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【修士論文ができるまで】大学院の研究ってどんな感じなの?

会社や高校の友人など大学院に通ってない人から
「大学院生って普段何してるの?」
「研究ってどんなことをしてるの?」
「よく分からないけど論文書くのって大変そう」
などさまざまなことを言われます。確かに大学院に行ってない人、特に理系でもない人にとっては、”大学院”だとか”研究”と言われたってピンとこないですよね。
そこでこの記事では大学院のメインテーマである学位論文がどのようにできるかを解説したいと思います。
ちなみに筆者は修士課程で卒業しているので修士論文に関して書きますが、博士課程はその上位互換だと考えてください(プロセス自体はそう変わらない)。
大学院について気になる人や、これから進学を考えている人に少しでも参考になれば幸いです。

(大学院に関する他記事は以下を参照ください)




学位論文(修士・博士論文)とは

そもそも学位論文とは、学位(修士号・博士号)を取得するために作成する論文を指します。
大学によって違いはありますが、ほとんどの場合で学位論文の承認が学位授与の必須条件です。つまり、論文を書かなければ卒業できません。
学位論文は指導教員が論文の内容を確認した後、「論文審査会」を通過することで授与されるのが一般的です。
この審査会では学内の教授陣に向け自分の研究成果を発表し、その内容が学位授与に値するかを参加者が話し合って最終的な評価が決まります。審査会については後ほど詳しく解説します。

ちなみにこの学位論文は世間的にイメージされる論文とはやや異なります。特に修士論文は研究者からすれば穴が多いと感じられるでしょう。
いわゆるプロの研究者が指す論文は「投稿論文」と呼ばれるものです。出版社に自身の研究論文を投稿し、厳しい審査を通過したものが雑誌に掲載されます。
この投稿論文をいかに多く出しているか、そしてそれが世の中にどれくらいのインパクトを与えているかが、研究者のステータスの一つです。
投稿論文を出して初めて研究者としての第一歩を踏み出せるといっても過言ではないでしょう。
優秀な学生や研究分野によっては修士課程の間で論文を投稿することもありますが、多くの学生はそこまではたどり着きません。ただ修士論文がクオリティの低いものかというとそうでもありません。
修士課程の卒業はいわゆる「セミプロ」くらいの認識になります。
ちなみに博士課程はプロといっていいでしょう。その分論文審査会も非常に厳しい目で見られます。(修士と博士は世界が違う)

修士論文がどのくらいのレベルかをまとめると、「プロの研究論文には及ばないが、一般的な作法にしたがって基本的な学術的知識や論理的な文章構成が認められる論文」といったところでしょう。


修士論文ができるまで①:研究計画の立案 (モチベは高い)

まずはどういう研究を行うのかや、おおよそのスケジュール感などを考えます。進学したてなので、やる気に満ち溢れてモチベーションの高い時期。
修士課程では学部時代の研究をそのまま発展させることがほとんどです。そのため、これまでやってきて見つかった課題や足りないデータを補って、より充実した研究結果を出す方法を考えていきます。

卒論と違う部分はこの研究計画の立案に関して、自身の裁量が大きくなることです。卒論では指導教員がある程度計画や方向性を作ってくれますが、修士では学生で研究課題を見つけ、それを達成するためのスケジュールを練っていきます。
より主体的に取り組んでいかないと時間がたってから
「何の実験をすればいいの?」
「研究進捗の発表があるのにデータが全くない」
なんてことになるでしょう。

ただ計画通りに進むことなんてほとんどないので、トライ&エラーでやってくしかないのが実情です。


修士論文ができるまで②:文献調査・予備実験(面倒だけどまだやってける)

研究の方向性が決まったら、それを遂行するための方法を考えていきます。
その初手が「文献調査」、多くの論文を読み先行研究を調べることです。
これがまあ、めんどくさい!(笑)
基本的に論文は英語なので内容を理解するのも最初は時間がかかります。かといって頑張って読んだ論文で自分が知りたかったこと、研究に生かせそうな情報が得られるかは分からない。
検索するときは色んなキーワードを試してみる。良さそうな論文が見つかったら、その論文で引用されている論文を調べるという感じです。

ただこの文献調査はめちゃくちゃ大事な作業です。論文を読んでる人と読んでない人では、知識の量や引き出しが全く違います。
非常に面倒な部分がゆえに、学生間のレベルの差ができやすいポイントの一つです。

そんなこんなで論文を調べながら、自分の研究に使えそうな情報を集めていきます。そしてその方法が本当に利用できるかを検証するのが予備実験です。
こうした作業を積み重ねて研究の方向性を固めていきます。


修士論文ができるまで③:データ収集【試料採集・実験・野外調査など】 (ここで病む)

