで、産後はできることから、ブランクを作らず仕事を続けるつもりです」と、妊娠中からずっと言っていた。本当に、お腹が大きくなる前とかからずっと。一緒に働くひとたちはその気持ちを理解してくれていたけれど「とはいえ、いつまでできる?」「産後はいつから取材行ける?」って話になる。そして、誠に遺憾ながら、その質問にはっきりと答えられない。気持ち的には産む日の朝まで原稿書いてたっていいし、退院した翌日から取材に行ったっていいんだけど、いかんせんその“産む日”がわからない。出産に何日かかるかも、母子ともに健康であれるかどうかもわからない。急に穴を開けて取引先に迷惑をかけることだけはしたくないから、そのへんの調整には本当に気を遣った。

■産前の調整は、ひたすら誠実でいること

まず、何よりも心がけたのは“正直に相談をすること”。3月17日が出産予定日だったので、年明けくらいから依頼を受けるたびに事情を話した。それでも私に、と言っていただける場合には、とにかく前倒しで作業。当たり前だけど、余裕を持って進めていれば、うっかり途中で産まれても巻き返せる可能性が高い。3~4月にまたがるレギュラーの仕事には、万が一に備えて代理のライターさんを手配しておいた。もちろん「私がどうしても対応できない場合のみ、こんな実績のあるライターさんに代理をお願いしてもいいでしょうか?」というご相談つきで。でも、おかげさまでピンチヒッターを頼む場面はなかった。

ただし、取材仕事はもう少しシビア。なかなかアポが取れない方の取材で、当日インタビュアーがいない、なんて洒落にならない。だから2月以降は取材仕事をしないつもりでいたのだけれど、なんだかんだで臨月まで結構お受けした。でも、絶対に編集者が同行してくれる(最悪、私が行けなくても話を聞けるひとがいる)案件に限ったし、この頃には事情を知っているひとからの取材依頼はだいぶ減っていたように思う。

■仕事納めは出産前日

やり直しのきかない取材は減ったものの、打ち合わせの量は変わらず。最後の打ち合わせは、出産2日前。子宮口が3cm開くとだいたい1週間以内に産まれるらしいのだけど、わたしは3月頭の検診ですでに2.5cm開いていた。そこから2週間、子宮口ひらきっぱなしで働いてたわけです。(10cm開くと、つまり赤ちゃんの頭が出てきはじめる)

毎日作業するレギュラーの仕事が終わったのは、3月14日。ラストの原稿締切が3月15日。いったん仕事がすべて手から離れ、それまでは「予定日まで待ってくれ~!」と言い続けていたお腹に「よし、もういいよ!」と合図を出した翌16日、我が子が生まれてきたのでした。

■仕事始めは出産当日

無事に子どもを産み終わってiPhoneを見たら、数日前に納品した原稿についてフィードバックが来ていた。それを整えてメールしたのが、その夜、産院のベッドの上。横では、産まれて数時間しか経っていない赤子がすやすや寝ていた。なので、出産による仕事のブランクはなかったとも言えるし、厳密に言えば27時間くらいはあったかもしれない。ちなみに産後初の締切は、出産5日後でした。

取材復帰は、出産からちょうど1ヵ月後。たまたま土曜日だったので、子どもは夫に見てもらえた。本格的な復帰に備えてベビーシッターを試したのが産後3週間くらいだったので、もっと早く依頼があればもっと早く復帰した気もする。でも、さすがにみなさん気を遣っていただいたのか、大きな依頼はありませんでした。

■本当に、人事を尽くして天命を待つしかない

私が自分の希望どおり、ほとんど休まず仕事ができたのは、完全に運がよかったからです。強い思いはあったけれど、そんなもんじゃどうすることもできない、天に任せるしかないのが妊娠・出産。私は、お受けした仕事を滞りなく納品できるまで、たまたま元気でいられた。たまたま出産日と締切が一本もかぶらなかった。たまたま母子ともに健康だった。たまたま産後の経過も順調で、子どももよく眠って、母乳も問題なく飲んで、作業時間が取れた。本当に、数え切れない幸運を積み重ねて、自分のやりたいことができているなと思っています。

でも、ひとつだけ胸を張れるとしたら、人事を尽くした自信はある。取引先とは誠実にコミュニケーションを取ってきたし、前倒しもスケジュール調整も、迷惑をかけないようにできるだけの注意を払った。産後すぐに復帰できるよう、妊娠中からベビーシッターの登録作業を済ませていた。「ブランクをつくらずに仕事をしたい」という気持ちを、丁寧に周りへ伝え続けた。
人事を尽くして天命を待つって、いい言葉だなと思う。もし、同じように悩んでいる方がいるなら、そのひとにも良き天命があることを、心の底から祈っています。

Photo: 妊娠7ヵ月に入ったころ、フォトグラファーのお友達 Sang-Hun LEEに撮ってもらった。まだ妊娠線が入る前のお腹

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?