ここまでで研究の方向性を決めてから本格的なデータ収集が始まります。
一般の人が思い浮かべる「研究者」っぽい作業です。ただ実際はとても地味な作業ですよ(笑)
ひたすら単調な作業を繰り返すことや、機器分析をしている人は機械の故障やらメンテナンスやらに追われることだってあります。
その割にうまく結果が出ずやり直しになったり、また計画を練るところからやり直しになることも定番です。

このフェーズでモチベーションを維持するのが大変なんですよね。
計画を練ってるときは「こんな結果が出たら面白そうだな」というワクワク感があり、結果がうまく出ればその後の解析や論文としてまとめるところも苦しくはないです。
ただこのデータを集めるところで思うように実験が進まなかったり、変なデータしかないとなると精神的にはかなりダメージがきます。

私自身も修士の頃は機械トラブルで分析が全然進まずデータが全くたまりませんでしたし、それによる焦りも少なからずありました。
ただこの時期は愚直に作業を進めていって、少しずつでも前進していくしかないとも言えます。


修士論文ができるまで④:データ解析 (沼にハマると発狂)

集めたデータから何が分かるかを考察していきます。ここも非常に難しい作業であり、研究の成果に直結する部分です。
よく陥りがちなのが「傾向や相関は見えたけど、結局どういうことなん?」というやつ。そして沼にハマって戻れなくなる。
仮説通りの結果がでればそれでいいんですが、そんなことはあまりない。
加えてよく分からないところに強めの相関がでて解釈を難しくします。
このあたりを上手く整理しないと「この研究で何が分かったのか」という結論がぼやけてしまい、良い研究とは言えないでしょう。

ただ勘違いしてはいけないのは、仮設に反する結果やうまく結果出なかったかたといってその研究はダメだったとか意味がないわけではありません。
大事なのはなぜその結果になったかということ。
それさえ分かれば次の研究に活きるし、そこで面白い結果が得られれば決して無駄にななりません。

そしてデータの考察で必要なのは論文を読むこと!(また出たよ)
過去の研究を参考に、自分の結果をうまく解釈できるか検討していきます。ここでは様々な角度からデータを解析する必要があるため、必然的に読む論文のジャンルも多様です。
この作業を頑張れると最終的な研究成果に深みが出て、論文としてもクオリティも一段上がるでしょう。


修士論文ができるまで⑤:論文執筆 (地獄)

最終的に研究結果を論文としてまとめていきます。修士課程のラストスパートであり地獄の始まりです!

文章を書くこと自体はいいんですよ。自分でそれまでの研究をしっかりやっていれば知識や経験に基づいて案外スラスラと書けちゃいます。
ただ教員に添削を出すと大抵真っ赤になって返ってきます。
そして修正した文章を生成してくれればいいんですが、
「ここの表現は正しくないと思います」
「もう少し分かりやすい内容にして下さい」
「説明が不十分です、もう少し調べてみて下さい」
といった感じのコメントが大量に残されていく。。。

そして気が付いたら締切が近づいてくるんですが、教授ってそんな状況でも構わずダメ出しだけしていくんですよね(笑)
で、大抵1週間くらいろくに寝れない日々を送り満身創痍でなんとか提出するというのがお決まりの流れです。


修士論文ができるまで⑥:修論審査会での発表 (処刑)

研究発表という名の公開処刑。
冒頭でも話したように、修士論文はプロの研究者から見たら穴の多い研究です。それを教授陣がよってたかって鬼詰めしてくる場になります。

もはや研究成果を上手く伝えることよりも、質疑応答の時間をいかに耐えしのぐかが焦点です。そのため仲間内で発表練習をし、想定質問を考え理論武装を固めて立ち向かっていきます。そしてあっけなく打ちのめされる。
うろたえたら終わりです。どうしようもなくなったらそれっぽいことを堂々と言ってしまいましょう。(終わった後指導教員には文句を言われます)

ただよほどのことがない限り落とされることはありません。修士号取得のための通過儀礼とでも思っておきましょう。
こうして晴れて修士号を取得し卒業です。(おめでとう!)

まとめ

ここまでが大学院に入学してから卒業するまでの流れです。

  1. 研究計画の立案

  2. 文献調査・予備実験

  3. データ収集

  4. データ解析

  5. 論文執筆

  6. 修論審査会

実際にはこの番号通り進むことはなく、進んでは戻っての繰り返しです。
そしてこの間に授業やゼミ、学会、人によっては就活があります。
そのため修士課程の2年間思った以上に忙しくあっという間です。ただ、もちろん得られるものもたくさんあります。
私自身も修士課程の2年間で大きな学びを得られ、その経験は就職してからも大いに役立っています。
これから大学院での進学を考えている方や、今まさに院生の人はぜひこの試練を乗り越えてほしいなと思います!(笑)

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